「0045」 雑感 総選挙が終わって―これから新しい「バラマキ」のために 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2009年9月1日

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。今回は、2009年8月30日に投開票が行われました第45回総選挙について書きたいと思います。いつもは翻訳を読んでいただいておりますが、たまには、私の下手くそな文章を読んでいただき、ご意見、ご叱声をいただければと思います。本ウェブサイトには、お問い合わせ機能がありまして、そちらから、ご連絡をいただけるようになっております。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは拙文をお読みください。

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総選挙が終わって―これから新しい「バラマキ」のために

古村治彦(ふるむらはるひこ)筆

 総選挙の結果が確定して一日が過ぎました。テレビでは、ノリピーのことばかり報道していた番組ですら、選挙の結果と、これからの民主党政権に対する期待と不安を事細かに報道していました。報道の目玉は、オセロゲームのような、選挙区での民主と自民の逆転をビジュアルに訴えるものでした。そして、民主党の政策、特に子供手当、公立高校の無償化、高速道路の無料化を中心にドラマ仕立てで流していました。奇妙なことに、NHKも含めて、外交、防衛分野については報道が極端に少ないように思われました。

 自民党に対しては、立て直しができるのか、誰が総裁になるのか、ということを中心に、相変わらずの平沢勝栄と山本一太がテレビを占領していました。テレビに出る人が払底してしまったのか、地味な下村博文も、地味に出ていました。高村正彦、石破茂は小選挙区で余裕を持って勝利をすることができました。これから自民党をリードしていくことになるでしょう。比例区で何とか復活して受かった人々は、小選挙区で通った人々に比べ、政治家として半分の力しかありません。派閥の領袖クラスの人々で復活当選した人々は派閥のリーダーとしては既に死んだも当然です。

 今回の民主党の大勝は、表面上のオセロゲームを楽しく見ているのも良いのですが、政治家たちがオセロゲームの駒というか石のように扱われていることがはっきりしました。いみじくも小泉純一郎が小泉チルドレンたちに述べた「政治家は使い捨て」という言葉が現実のもとなりました。これまでの自民党の政治家たちは、江戸時代の三百諸侯で殿様のような存在でしたが、これからはそうはいかなくなります。

 官僚たちは戦々恐々としていることでしょう。官僚たちを「使いこなす」ことをこれからやっていこうという政治家たちが、300人もやってくるのですから。明治時代からこれまで、日本の政治を動かしてきたのは、官僚たちであって、政治家ではありませんでした。政治学で教えられる、日本政治の分析モデルには大きく3つあります。一つは、「日本の政治を動かしているのは官僚だ」とする官僚主導モデルです。二つ目は、「日本の政治を動かしているのは、自民党の政治家だ」とする政治家主導モデルです。そして、最後に、「日本の政治は、官僚、政治家、財界(業界)の合意によって動かされている」という主張のジャパン・インク(日本株式会社)モデルです。

 現在、TBS系列で、「官僚たちの夏」というドラマが放映されています。この中で官僚たちが国の重要政策を作り、実行していくために奔走しています。あれが官僚主導モデルです。本当は政治家たちがやらねばならないことなのですが、官僚たちがやっているのです。日本はあの時代から全く変わっていません。

 そして、現在、日本政治の姿をより正確に捉えているのは、三つ目のジャパン・インク(日本株式会社)モデルです。もっと分かりやすく言うと、「官僚、政治家、財界(業界)の鉄の三角形」です。3つのアクターたちが、依存しあいながら、相互の利益を交渉と合意を重ねながら、実現するというものです。これには、財界だけでなく、農協や、医師会、労働組合も鉄の三角形のアクターなのです。

 この文のタイトルに「新しいバラマキ」とつけました。これは私が総選挙の結果を受けて、考えたことです。「政治とは何か?」という大きな問題があります。私は、この問題に対して、「政治はバラマキである」、と答えます。英語で言うと、redistributionということになります。もっと具体的に述べると、政治とは、社会で生み出された富をどのように分配するかを決めることだと思います。戦後の自民党は、時代に合わせたバラマキの方法を確立した、という功績があると思います。

 開発志向国家(developmental state)という、ある意味、国家総動員の、コーポラティズム(Corporatism)によって産業を発展させ、その富を、業界(産業界、経済界、農業界、労働界)を通じて人々に分配しました。ここで、大切なことは、大事な政策決定など、あくまで総指揮は、官僚、政治家、財界(業界)のエリートたち(ほとんどが東大法学部卒の先輩・後輩・同期)が全てを決めてきました。国民はおこぼれを頂戴して、それで満足してきました。実際、生活は保証され、「自分は中くらいだな」と思えるほどのおこぼれ(富の配分)を受けることができていました。この分配方法によって、世界史上初、高度経済成長と経済格差の抑制を実現したのです。高度経済成長をすると、ケ小平の言葉を借りると、「先に豊かになれる人から豊かになる」ので、経済格差が拡大してしまいます。

 しかし、こうした戦後日本を支えた、自民党主導のバラマキの方法は機能しなくなりました。生活の不安は増大し、終身雇用と年功序列という配分システムの機能が崩壊しました。経済格差は増大しました。地方と都会の断絶は深刻化しました。小泉・竹中改革によって、こうした負の変化は深刻さを増していきました。その結果、国民の怒りが爆発し、自民党が惨敗し、民主党が大勝した、という解説が多くなされています。しかし、選挙の結果を見てみると、自民党の大物で、地元の利益誘導に熱心だった大物たちは生き残りました。不思議と1万票差くらいで民主党の候補を振り切っています。自民党のバラマキの方法に忠実だった議員たちは生き残りました。それは、地方に、「小泉のせいで日本は駄目になったが、うちの先生は頑張ってくれて、予算を分捕って来てくれた。お礼をしたい」という人々がやはり多かったからだと思います。まさに政治はバラマキであり、人々はバラマキを求めているのです。

 それでは民主党に投票した人々はどうでしょうか。そうした人々もバラマキを求めているのです。小泉改革によってバラマキが減りました。そして、今までの古いバラマキ方法では、最初に受け取る部分が下にお金をばらまかなくなりました。それで、国民にバラマキの恩恵が全くなくなってしまいました。国民は、今までのバラマキの方法ではなく、新しい方法を求めています。それは、直接、自分たち国民に届くようにばらまいてくれということです。子供手当も、高校の授業料無償化も、高速道路も、結局バラマキですが、自民党では実行できないバラマキでした。民主党だからできるバラマキです。そして、バラマキによって、国民の可処分所得を増やして、内需型の経済にするということです。 

 以下に、自民党型のバラマキと民主党型のバラマキを簡単に図式化したいと思います。私の考えでは次のようになります。

・自民党のバラマキ:輸出型大企業や業界にばらまく→企業が儲かる→人々にばらまく: 外需型
・民主党のバラマキ:人々に直接ばらまく→消費が増える→企業が国内向けの生産を増やし利益を出す:内需型

 三木武夫元首相は、少数派閥で首相になりましたが、「世論と結託しようと思う」という言葉を使いました。私はこの言葉は、まさに「議会の子」、三木武夫の真骨頂であると思います。世論を民意と置き換えても良いのですが、人々に直接、ばらまける政治家たちがこれから生き残るのではないでしょうか。

 次回は、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載され、アメリカ側を激怒させた鳩山論文(「日本の新しい道」)を訳出したいと思います。どこがアメリカの逆鱗に触れたのかを見てみたいと思います。

 最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました。

(終わり)