「0039」 翻訳 中国の若手指導者(第六世代)についての報告 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2009年7月9日
ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。今回は、中国の若手指導者に関する記事の翻訳の第2弾をご紹介します。今回の記事の内容は前回の記事の内容とほとんど同じですが、太子党(中国共産党エリートの子息たちの派閥)についてはほとんど出て来ません。筆者のウィリー・ラムは、団派(中国共産主義青年団出身の政治家たちの派閥)が、指導層を握っていると考えているようです。重要な点は、胡錦濤中国国家主席が自分の後継者ではなく、その下の世代の中心メンバーを指名したことに注目している点です。これはタイトルにもなっています。これによって、団派の中で、世代間の軋轢が生じる危険性があります。
ウェブサイト「副島隆彦の学問道場」(http://soejima.to)の「今日のぼやき」に掲載していただいた翻訳紹介記事の著者チェン・リは、中国の指導層が、太子党と団派が呉越同舟で政権運営していく(「政敵団隊(team of rivals)」)と指摘しています。しかし、これは、第五世代だけの話で、第六世代では、団派が主要な政治ポストを掌握するのではないかと思います。もしくは、政経分離で、政治は団派が、経済は太子党がそれぞれ握るようになる、とも考えられます。しかし、そんなことをしても、政治権力を握る方が勝つので、権力闘争が激化する可能性もあります。それがないように、ケ小平は、将来の指導者をあらかじめ、若いうちから決めておく制度を定着させようとしたのですが、それがうまくいくか保証はありません。
それでは拙訳をお読みください。
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「胡錦濤(Hu Jintao、こきんとう )が第六世代の中心メンバーたちを指名した」
China Brief (Jamestown Foundation) Vol.9 Issue 10 05/15/2009
ウィリー・ラム(Willy Lam)筆
中国共産党(Chinese Communist Party)指導部は、現在、2つの目標を掲げている。それは、経済成長率8パーセントの維持(baoba)と社会の安定の維持(baowen)である。加えて、中国共産党指導部にとって、若手の指導者(将来の最高指導者候補)の登用も重要な課題となっている。注目されているのは、第六世代の若手指導者たち(young turks of the Sixth-Generation)である。彼らは、1960年代初めから中ごろまでに生まれた世代に属している。第五世代(1950年代初めから中ごろまでに生まれた人々)の中心的な顔ぶれは、2007年に開催された第17回中国共産党大会でお披露目された。習近平(Xi Jinping、しゅうきんぺい)国家副主席(56歳)と李克強(Li Keqiang、りこっきょう)国務院第一副総理(54歳)は、中国共産党政治局常務委員に列せられた。中国共産党政治局は、中国の最高意思決定機関である。習近平と李克強の2人は、胡錦濤国家主席と温家宝(Wen Jiaohao、おんかほう)国務院総理の後継者となる。政権の移譲は第18回中国共産党大会か、その後で行われる。つまり、習近平と李克強は、遅くとも2012年末までには中国最高のポストに就く。習近平と李克強は、最高実力者ケ小平(Deng Xiaoping、とうしょうへい)、江沢民(Jiang Zemin、こうたくみん)前国家主席、胡錦濤国家主席のひいたラインから外れることはもはやないだろう。中国政治に関心を寄せる人々の間では、今、第六世代についての関心が高まっている。第六世代の中心メンバーたちは、中国国民の間でも良く知られていない。
謎に包まれた第六世代の姿が明らかになった。中国政府管轄の雑誌「地球人物」誌(“Global Personalities”)が第六世代に属する政治家5人を選んで特集したのだ。彼らはかなりの政治的手腕を持っていると評されている。その5人とは次の人々である。周強(Zhou Qiang、しゅうきょう)湖南省長、胡春華(Hu Chunhua、こしゅんか)河北省長、努爾白克力(Nur Bekri、ナル・バキリ)新疆ウイグル自治区長、孫政才(Sun Zhengcai、そんせいさい)国務院農務部長(農務大臣)、陸昊(Lu Hao、りくこう)中国共産主義青年団(中国共青団)中央書記処第一書記(「地球人物」:2009年4月22日号、sina.com.cn:2009年4月15日)。陸昊は現役の中国共青団の代表であるが、周強と胡春華(胡錦濤とは親戚関係ではない)も、以前、中国共青団の代表だった。ナル・バキリは、新疆ウイグル自治区の中国共青団の責任者だった。胡錦濤国家主席も中国共青団の代表だった。胡錦濤は、中国政界の一大派閥「団派(tuanpai)」(中国共青団の出身者)の領袖である。その胡錦濤が、40人以上の団派を引き上げたのは当然のことである。第五世代の李源潮(Li Yuanchao、りげんちょう)は、現在、中国共産党中央政治局員兼中国共産党組織局長として、共産党の幹部人事を一手に任されている。彼もまた団派の一員であり、胡錦濤に忠誠を誓い、彼の手足となっている。中国のマスコミに登場する回数と所属する派閥の大きさから考えて、周強(49歳)と胡春華(45歳)が、第六世代の政治家の中で、一歩リードしている状況である。(ストレイト・ニュース紙(シンガポール):2009年4月27日) ※中国指導者第六世代の人々の写真は本文の最後に掲載されています(訳者)
周強は、河北省の出身だ。彼は、同世代の若者の動員とイデオロギーを専門とする部署からキャリアをスタートさせた。周は、弱冠38歳で、中国共青団中央書記処第一書記に抜擢された。中国共青団中央書記処第一書記というポストは、大臣ポストに匹敵するほどの重職である。周強は、胡錦濤の忠実な腹臣である。2006年、彼は、湖南省のナンバー2のポストに就いた。これは、周に地方が抱える問題を理解させるために取られた措置である。2007年には、湖南省長に昇進した。中国のマスコミは、周が、中国内陸部6省の1つで、開発が遅れていた湖南省経済を周強が発展させた、と賛辞を送っている。実際、世界規模で経済危機が進行しているこの時期、湖南省のGDPの伸び率は今年の第一四半期で10.3パーセントを記録した。これは、中国全体のGDPの伸び率よりも4パーセントも高い数字である。周は、数年前に、国連から、「地球のチャンピオン」賞を授与された。これは、彼が、中国の若者たちの環境意識の高まりに貢献したことを称えたものである。(新華社通信:2009年4月29日、人民日報:2009年2月15日、湖南日報:2009年1月13日)
胡春華は、周と同じ河北省出身である。彼の登場は、周や他の第六世代の政治家たちよりも鮮やかなものであった。胡もまだ、中国共青団中央書記処第一書記を務めた。しかし、彼には、第六世代の他の政治家たちにはない強みを持っている。それは、胡錦濤国家主席との切っても切れない関係である。胡春華は、チベット自治区での経験が長い。胡春華は、1983年に、名門北京大学を卒業した。卒業後、チベットに派遣され、断続的にではあるが、合計して20年近く、チベットで過ごした。そして、2006年には、チベット自治区共産党筆頭副書記にまで昇進した。その後、2年ほど、中国共青団中央書記処第一書記を務めた後、2008年には河北省長代理となり、本年初めに正式な河北省長となった。胡春華は、流暢なチベット語を操り、チベット経済発展の立役者と賞賛されている。また、チベットの独立運動を抑え込んだ功績も忘れてはいけない。漢民族のチベット移住を推進したのも胡春華である。(人民日報:2009年1月13日、sina.com.cn:2009年1月22日)2008年、中国全土で大問題となった汚染ミルク事件は河北省から始まった。それなのに、胡春華は、左遷も懲戒もされていない。これは、胡春華と胡錦濤との間に特別に強いつながりを示しているとも考えられる。これまで述べてきたことから考えると、周強と胡春華が、第18回中国共産党大会で、中央政治局入りする可能性は極めて高い。(Asiatimes.com:2008年10月10日)(訳者註:それぞれの写真は、当サイト掲載論文「0038」に掲載しています)
胡錦濤(67歳)は、彼が引退する予定の第18回中国共産党大会開催の3年も前に第六世代の中心メンバーを指名して、育てようとしている。それにはいくつかの理由がある。2007年に開催された第17回中国共産党大会の準備段階で、胡錦濤は、江沢民前主席をはじめとする党の長老たちに邪魔されて、後継者を指名することができなかった。胡錦濤は、習近平国家副主席と比較的良好な関係を保っている。習近平は、党の長老である習仲勲(Xi Zhongxun、しゅうちょうくん)の息子であり。「太子党」の一員である。中国共青団出身ではない。胡錦濤は、もともと、自分の分身とも言うべき、李克強国務院常務副総理を、自分の後継者とする心づもりであった。しかし、それには失敗した。習近平は、第18回中国共産党大会中、もしくはその直後に、中国共産党総書記と中国国家主席のポストを継承する。習の任期は10年間であろう。(China Brief:2007年10月17日「第17回中国共産党大会における胡錦濤の手詰まり」)周強と胡春華が国のトップとなれるように、胡錦濤国家主席は、習近平の後継者として彼らを指名することになるだろう。このような現実的な「世代を一つ飛ばす(cross-generational)」後継指名のやり方(gedai)は、中国では、歴史上、行われてこなかった。しかし、1992年の第14回中国共産党大会で、当時の最高実力者ケ小平は、江沢民の後継者として、第四世代から胡錦濤を指名した。国家主席、中国共産党総書記に内定していた江沢民はケ小平の決定に驚愕した。ケ小平の強い意向があり、当時49歳の胡錦濤は、チベット自治区の党書記から、中国共産党中央政治局常務委員に抜擢された。ケ小平は、第四世代の「中心」となるのは胡錦濤であることを確定させたのである。(アップル・デイリー(香港):2009年5月7日)
最近の中国共産党内部の政治的動向を観察すると、いくつかの疑問が生じる。第一に、胡錦濤国家主席は、これまでの後継指名の方法を踏襲して、習近平の後継者を指名するのだろうか?習近平は、自分の後継者を胡錦濤に指名されるのを快く思っていないだろう。しかし、表面上は、胡錦濤の若手登用に反対していない。習近平は、最近の中国共産党幹部に対する演説の中で、次のように述べている。「胡主席が若い幹部を登用している。若い幹部たちは、道徳的、政治的に清廉(de)であり、同時に、卓越した政治的手腕(cai)を持っている。東洋の際に重視されるのは清廉さである」習近平は更に、人事に関する会議に出席して、次のように述べた。「共産党の高級幹部や、組織局は、マルクス主義理論に従って、若手幹部を昇進させねばならない。それによって、若手たちの持つ理想やアイディアを実現させるようにせねばならない」(新華社通信:2009年3月30日、人民日報:2009年4月18日)中国共青団出身者たちは、共産党の幹部でもあり、現在の最高実力者である胡錦濤との太いパイプもある。そう考えると、現在の中国共産党の中で、団派の人々が指導者になるのが当然であり、党中央が求める指導者の条件に最も適した人々であると言える。
中国の未来にとって重要なのは、団派の人々が現在、そして未来の中国が直面する、困難な課題に対処できるのか、という点だ。周強と胡春華は、中国共産党に対する忠誠心の強さに関しては右に出る者はいない。しかし、世界規模のビジネスと高度な産業技術を専門にしてはいない。中国が経済競争力を維持するためには、この2つの分野を発展させなければならない。ビジネスと技術の点で言うと、周強も胡春華も、「海亀」派(haiguipai、“Returnees Faction” 訳者註:海外に留学し、学位を取得し、その後、専門知識を得て中国に帰国した人々)や、欧米の大学に留学し、学位を取得した共産党幹部たちには叶わない。周強と胡春華の出自、教育、キャリアを考えると、彼らは、欧米の文化と政治体制についての知識をそれほど持ち合わせないと考えられる。中国共産党組織局長・李源潮(Li Yuanchao)(団派)は、海外留学経験があり、才能あふれる党幹部の昇進を求めているのは皮肉な結果だ。李源潮は、この春に、「千人計画」(A Thousand People Program)の実行を明言した。この計画は、共産党や政府のしかるべきポストに、海外留学組を迎えるようにしようという内容だ。李源潮は、人事に関するセミナーに出席し、次のように述べた。「世界同時不況に対処するために、また、科学技術を発展させるためには、海外留学を経験した、才気あふれる人々が共産党に入党してもらえるような仕組みを至急整えねばならない」(新華社通信:2009年4月6日)1990年代半ばから、海外の大学の学位を取得した人々が、中国に帰り、働いている。その数は20万人以上だ。そのうち、20人近くの人々が、成否の大臣クラスの地位に就いている。
中国共青団出身者の多くと同じように、周強と胡春華は、政治改革という課題に取り組まねばならない。しかし、胡錦濤国家主席は、周強と胡春華という2人の登用(先輩たちをごぼう抜きするほどである)によって常々標榜している「党内民主体制(intra-party democracy)」を壊しているように見える。「党内民主体制」というのは、党員の過半数を支持得た人間が指導者になるという制度だ。第六世代の中心的指導者(周強と胡春華)を指名すると、その上の第五世代で登用されない中国共青団出身の政治家が出てくる。彼らは、能力や実績よりも、団派のつながりで昇進を重ねてきた人々である。張慶黎(Zhang Qingli、ちょうけいれい)チベット自治区共産党書記、王楽泉(Wang Lequan、おうがくせん)新疆ウイグル自治区共産党書記、劉奇葆(Liu Qibao、りゅうきほ)四川省共産党書記、張宝順(Zhang Baoshun、ちょうほうじゅん)山西省共産党書記と言った人々が第六世代に抜かれた第五世代の政治家たちである。張慶黎と王楽泉は、少数民族の宗教、文化を弾圧したとして批判されている。劉奇葆と前任者の杜青林(Du Qinglin)は、昨年の四川大地震で倒壊した、建築基準を満たさない建物の建設に大きな責任があったと非難されている。杜青林もまた、中国共青団出身である。張宝順は、山西省で多く発生した炭鉱事故の多くを隠ぺいしたと批判されている。(BBCニュース:2009年5月15日、AFP通信:2009年2月22日、Telegraph.co.uk:2009年5月11日)周強と胡春華は、この困難な状況下で、ケ小平の有名な言葉、「空が落ちてくるのを支える」ために何をするのかを、13億人の同胞たちにはっきりと示さねばならない。
【中国指導者第六世代のスターたち】
周強(Zhou Qiang、しゅうきょう)湖南省長
胡春華(Hu Chunhua、こしゅんか)河北省長
孫政才(Sun Zhengcai、そんせいさい)国務院農務部長(農務大臣)
陸昊(Lu Hao、りくこう)中国共青団中央書記処第一書記
奴爾白克力(Nur Bekri、ヌル・バキリ)新疆ウイグル自治区長
ウィリー・ラム:ジェームスタウン研究所上級研究員。アジア・タイムズ、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、CNNアジア太平洋総局などに勤務。これまでに5冊の書籍を出版。最新作は、『胡錦濤時代の中国政治:新しい指導者、新しい課題』。秋田国際大学、香港中文大学で非常勤講師を務める。
(2009年8月30日に追加)
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(終わり)