「0059」 翻訳 中国の人事異動に関する論文を紹介します 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2009年12月18日
ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。本日は、中国の地方レベルの人事異動についての論文を再びご紹介したいと思います。今回の論文で大事な点は、中国には、「党高」と呼ばれる中国共産党の高級官僚出身者と、テクノクラートの2つの流れがあり、「党高」が優遇されているという点です。中国の最高指導者(中国共産党政治局常務委員会のメンバー9人)になれるのは、中国共産党の高級官僚出身者たちです。
著者のウィリー・ラムは、このような「党高」優遇は、中国共産党の保守性を示すものである、と指摘しています。「党高」たちは、海外経験もなく、専門知識に欠けていて、イデオロギー問題にばかり経験がある、とラムは批判し、現在の変化の激しい国際社会で、彼らを最高指導者に戴くとうまく対応できないのではないか、と結論付けています。
私はこの論文の情報には価値があると思いますが、ラムの主張には首肯できません。まず、政治にとって一番大切なことは、民主党の小沢一郎幹事長が述べているように、「国民の生活が第一である」と思います。「党高」たちは、大学卒業後すぐに、共産党に入党し、職場の共産党書記などからキャリアをスタートさせます。そして、一歩一歩昇進していきます。その中で、様々な試練や課題をクリアしていき、選別され、政治的能力を高めていきます。彼らは、国民のニーズや国益をバランスよく考えることができるのです。ですから、個別の細かい知識がなくても、国の方針を誤ることは少ない、という信頼感が、中国全体にあるのだと思います。ですから、「党高」優遇は正しいのだ、と私は考えます。
それでは、拙訳をお読みください。
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テクノクラート出身者が減り、中国共産党の高級官僚たちが台頭している(CCP Party Apparatchiks Gaining at the Expense of Technocrats)
ウィリー・ラム(Willy Lam)
China Brief (Jamestown Foundation)
Volume 9 Issue 25 12/16/2009
つい最近、中国共産党(Chinese Communist Party)は、省のトップ(中国共産党書記)レベルの人事異動を発表した。今回の人事異動は、中国の最高指導部に将来、どのような人たちが入るのかがはっきりとわかる、ある傾向を示している。今回の人事異動の傾向は、党の高級官僚として活躍してきた人たちが省レベルのトップの地位に就き、テクノクラート出身者たちの数が相対的に減った、というものだ。2009年12月初め、中国共産党組織局(Organization Department)は、2つの昇進人事を発表した。河北省長(Hebei Governor)だった胡春華(こしゅんか、Hu Chunhua)は、内モンゴル自治区(Inner Mongolia Autonomous Region)の党書記(Party Secretary)になった。国務院農業部長だった孫政才(そんせいさい、Sun Zhengcai)は、中国北西部の吉林省(Jilin Province)の党書記となった。胡春華と孫政才は共に46歳で、中国共産党指導者第六世代(Sixth-Generation leadership)の最年長のメンバーである。第六世代の特徴は全員が1960年代生まれである。
胡春華 孫政才
ここ1年間の人事異動を見てみると、共産党党務の専門家たち(party affairs specialists)、「党高(danggong)」と呼ばれる人々の力が強まっていることが分かる。中国共産党政治局(Politburo)は、来年(2010年)の初めから、2012年に開催される第18回中国共産党全国代表大会(National Congress)の準備を開始する。2012年には、中国指導者第五世代、第六世代に押し出される形で、最高幹部たちの多くが引退をする。党の幹部たちの交代があるということは、中国の最高指導者層の構成だけでなく、それから10年間の政策決定にも大きな影響を与えることになる。
孫政才は、農業学の博士号をもっている、著名な農業学者である。孫はテクノクラートに分類される。胡春華やその他の第六世代のメンバーたちは、「党高」に分類される。彼らは、経歴を見れば分かるが、経済学、通商、外交、技術に関する知識はほとんど持ち合わせていない。「党高」のメンバーは、周強(しゅうきょう、Zhou Qiang)湖南省長(49歳)、ヌル・ベクリ(Nur Bekri)新疆ウイグル自治区主席(49歳)、陸昊(りくこう、Lu Hao)中国共産主義青年団(Communist Youth League)中央書記処第一書記(42歳)、趙雍(ちょうよう、Zhao Yong)唐山(Tangshan)市党書記(46歳)、孫金尤(そんきんばつ、Sun Jinlong )安徽省都・合肥(Hefei)市党書記(47歳)である。唐山市は現在、経済発展が著しい都市である。これら若手の指導者たちのほとんどは、中国共産党中央委員会の常務委員、もしくは常務委員候補の地位にある。更に、胡春華、孫政才、周強は、第18回全国代表大会で政治局員に昇進する可能性が高い。(チャイナ・ニュース・サービス、2009年12月1日付;民報〔香港紙〕、2009年12月2日付;環球時報〔北京〕、2009年12月3日付)
周強 ヌル・ベクリ 陸昊
趙雍 孫金尤
共産党の高級官僚たちが次々と抜擢され、昇進するのにはいくつかの理由がある。第一に、彼らの多くが共青団派(CYL Faction)と呼ばれる派閥に属していることが挙げられる。共青団派を率いているのは胡錦濤(こきんとう、Hu Jintao)中国共産党総書記兼中国国家主席(67歳)である。胡錦濤と胡春華は親戚ではない。また周強は中国共産主義青年団中央書記処第一書記(トップ)であった。
胡錦濤 李源朝
胡錦濤は、2002年に現在の地位に就いた。それ以降、胡錦濤と腹心たちは、10人前後の共青団出身者たちを、中央や地方の重要なポストに抜擢してきた。胡の腹心の代表格は、中国共産党組織局長(Director of the CCP Organization Department)兼中国共産党政治局員の李源朝(りげんちょう、Li Yuanchao)である。李も共青団の出身である。中国指導者第六世代の共青団派の出世頭は間違いなく、胡春華である。彼は、胡錦濤と同様、チベット自治区(Tibet Autonomous Region)でキャリアを積んできた。
胡春華は、習近平(しゅうきんぺい、Xi Jinping)中国国家副主席の後継者と目されている。習近平は、第18回中国共産党全国大会で、共産党総書記となることが確実視されている。胡錦濤は、同大会で、政治局からの引退が予想されている。(ル・モンド紙〔パリ〕、2009年12月5日付;ストレイト・タイムズ紙〔シンガポール〕、2009年12月9日付)
習近平 江沢民 温家宝
胡錦濤が、テクノクラートたちよりも党高たちを重用していることは、江沢民(こうたくみん、Jiang Zemin)前国家主席のやり方を踏襲しているのである。中国の最高意思決定機関である中国共産党政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)の現メンバー9人のうち、8人が党の高級官僚であり、地方の主要な省の党書記などを歴任し、キャリアを積み重ねてきた人々である。例外である1人は、温家宝(おんかほう、Wen Jiaobao)国務院総理である。温家宝は、中国共産党本部の高級官僚であるし、同時に中国国務院(State Council)に属するテクノクラートでもある。
中国共産党政治局員25名のうち、18名が省の党書記を務めた経験をもっているか、もしくは実際に地方の省の党書記を現在務めている。広く読まれている党の機関誌「意志決定」誌(Decision-Making)は、このような地方の省の党書記に数多くの党幹部が任命されることについて、省レベルの党書記を務めることで、「政治を行う上で必要な、特別な能力(political discrimination)」が養われる、と指摘している。その能力には、物事を大きな視点から把握する能力、戦略的な思考能力、有能な部下を適材適所に配置する能力、中国共産党の良いイメージを構築する能力、などが含まれている。(環球時報、2009年12月7日付;チョンシン・イブニング・ニュース紙〔重慶〕、2009年12月6日)
より重要なことは、党高の人々は、マルクス主義のイデオロギー(Marxist ideology)、中国共産党の教義、工作宣伝活動の分野で経験を豊富に持っていることだ。その結果、「党高」の高級官僚たちは、政府内で金融や通商に携わってきた官僚たちよりも、政治的な面で、共産党に忠実だし、「より信頼が置ける」と考えられている。第17回中国共産党全国代表大会は2007年に開催された。それ以降、習近平副主席と李源朝党組織局長兼政治局委員(党組織と党人事担当)は、数多くのスピーチや演説を行った。その内容から、国家の最高ポストに就く可能性がある人々のことがある程度分かるのである。ケ小平(とうしょうへい、Deng Xiaoping)を含む中国指導層第三世代の人々は、最高ポストに就く人々には、「赤いこと(redness)」(イデオロギーに対して忠実であり純粋であることと政治的に清廉であること)と経験(職業的な競争力)のバランスが取れていることが重要である、と訴えていた。
ケ小平
現在の胡錦濤国家主席、習近平副主席、李源朝組織局長は、トップの地位に就く人材には、中国共産党の文脈での「徳(de)」(morality)が必要だと述べている。彼らの説く徳を持つことは、政治的な清廉さであり、それを持つことで北京の中央指導部に連なることができるのだ。李源朝は次のように述べている。「トップの地位に就くために訓練されている幹部たちは、徳と競争力を持たねばならないが、特に徳を持つことを心掛ける必要がある」李は2009年11月、次の世にも述べている。「多くの幹部たちがトップへの道から外れていったが、それは彼らの能力の問題ではなく、徳が足りなかったからだ」と述べている。(人民日報、2009年12月1日付;アウトルック・ウィークリー〔北京〕、2009年11月30日付)
対照的に、中国指導者第六世代の中のテクノクラートたちは少数の者たちだけがトップへの道が約束されているように見える。それに含まれるのは、張慶偉(ちょうけいい、Zhang Qingwei)中国商用飛機有限責任公司(Chairman of China Commercial Aircraft Co., Ltd.)会長(48歳)、蘇樹林(そじゅりん、Su Shulin)中国石油化工集団公司(Sinopec)会長(49歳)である。中国石油化工集団公司は独占的な石油関連大企業である。張慶偉は、中国の宇宙開発において重要な役割を果たした、有名なロケット科学者であった。張は、数年前には、国防科学技術化工委員会委員長を務めた。蘇樹林は石油・ガス分野でキャリアを積んできた。そのうちの2年ほどは中国共産党遼寧省委員会の幹部を務めた。(ビジネスウィーク、2009年11月4日;lanyue.com〔北京〕、2009年12月2日)しかし、党幹部の中で、産業、ビジネス、技術の分野で頭角を現したものたちは、国務大臣レベルまで到達すると、出世が頭打ちとなる。これは中国共産党支配下の中国の長年の不文律である。中国共産党政治局にテクノクラートが入ることなのまずあり得ない。朱鎔基(しゅようき、Zhu Rongji)は、ケ小平の腹心で、1998年から2003年まで国務院総理を務めた。朱鎔基はテクノクラートが政治局に入局した数少ない例である。
張慶偉 蘇樹林 朱鎔基
更に、第18回中国共産党全国大会後、中央官庁で大きな役割を果たであろうと期待されているテクノクラートの中には、少数であるが、「帰還者(returnee)」と呼ばれる人々がいる。彼らは、アメリカやヨーロッパ各国に留学し、修士号以上の学位を取得して帰国した人々である。前述した張慶偉と蘇樹林は中国国内の大学を卒業した。対照的に、第一次並びに第二次温家宝内閣には、陳竺(ちんじく、Chen Zhu)保健部長、万鋼(ばんこう、Wan Gang)科学技術部長、周済(しゅうさい、Zhou Ji)前教育部長が、西洋諸国の有名大学で博士号を取得した人々が国務大臣として入閣している。万鋼は、賞も受賞したほどの自動車技術者であり、陳竺は白血病の専門家である。二人はそれぞれ、ドイツとフランスで数年間専門職として働いていた経験がある。(ニューヨーク・タイムズ紙、2009年4月10日付;ニューズウィーク・インターナショナル誌、2009年4月6日付)しかし、共青団派の党の高級官僚出身者たちは、党のために働いてきたために、西洋諸国で勉強したり、働いたりした経験を持たない。
陳竺 万鋼 周済
党の高級官僚たち(「党高」)の優遇ぶりとテクノクラートたちの冷遇ぶりは、中国共産党自体の21世紀の激動する現実に対処するための能力に大きな影響を与えることが考えられる。胡錦濤国家主席と習近平国家副主席は、中国共産党と中国の未来に関する大切な演説を数多く行っている。二人は、演説の中で、革新と理論的な大転換の重要性を強調している。胡錦濤は、昨年、改革開放政策が始まって30周年を記念して演説を行った。その中で、胡は、党の組織と政府の政策を改革するためには、「大胆な冒険と勇敢な革新」が必要だと述べている。(新華社通信、2008年12月18日付)しかしながら、党高の人々は、政治的な信頼を示し、ミスをしないように消極的な行動しかしないように見える。何か新しい考えを実行しようとはしない。それは、そういうことをすれば、論議を巻き起こすこともあるし、イデオロギーに反するようなことにもなりかねないからだ。共産党の高級官僚出身者たちは胡草金融と外国貿易の分野での経験がない。そうなると、彼らには、変化の激しい世界の中でも変化が著しい経済とITの発展についていく能力が不足している。
現在、問題となっているのは、北京大学(Peking University)や清華大学(Tsinghua University)のような一流大学の卒業生たちの多くが、「党高」、つまり中国共産党の高級官僚の道を選ぶ傾向にあるということだ。大学卒業後、中国共産党の高級官僚になるのは、胡錦濤や胡春華がたどった道だ。彼らもまた、それぞれ、1966年と1983年に、一流大学を卒業してすぐに中国共産党の高級官僚となることを決心した。ここ数年の現象として、村や郡レベルの党書記や党副書記のポストに応募する大学新卒者の数は増えているということが挙げられる。昨年(2008年)、6万6000人以上の大学の卒業生が応募してきた。この数は、過去一五年間に大学卒業生が地方レベルの地位に応募してきた数の合計に匹敵するものだ。また、ここ数年、大学卒業後、すぐに人民解放軍(Peoples’ Liberation Army)に入ることを望む学生たちも増えてきている。女子学生も例外ではない。今年(2009年)、約13万人の大学新卒者たちが人民解放軍に入隊した。人民解放軍で軍役をこなすことで、中国共産党の高級官僚になる際に有利となる。(人民日報、2009年10月21日付;広州日報〔広州〕、2009年10月31日付;中国青年報〔北京〕、2009年4月22日付)
北京大学 清華大学
このような傾向は、経済不況のせいで新卒者たちの就職が厳しいことも理由の一つとして挙げられよう。彼らの多くが、中国共産党の高級官僚になることで明るい将来が掴めると考えているのも当然だろう。中国共産党の高級官僚たちが優遇されているのは、中国共産党が、伝統的に守ってきた基準を堅持していこうとしているからだ。中国中部や西部の省や都市で、毛沢東が提唱した価値観(Maoist values)が再び見直されていることが、中国共産党の保守化の証拠となる。(チャイナ・ブリーフ、2009年11月19日付:「中国共産党内で不安を抱えながら毛沢東主義が復活している」参照)対照的に、テクノクラートたちは、グローバライゼーションの時代に、中国製品と中国のイメージを世界中に売り出さなければならないという思いに駆られている。
だから、政府を運営しているマネージャー・アドミニストレータークラスの人々は、前の世代の人々がからめ取られてしまった政治的なキャンペーンとは一線を画そうとしている。朱鎔基前首相と温家宝首相の伝統に連なり、テクノクラートたちはイデオロギー問題を避けて中国政府の舵を取るために奮闘している。しかしながら、「党高」、中国共産党の高級官僚の出身者たちが党や政府の最高のポストに就く。これによって、中国自体が昔ながらの正統な規範を打ち壊すことはできないように思われる。
※ウィリー・ラム:ジェームスタウン研究所上級研究員。アジア・タイムズ、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、CNNアジア太平洋総局などに勤務。これまでに5冊の書籍を出版。最新作は、『胡錦濤時代の中国政治:新しい指導者、新しい課題』。秋田国際大学、香港中文大学で非常勤講師を務める。
(終わり)