「0019」 翻訳 イランの新しい帝国主義 イランをどう捉えるか 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2009年4月3日


 「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。本日はイランについての論文をご紹介したいと思います。2009年3月31日に、オランダ・ハーグで、アフガニスタンに関する国際会議が開催されました。以下に、その記事を転載貼り付けします。

(転載貼り付けはじめ)

時事ドットコム
非軍事面で支援強化へ=アフガン国際会議−オランダ
【ハーグ31日時事】アフガニスタンに関する国際会議が31日、オランダ・ハーグで開催された。8月に予定されているアフガン大統領選を成功させるため、国際社会として経済・社会基盤の整備、独自の治安維持能力の向上、麻薬対策など非軍事面での支援を強化する姿勢を明確にした。

クリントン米国務長官は大統領選に向け、4000万ドル(約39億円)を拠出すると表明。欧州連合(EU)のフェレロワルトナー欧州委員(対外関係担当)も、6000万ユーロ(約78億円)を新たに供与する方針を明らかにした。

中曽根弘文外相は、2002年以降、日本が総額17億8000万ドル(約1750億円)を支援してきた実績を説明。大統領選に向けた治安改善のため、今月、約3億ドルを拠出したことも強調した。その上で、「今後は治安改善、政治プロセス・和解促進、経済発展の基盤整備・人材育成の3分野で支援を行っていく考えだ」と述べた。(2009/03/31-23:56)

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009033100702

(転載貼り付け終わり)

 古村治彦です。

 この会議では、アフガニスタンの復興や治安に関して話し合いが行われました。しかし、この会議が重要であったのは、アメリカとイランの外交関係の高官が接触を持ったことです。以下に記事を転載貼り付けします。

(転載貼り付けはじめ)

NIKKEI NET  2009年4月1日

米とイランが非公式接触、アフガン安定へ協調始動 閣僚級会合
【ハーグ=瀬能繁】国連が主催し、アフガニスタンの安定に向けた支援策を話し合う閣僚級会議が31日、オランダ・ハーグで開かれた。出席したクリントン米国務長官は記者会見で、会議の会場でホルブルック特別代表(アフガン・パキスタン担当)がイランのアホンザデ外務次官と「短時間だが誠意ある意見交換をした」ことを明らかにし、今後も連絡を取り合うことで合意したと語った。

オバマ米大統領はこれまで敵対してきたイラン側に関係改善と対話の強化を呼び掛けてきた。これに応じる形でイランは会議に参加。アホンザデ外務次官は記者団に対し、アフガンで深刻化している麻薬の対策について「全面的に参加する用意がある」と明言した。

ただ両国の関係改善が急速に進むかどうかは不透明。同外務次官は「外国駐留軍の増強は効果がないことが明らかになるだろう」とも強調し、アフガンでの米軍の増派をけん制した。(07:02)

http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090401AT2M3102N31032009.html

(転載貼り付け終わり)

 古村治彦です。

 ブッシュ政権下、イランは「ならず者国家」の1つでした。ブッシュ政権の外交政策を担った、ネオコン派は、イランを不倶戴天の敵とみなし、政府転覆、体制転換を目標としていました。オバマ大統領は、大統領選挙の公約として、「ならず者国家」とでも対話を行う、と言っていました。今回の国際会議での接触はその第一歩となります。

 そうした動きをけん制するかのように、今回の論文は3月30日付で発表されました。筆者のロバート・ベイヤー(Robert Baer)はCIAの中東担当のエージェントです。ベイヤーの論文の主旨は、「イランは危険だ。イランは帝国主義的野望を持っていて、中東地域を支配しようとしている」というものです。このベイヤーの、CIAの主張が、この時期になされたことが重要です。

ロバート・ベイヤー

 CIAは、オバマ政権の対イラン政策には反対していることがこれで分かります。アメリカ政府内に、対話派と衝突派と2つがあるようです。オバマ大統領が公約通りの外交政策を遂行するには困難が伴うようです。

それではお読みください。

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The National Interest
「ナショナル・インタレスト」誌

Iran’s New Imperialism
イランの新しい帝国主義

by Robert Baer
ロバート・ベイヤー

03.30.2009


 イラン(Iran)は、拡大を続ける、という戦略を採っている。彼らの戦略とは、他国で紛争・衝突を引き起こすことで力を伸ばし、ペルシア湾岸(Persian Gulf)産の石油をコントロールする、というものだ。イランは、ペルシア湾沿岸諸国に触手を伸ばし、帝国として膨張しようとしている。イランはそのための、手段、意気込み、そして好機を全て手にしているのだ。

 イランは、石油を支配することで帝国になることを意図している。石油を基にした帝国の誕生は世界初の出来事である。イラン政府は、石油が自分たちにとって生命線であることをよく理解している。イランが主張している石油埋蔵量と実際の埋蔵量のギャップは大きくなっている。そして、イランは、自国内から産出される石油が10年以内に枯渇する可能性があることを認識している。石油がない、もしくは石油からの収入が見込めないということになると、イラン国内の情勢は一気に不安定化する。そして、彼らの野望は雲散霧消してしまうだろう。国内の石油需要を満たすために、イランは、近い将来、どこかに良いターゲットはないかと見回し、サウジアラビア(Saudi Arabia)を乗っ取りのターゲットにするだろう。サウジアラビアは、豊富な石油埋蔵量を誇るが、政府の機能が脆弱である。

 イランによる他国の乗っ取りは、困難なことではない。イランはペルシア湾岸の国々をターゲットとして狙うことができる。一つには、ヒズボラ(?ezbollah)を使うことである。ヒズボラは、イランの支援を受け、その強い影響下にある。ヒズボラは、ペルシア湾岸諸国の国内での騒乱や石油生産の遅滞を引き起こす能力を持っている。ペルシア湾岸諸国の国民の90パーセントはシーア派(Shiites)であり、そうした国々に石油が多く埋蔵しているのである。ペルシア湾岸地域のシーア派の人々に対して、イランは影響力を強めている。そうした国々の支配層は、スンニ派であるため、イランは、ミサイルを一発も発射することなく、ペルシア湾岸地域の国々の政府に脅威を与えることができるのだ。2003年のアメリカイラク侵攻以降、イランは、イラク国内のシーア派の信仰拠点がある都市、特にナジャフへの影響力を強めてきた。その目的は、ペルシア湾岸諸国に住むシーア派の人々に対し、イランが、イスラム教シーア派の信仰拠点の全てを支配している、ということを示すことであった。イランの拡大主義的な野心が達成されてしまうと、ペルシア湾岸諸国の人々は、レバノンがそうであるように、イランの支配を受けるようになってしまうのだ。

 更に、イランは軍事的な脅威をペルシア湾岸諸国に与えている。アメリカのイラク侵攻後、アメリカとイランの対立は激化した。イランがアメリカ、もしくはイスラエルと衝突した場合、イランは湾岸諸国の石油輸出を妨害することは間違いない。イランはホルムズ海峡を封鎖するか、湾岸諸国の石油生産施設を破壊することによって石油の輸出を妨害することになるだろう。湾岸諸国はイランからのミサイル攻撃に対抗する手段を持っていないのが現状だ。アラブの諸国家は軍事的に脆弱である。彼らはイランに対抗することができない。忘れてはならないこと、それは、イランが、ペルシア湾岸地域における、唯一の地域大国である、ということだ。アメリカがペルシア湾岸地域に駐留する米軍を削減したら、イランは、湾岸諸国に対して、イランの覇権を受け入れるよう、脅迫するだろう。アメリカ軍がいなければ、イランの動きを止めることはできないだろう。

 最悪のシナリオは、イランが実際に帝国主義的な野望を成就させてしまうことだ。そのシナリオは次のようなものだ。バーレーン(Ba?rayn)が最初のターゲットなり、イランのコントロール下に入る。バーレーンが支配下に入れば、その他の国々もイランの支配下に入ってしまう結果になる。バーレーン国民の70パーセントは、シーア派である。イランがバーレーンをコントロールするのは簡単で、イランがバーレーンのシーア派組織に命令するだけだ。つまり、その組織にクーデターを起こさせ、王制の終了を宣言させ、バーレーン軍と共に、新しい「正統な」政府を作るように仕向ければよいだけなのだ。

 他のペルシア湾岸諸国でも同じことが起きるだろう。それらの政府は民衆からの人気がなく、軍事的に脆弱だ。1970年代、王制下のイランは、アラブ首長国連邦から3つの島を奪った。この時から状況は変わっていない。こうしたことを考えると、何が起きるかは簡単に想像がつく。もしアメリカとイランの間で紛争が勃発したら、イランはアラブ首長国連邦(United Arab Emirates)を支配しようとすることは間違いない。イランの軍事力に、アラブ首長国連邦は脅威を感じている。2008年2月、ドバイ首長で、アラブ首長国連邦の首相の、モハンマド・ビン・ラシード・アルマクトウムは、イランに従うことを表明した。彼は、ドバイは、アメリカがイランを攻撃する際に結成するであろう同盟には参加しないと述べた。アラブ人の多くが、この声明を、アラブ首長国連邦のイランに対する降伏宣言と捉えた。

 ペルシア湾岸諸国の油田はいつ襲ってくるか分からない危険と隣り合わせなのである。ホルムズ海峡で、タンカーを数隻沈められてしまえば、1日1700万バレルの石油が、世界に供給されないことになる。そうなると、アメリカ国内のガソリン価格は、1ガロンあたり10ドルから12ドルに高騰してしまう。アラブ首長国連邦は、そうした懸念から、ホルムズ海峡を迂回することができる運河の建設を提案している。

 今まで見てきたいくつかのシナリオは悪いものばかりだが、実際に起こる可能性はかなり低いことが救いだ。しかし、イランは、帝国主義的戦略を実行しつつある。イランは、中東各国のシーア派組織を使い、人々を煽り、石油輸出ができないようにすると脅し、古典的なゲリラ戦術を使うなどしている。

 我々は、「イランの帝国建設の試みは成功する」と考えねばならない。

 

ロバート・ベイヤー:CIAの元エージェント。中東地域で21年間にわたり活動。著書に『私たちの知る悪魔:超大国イランに対処するには』(クラウン社、2008年9月)

 

(終わり)