「0023」 論文 北朝鮮ロケット発射後の日本の動き―「ミサイル詐欺」に引っかかる日本 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2009年4月8日
「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。本日は、北朝鮮がロケットを発射した後の、日本国内の動きで、重要だと思われるものをご紹介したいと思います。
2009年4月5日、北朝鮮が人工衛星搭載のロケットを発射しました。そのロケットは、日本を飛び越え、太平洋に落下したようです。人工衛星の打ち上げは、失敗に終わったようです。このロケット発射に関し、政治家たちやマスコミは、その危険性を散々煽りました。あれは、ミサイルなのだ、テポドンなのだ、と。
しかし、私が驚いたのは、北朝鮮のロケットの形状が、打ち上げ施設も含めて、日本がいつも打ち上げているロケットにそっくりだったという点です。形が似ているのであれば、日本のロケットだって、「ミサイル」に転用できるはずです。宇宙の軌道に打ち込むか、他国の領土に打ち込むか、の違いであると思います。
今回の衛星搭載のロケットは、打ち上げに失敗したら海に落ちました。これがどこかの領土に落ちたら、ミサイルです。ですから、日本もこれまで散々、ロケットを打ち上げてきました。それだって、「ミサイル」の発射実験・訓練だったのだと思います。軌道に乗せるより、「わざと失敗して」、他国の領土に落とす方が簡単でしょう。
そして、北朝鮮のロケット発射後、日本では、いくつか北朝鮮との対立を煽る動きが出てきました。北朝鮮のロケット発射後、日本政府は、北朝鮮に対し、経済制裁の期限延長を決定し、国会では賛成多数で北朝鮮を非難する決議が可決されました。また、国連安保理に対し、北朝鮮への新しい決議案を出すように働きかけています。(これらの動きの報道は、朝日新聞のウェブサイト上にある、北朝鮮関連ニュースにまとめられています。URLは、http://www.asahi.com/special/08001/ です。)
しかし、日本一国だけの経済制裁があまり実効性を持たないことは明らかです。日本がいくら経済制裁だ、と息巻いて、「何もくれてやらないぞ」と言っても、北朝鮮は立派なロケットを打ち上げました。北朝鮮は弱ってなかった訳です。
また、中国やロシア国境から品物が密輸でもなんでもして入ってくるのです。中国もロシアも困った従属国であるな、と思いながらも、北朝鮮をこのまま守る意思を持ち続けています。日本だけが騒いでいても、他国はしらけているように思われます。日本の味方をしてくれるはずの、アメリカも、北朝鮮には今のところ、関わりたくないでしょう。
そうした中で、自民党内では、アメリカに対する不満と、日本の核武装・国連脱退が公式の場で話されました。以下に転載貼り付けをします。
(転載貼り付けはじめ)
「ライス前長官ら弱腰だった」 自民・細田氏、北朝鮮対応で
産経新聞 2009年4月7日
自民党の細田博之幹事長は7日の総務会で、北朝鮮の核問題をめぐるライス前米国務長官と6カ国協議米首席代表を務めてきたヒル国務次官補を名指しし「弱腰だった。やり方が間違っていた」と強く批判した。与党幹部が米国高官の名前を挙げて厳しく問題点を指摘するのは珍しい。
6カ国協議で得られたこれまでの成果に関し「核施設の冷却塔を爆破しただけだ」と述べ、進展はほとんどみられないとの認識を強調。「核爆弾をどれだけ保有しているかも、ウラン濃縮がどこまで進んでいるかも明らかでない」と述べ、米国の対応の“甘さ”が北朝鮮を増長させているとの見方を示した。
これに先立つ役員連絡会では、ミサイル発射後の日本政府の対応に関し「危機感が足りない」と述べ、北朝鮮による核放棄実現へさらに圧力を強めるよう主張。出席者からは「日本も核を持たざるを得ないという気持ちで取り組むべきだ」との声が上がった。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/240313/
(転載貼り付け終わり)
(転載貼り付けはじめ)
自民・坂本氏「日本も核を」 党役員連絡会で発言
朝日新聞 2009年4月8日
自民党の坂本剛二組織本部長が7日の党役員連絡会で、北朝鮮のミサイル発射について「北朝鮮が核を保有している間は、日本も核を持つという脅しくらいかけないといけない」という趣旨の発言をしたことが分かった。出席者によると、坂本氏は国連安全保障理事会で日米が唱える新たな決議の採択が難航していることにも「国連脱退くらいの話をしてもよい」との考えを示したという。
坂本氏は8日、朝日新聞の取材に対し「日本は国際社会に対して国連を脱退するぞ、核武装するぞと圧力をかけるくらいアピールしないとだめだという例えで言った。現実に日本が核武装できないのは知っている。私は核武装論者ではない」と話している。
自民党の細田博之幹事長は同日、朝日新聞に「誰も本気で言ったとは思っていない。核武装できるとも思っていない。特に問題視はしない」と語った。河村官房長官は記者会見で「非核三原則をもった国としてそのような選択肢はあり得ない」と述べた。
日本の核保有については、06年に自民党の中川昭一政調会長(当時)が「核があることで攻められる可能性は低いという論理はあり得るわけだから、議論はあっていい」と発言。麻生外相(当時)もこれを受けて「他の国は(核保有議論を)みんなしているのが現実だ。隣の国が持つとなった時に一つの考え方としていろいろな議論をしておくのは大事だ」と述べるなど、論議を呼んだことがある。
http://www.asahi.com/politics/update/0408/TKY200904080166.html
(転載貼り付け終わり)
自民党内のこうした動きは、アメリカのネオコン派(Neoconservatives)の主張と通じるものがあります。北朝鮮問題を話し合いで解決しようとしたライス元国務長官に対して、ネオコン派のボルトン(John Bolton)元国連大使は、直接的な制裁を主張していました。しかし、アメリカには、北朝鮮にまで派兵したり、ミサイルを撃ち込んだりする力も意志もありません。
ジョン・ボルトン(ネオコン派の一人) 坂本剛ニ
日本の核武装よりも、問題は、国連脱退の話が唐突に出てきたことです。ネオコン派は、国連を軽視し、新しい国際組織を作ろうと主張していました。しかし、現在のオバマ政権は、大物の、スーザン・ライス(Susan Rice)を国連大使にして、国連を使っていこうとしています。坂本組織本部長の発言は、オバマ政権の方針に反するものです。
スーザン・ライス
情けないのは、細田幹事長の発言です。自国の安全保障に関して、他力本願な発言をすることは、「私たちは無能です」と公にしていることになります。「アメリカと協力していた私たちも甘かった」と言うなら、まだしも、つい先日まで、官房長官であった政治家の発言として不適当であると思います。
この北朝鮮のロケット発射に関連し、アメリカ絡みの動きが、日本国内で早速なされています。それについての記事を以下に転載貼り付けをします。
(転載貼り付けはじめ)
安倍氏が民主・前原氏らと訪米へ
時事通信 2009年4月7日
自民党の安倍晋三元首相が、民主党の前原誠司副代表とともに14日からワシントンを訪問する予定であることが7日、分かった。海洋政策をテーマにしたシンポジウムに出席するほか、安倍氏は米シンクタンクで講演する方向で調整している。林芳正前防衛相らも同行し、19日か20日に帰国する予定。 (了)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009040700986
(転載貼り付け終わり)
安倍晋三 前原誠司 林芳正
安倍、前原、林という親米、タカ派、防衛の知識しかない議員たちが、どうして、「海洋政策」をテーマにしたシンポジウムに行って、下手な英語でスピーチをする必要があるのでしょうか。海上自衛隊の海外派遣について、何かお達しを、アメリカ側から受け取るために行くのでしょうか。
それにしても、タイミングがどんピシャリです。北朝鮮のロケット発射の直後、「日本は危険と隣り合わせだ」という主張が散々なされて、人々の不安を煽っているこの時期、アメリカに顔の利く人々が偶然、ワシントンに行くのです。迎撃ミサイルを買わされるのでしょうか。役に立たないミサイル防衛システムに何兆円も取られるのでしょうか。彼らは、なにかしらの請求書を持って帰ってくることでしょう。
今回の北朝鮮の人工衛星搭載ロケットの発射は、アメリカからの情報によって、危機感を煽られてきました。アメリカの軍事衛星が捉えた写真が、日本のニュース番組でも何度も放映されました。軍事衛星が撮った写真は最高機密であるし、外交交渉の切り札になるものです。リチャード・ニクソン(Richard Nixon)が、毛沢東(Mao Zedong)に、中ソ国境に展開しているソ連軍を捉えた衛星写真を見せたことは有名な話です。そんな大事なものがどうして、日本のメディアに流されたのか、それはアメリカ軍、アメリカ政府を動かす人々の意図があったからです。
ニクソンと毛沢東
今回のロケット発射は、ミサイル実験であると言えばそうです。しかし、全ての国のロケット発射は、ミサイル実験になるのであって、北朝鮮のロケットだけが特別ではないのです。ですから、いちゃもんをつけようと思えば、日本のロケット発射だってミサイル実験なのです。アメリカはこれを利用し、日本を脅そうとしているのではないかと思います。
「日本の防衛はどうするのですか。日本だけでできますか。できませんね。アメリカ軍がいなくてはいけませんね。だから、お金を出してくださいね。そして、アメリカ軍にいろいろと言いそうな、小沢一郎を首相にしてはいけませんよ」これが、アメリカの考えでしょう。また、アメリカ軍の駐留経費の日本負担を増やすことや、ボーイングや、ダグラスマクダネル製の武器を日本に買わせようという、一種の景気浮揚策(需要創出)をしているのだと思います。
もっとうがった見方をすれば、アメリカは、日本の危機感を煽るために、北朝鮮にロケット発射をさせた、もしくは許可した、のではないかとも考えられます。アメリカは、本当であれば、北朝鮮のミサイルが自国の方角に、ハワイの方に飛んできたのですから、もっと過敏に反応すべきなのに、鈍い反応しかしていません。
これは、北朝鮮と示し合わせていたとも考えられると思います。北朝鮮は、アメリカとの国交樹立と援助が欲しいとします。アメリカはそれらを餌にしつつ、北朝鮮にロケット発射をさせます。そして、日本の危機感を煽って、アメリカに対して、お金を貢がせることができます。アメリカと北朝鮮は損をしませんが、日本だけ損をします。これはあくまで物語の域を出ない話です。
しかし、確かなことは、危機感を煽る手口の「ミサイル詐欺」に引っ掛かって、日本はまた、莫大な国民のお金を、アメリカに支払ってしまうことになると思います。
(終わり)