「0084」 論文 米軍によるグアム・北マリアナ諸島の環境評価書を読んでみる。混迷を極める(とされている)普天間基地移設問題を理解するために。冒頭で宣伝を行います。古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2010年5月1日 

 

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。まず、2010年4月17日に発売されました『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』(アダム・レボー著、副島隆彦=監修・監訳、古村治彦=訳、2010年4月、成甲書房)は、多くの方々にお読みいただき、私へも感想や意見、質問をいただいております。誠にありがとうございます。ゴールデン・ウィークは、まとまってお休みが取れる時期ですので、是非、『バーナード・マドフ事件』をお求めいただき、お読みいただけますよう、よろしくお願い申し上げます。※お求めはこちらからどうぞ。

『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』

 さて、昨年来、普天間基地移設問題が、鳩山政権にとっての重要案件となっています。「2010年5月末までに一定の方向性、結論を出す」と鳩山由紀夫首相が明言して以来、その重要性は高まる一方であると思います。

普天間基地

 普天間基地移設問題は、現在の普天間基地(宜野湾市)が住宅密集地の真ん中にあり、騒音問題だけでなく、離着陸の際に、飛行機やヘリコプターの墜落の危険に常に晒されているという状態の改善しようということから始まりました。1990年代半ば、日米両政府は協議を行い、普天間基地を日本側に返す代わりに、キャンプ・シュワブ(名護市辺野古地区)沿岸を埋め立て、V字型の滑走路を建設することで、1996年に一旦合意をしました。

 しかし、それ以降普天間基地移設は全く進展しませんでした。日米関係が「蜜月時代に入った」と言われた小泉純一郎首相とブッシュ大統領の時代にも全く進展しませんでした。2006年には、日米両政府が再び話し合い、普天間基地移設を合意し、2009年には海兵隊のグアム移転にも合意しました。

  

辺野古沿岸部

 2009年8月の総選挙で民主党が大勝し、鳩山政権が誕生しました。鳩山党首率いる民主党は、普天間基地の機能の県外、国外移設を公約として掲げて選挙戦を戦い、勝利しました。そこで、これまでの日米合意を見直すということになりました。特に、キャンプ・シュワブ(辺野古)沿岸部を埋め立てて、滑走路を作るという案を白紙に戻す、ということになりました。

 これまでに、キャンプ・シュワブ沿岸部案の代替案として、様々な案が出されました。キャンプ・シュワブ陸上案、徳之島案、グアム・北マリアナ諸島案、本土への移転案など枚挙にいとまがありません。鳩山首相は「自分には腹案がある」と述べ、その実現のために努力すると明言しています。鳩山首相がどのような結論を出し、どのような決断をするかを見守る必要があります。

 一連の普天間基地移設問題に対しての動きの中で、普天間基地を抱える宜野湾(ぎのわん)市の伊波洋一(いはよういち)市長が、2009年11月26日の平和フォーラムにおいて行った「普天間基地のグアム移転の可能性について」というプレゼンテーション、また2010年2月18日に衆議院第一議員会館の第三会議室で行った「普天間飛行場ヘリ部隊のグアム移転の検証について」というプレゼンテーションが波紋を投げかけました。

伊波洋一

 これらのプレゼンテーションの中で、伊波・宜野湾市長は、「沖縄の海兵隊のすべてがグアムに移転する可能性がある」と言及しました。伊波市長は、2006年に発表された「グアム統合軍事開発案」と2009年に発表された「環境評価書(Environmental Impact Statement/ Overseas environmental Impact Statement GUAN AND CNMI MILITARY RELOCATION)」から、沖縄海兵隊の全面グアム移転の可能性について言及しています。アクセスはこちらからどうぞ。

「環境評価書」

 そこで私は、実際に「環境評価書」を読んで、その中から沖縄駐留海兵隊についての言及を拾い出しながら、米軍の意図を推察してみたいと思います。「環境評価書」は大部となっているので、その概要(Executive Summary)を利用したいと思います。概要だけでも約40ページあります。

 「環境評価書」はアメリカ国内の環境保護のためになされる環境アセスメントの報告書で、軍事基地建設や港の建設などによって環境がどのように変化するのかについて調査した結果を報告する内容のものです。今回の

(引用はじめ)

 太平洋地域におけるアメリカの戦略と日本との同盟関係の見直しにより、沖縄に駐留している米海兵隊(U.S. Marine Corps)の戦力の一部をグアム(Guam)に移転させる。同時に、米海軍(U.S. Navy)は、原子力空母を停泊させるためにグアムのアプラ・ハーバー(Apra Harbor)の沿岸に港を建設する。米陸軍(U.S. Army)は、弾道弾ミサイル(ballistic missile)攻撃の脅威に備えるため、グアムに、航空・ミサイル防衛部隊(Air and Missile Defense Task Force)を駐屯させる。(1ページ)

(引用終わり)

 在沖米海兵隊のグアム移転は、米軍の戦略の変更の一環で行われる。「たまたま」タイミング良く、グアムに米海兵隊、米海軍、米陸軍ミサイル防衛部隊の移転、整備が行われることになっています。

 沖縄駐留米海兵隊のグアム移転の内容について、「環境評価書」では次のように書かれています。以下に引用します。

(引用はじめ)

 米海兵隊について。(a)約8,600名の海兵隊員と彼らの家族約9,000名を沖縄からグアムに移転させるに伴い、必要な施設や社会資本を建設すること。(b)沖縄から移転してきた海兵隊のために、グアムとテニアン(北マリアナ諸島)に訓練施設を建設すること。(1ページ)

(引用終わり)

 アメリカ軍が行おうとしている米軍の再編の目的と目的を達成するために必要なことを以下のように書いています。

(引用はじめ)

・アメリカ本土と太平洋上にある米領を守るために米軍を配備すること
・有事に即応できるような場所に米軍を置いておくこと。
・地域の安定、平和、安全保障を維持すること。
・地域で発生した脅威に対して柔軟に対応する能力を維持すること。
・太平洋地域における強力な米軍の存在を維持すること。
・太平洋地域における空母の数を増加させること。
・アメリカ、日本、その他の同盟諸国の利益を守ること。
・世界中で起こる有事に対応できる、地球規模の機動性を米軍に持たせること。
・地域の米軍の司令・コントロールを強化すること。(3ページ)

(引用終わり)

 アメリカはグアムに既に空軍のアンダーセン空軍基地(Andersen Air Base)とアプラ(Apra Harbor)を整備しており、それに加え、沖縄に駐留している米海兵隊8,600名を移転させ、加えて、陸軍のミサイル防衛部隊を配備すると言うことになっています。その主目的は、アメリカの防衛であり、太平洋地域における米軍のプレゼンスの増大です。もちろん、日本やその他の同盟諸国の利益を守ることという目的も明記されています。

 米軍は在沖縄のグアム移転の経緯を詳細にかつ簡潔にまとめています。その部分を以下に引用します。

(引用はじめ)

海兵隊のグアム移転について

 太平洋地域の安全保障の環境は変化している。その変化に対応するために、米軍は、「統合世界プレゼンス・基地戦略」(Integrated Global Presence and Basing Strategy)と「4年ごとの国防計画見直し」(Quadrennial Defense Review)を策定し、その中で太平洋地域の米軍の配備に焦点を当て始めた。これらの報告書や評価書の中で、米軍は、海外に駐留する兵力の削減・予測不可能な事態に即応するための米軍の柔軟性と反応速度を維持することを目標として掲げた。米軍は、世界規模での再編、太平洋地域の運用見直しを目指したQDRの勧告に従い、米国防省は沖縄に駐留している海兵隊を移転させることにした。それは、(1)条約と同盟(の維持)に必要なため、(2)紛争が起こることが予想される地域への対応時間、(3)行動の自由(無制限の基地使用)の各点から必要となったからだ。(3ページ)

(引用終わり)

 ここまでの環境評価書に書かれていることをまとめると、海兵隊の主力8,600名を沖縄からグアムに移転させても、米軍は太平洋地域での有事にきちんと即応できるということです。そして、この環境評価書では、日本の負担について次のように書いています。

(引用はじめ)

 ATARA(同盟の変容と変形についての合意)と変容のためのロードマップに基づいて、日本はアメリカとコストを共に負担することに同意している。日本は、60億9千万ドル(約5千5百億円)を負担し、海兵隊の沖縄からグアムへの移転に伴う施設の建設を行う。(4ページ)

(引用終わり)

 日本はグアムの整備にもお金を出すことになっています。アメリカ領内の軍事施設建設の資金を日本が出すということは、まさに属国であるということが分かります。

 ここで問題なのは、7ページにある表に注目です。この表の中で、グアムにおける陸海空海兵隊それぞれの配備人数の増加予想が書かれています。海兵隊の部分だけ以下に引用します。

(引用はじめ)

 2010年:510名、2011年:1570名、2012年:1570名、2013年:1570名、2014年:10552名、それ以降2020年まで:10552名(7ページ)

(引用終わり)

 これはグアムに海兵隊約1500名を先に駐屯させ、その後、2014年に約8600名を一気に移転させるということです。これでグアムには約10500名の海兵隊が駐留することになります。

 「環境評価書」はこの後、グアムと北マリアナ諸島のテニアンに作る軍事施設が環境に与える影響などを詳細に検討しています。しかし、ここでは割愛します。

 「環境評価書」から分かることは、(1)アメリカ軍がグアムに太平洋地域の拠点を置こうとしていること、(2)グアムには海兵隊が約10500名駐留することになること、(3)テニアンに訓練施設を作ること、(4)日本が約5500億円支払うことです。

 こうして見ると、海兵隊は沖縄からいなくなるということが言えると思います。大体主力のほとんどがグアムに移転した後、ヘリコプター部隊だけが沖縄に残る必要はありません。運ぶべき人たちがいないのにヘリコプターだけあっても意味がありません。また、攻撃型のヘリコプターであっても、主力と一緒に訓練をしなくては実践には役に立たないと考えられます。ですから分散移転も必要ないということになります。

 有事が発生した際に海兵隊は一番に出動する可能性があります。それなら、成田空港に匹敵する嘉手納飛行場まで飛行機で運び、そこから出撃すればよいのです。また、一旦グアムに退いた主力を何日も前から沖縄に駐留させると相手に米軍の意図がばれるので、軍事作戦としては上策ではないと考えられます。

 「環境評価書」を読んでみると、伊波・宜野湾市長が述べた米海兵隊のグアム完全移転の可能性は決して荒唐無稽の話ではなく、可能性がある話だと思われます。

(終わり)