「0161」 書評 副島隆彦・武田邦彦『原発事故、放射能、ケンカ対談』(幻冬舎、2011年6月)を読んで。副島隆彦氏の三月一九日の「原発事故安全宣言」は完璧に正しかった。鳥生守(とりうまもる)筆 2011年10月15日

●「放射線量安全基準レベル」が本書の最大テーマ


『原発事故、放射能、ケンカ対談』

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『放射能のタブー 悪魔の用語辞典<3>』

 ようやく『原発事故、放射能、ケンカ対談』が手に入ったので読んだ。何気ない気持ちで読み始めたが、本書の世界に引き込まれてしまった。そしてここには確かに、現在の日本の緊急問題があるので、書評を書こうと思った。一度目に読んだ時は、中部大学教授の武田邦彦氏は知識が豊富で正直で尊敬できそうな感触であった。ところが二度目の精読では、武田氏がわれわれ多くの日本人にとって恐い人であると感じてきた。本書は、世間であまり話題に上っていないようだが、日本の現状にとって非常に重要な本であると思った。

 本書の対談は福島第一原発大事故発生(2011年3月12日)から約二カ月後の、2011年5月8日に行われたものである。この本の最大のテーマは副島隆彦氏が「あとがき」で書いているように、「放射線量はどこまでが安全で、どこから先が危険か」をめぐる議論、すなわち放射線量の安全基準をどこにおくかの議論である。

 副島隆彦氏は、武田邦彦氏の放射線量安全基準は不必要に厳しすぎ、それでは原発事故避難者たちを苦しめることになると考え、そのことを直接指摘するために、そしてさらに武田氏の安全基準のレベルを緩めてもらうために、この対談を申し込んだようだ。その理由は副島氏が、原発事故避難民が帰宅して十分安全な生活をすることが可能である放射線量レベルであると考えているにもかかわらず、彼ら原発事故避難者は不自由で悲惨な避難生活を余儀なくされている現状があるからだ。

 副島氏のそのような要望に対して、武田氏は安全基準を緩めることに応じる気配を本書の数箇所で示しているが、その後や現在の武田氏のブログでの発言を見てみると、武田氏は安全基準をほとんど変えて(緩めて)いないようだ。

 そう言えば、武田氏は本書の「はじめに」において、「(この対談で)何が得られたであろうか? 対決とケンカは意味のある結果を生んだだろうか?」と述べている。武田氏としても、思い通りに行かなかったのだろう。しかし本書は意外にも内容満載なのである。

 では両者の安全基準はいかなるものであるのか、本書で述べられているその安全基準を先ず見てみよう。

●両者の考える安全基準レベル


副島隆彦

 副島氏は、ICRP(International Commission on Radiological Protection、国際放射線防護委員会)あるいは、日本の放射線医学者たちの2011年3月21日頃からの「日本は緊急事態であるから厳しいことは言ってられないので、100ミリシーベルト・パー・イヤーでも、大人でも子どもに対してでもがんは発生しない」という発表を支持し、それに基づき、福島の20キロ圏内の避難指定地域のほとんどの地域は安全に暮らせる放射線量レベル(100ミリシーベルト/年)以下であるので、それらの地域の安全宣言を出すことができると考えたようだ。そうすると、その安全な地域の元住民には、帰宅許可が与えられることになるのである。

 人によっては、「日本は緊急事態であるから厳しいことは言ってられないので」という文言に引っかかりを感じる人もいるであろうが、副島氏は他の資料や氏の独特の嗅覚からであろう、上記のICRPの発表を過去のデータに基づいた完全な真実であると評価を下したのである。

 したがって、副島氏は、放射線量の安全基準を

  ●100ミリシーベルト/年 ……(S1−1)

にすべきであるとの考えである。

そして、

  ●その安全基準レベルにおいて、「癌発生率の増加」は0.0%(なし) ……(S1−2)

という見解である。つまりこの安全基準は、この基準までは全く安全であるということだ。

 これは過去のデータに基づくものであるようだが、そのデータでは、

  ●放射線量200ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.5% ……(S2−2)

というものもあり、副島氏はこれに対しても支持し従うとしている。(本書、81、84、160ページ)

≪副島氏の主張のまとめ≫

●100ミリシーベルト/年 ……(S1−1)

●その安全基準レベルにおいて、「癌発生率の増加」は0.0%(なし) ……(S1−2)

●放射線量200ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.5% ……(S2−2)

 


武田邦彦

 他方、武田氏が提示する放射線量の安全基準は、

  ●1ミリシーベルト/年 ……(T1−1)

とするのである。そして、この安全基準レベルでは、

  ●毎年、1億人に対して5000人(つまり1000人当たりに0.05人)が癌になる ……(T1−2)

であると、武田氏は言うのである。武田氏は、このレベルを越えると癌発生率が極めて高くなるので、そのような放射線量のところに人が住むのは許されない、とするのである。

 そして武田氏によると、安全基準の20倍の、 放射線量20ミリシーベルト/年では、

  ●毎年、1億人に対して10万人(つまり1000人当たりに1人)が癌になる ……(T2−2)

となって、これはとんでもない危険度であるという考えるのだ。これに基づいて、武田氏は人々に警告を発信しているのである。(本書、113ページ)

≪武田氏の主張のまとめ≫

●1ミリシーベルト/年……(T1−1)

●毎年、1億人に対して5000人(つまり1000人当たりに0.05人)が癌になる ……(T1−2)

●毎年、1億人に対して10万人(つまり1000人当たりに1人)が癌になる……(T2−2)

 

 これが武田氏の主張である。ただし武田氏の提示する数値は癌発生率の増加(率)ではなく、単なる癌発生率を言っているのである。武田氏は、ICRPの数値に合わせて癌発生率の増加(率)を提示しているのではないのである。武田氏は科学者(大学教授)であるのだから、人々が両者の安全基準の差異を容易に比較検討できるように、癌発生率の増加(率)に換算して提示してくれてもよさそうなのだが、それをしてくれないのである。極めて不親切である。読者はこの点に注意が必要である。

 したがって、副島氏と武田氏の、両者の安全基準を上記のように書き出したが、このままではまだ両者を比較検討はできない。そのためには、武田氏の提示内容を癌発生率の増加(率)に換算しなければならないのである。

 そのために、先ず(放射線量のほとんどない)平時での癌発生率を求めてみる。

●平時の年間癌発生率

 現在の平時の年間癌発生率と言っても、私は専門家ではないのでそのデータを持ち合わせていない。よって、現在の平時の年間癌死亡率を求め、少し強引かもしれないが、ここでは、それを年間癌発生率とする。正確な値は得られないかもしれないけれども、おおよその値と傾向は得られるであろう。

 現在の日本人は3人に1人が、癌で死んでいる。では、1000人当たりに何人が癌で死亡しているのだろうか。それをここで計算してみよう。

 一世代が33年とすると、毎年1000人当たりに30人が死亡することになる。その死亡者のうち3分の1が癌で死亡しているのだから、

  ●毎年、1000人当たりに10人が癌で死亡 ……(A0)

ということになる。これが年間癌死亡率である。

 先に述べたように、ここではこの年間癌死亡率を年間癌発生率とするので、 年間癌発生率は、

  ●毎年、1000人当たりに10人が癌になる ……(A1)

となる。

 これを基にして、データ(T1−2)など武田氏の提示した癌発生率の増加率を求めてみる。

≪鳥生氏による癌発生率のまとめ≫

●毎年、1000人当たりに10人が癌で死亡 ……(A0)

●毎年、1000人当たりに10人が癌になる ……(A1)

 

●武田氏が提示したデータの癌発生率の増加率

 先ず、武田氏が提示したデータを、1000人当たりというように書き直す。

 そうすると、安全基準(1ミリシーベル/年)におけるデータ(T1−2)は、

●毎年、1000人当たりに0.05人が癌になる ……(T1−2−1)

となる。式(A1)と式(T1−2−1)を比較すると、武田氏の提示した数値は、

●安全基準レベルにおいては、癌発生率の増加は0.5% ……(T1−2−2)

となる。

 同様にして、放射線量20ミリシーベルト/年におけるデータ(T2−2)は、

  ●毎年、1000人当たりに1人が癌になる   ……(T2−2−1)

となり、それにより、

  ●放射線量20ミリシーベルト/年においては、癌発生率の増加は10.0% ……(T2−2−2)

となる。

これで、両者の安全基準を比較できるようになった。

≪癌発生率に関するまとめ≫

●毎年、1000人当たりに0.05人が癌になる ……(T1−2−1)

●安全基準レベルにおいては、癌発生率の増加は0.5% ……(T1−2−2)

●毎年、1000人当たりに1人が癌になる   ……(T2−2−1)

●放射線量20ミリシーベルト/年においては、癌発生率の増加は10.0% ……(T2−2−2)

●両者の安全基準の比較

 以上によって、両者の安全基準とその根拠となる科学的データ(事実、サイエンティフィック・ファクツ scientific facts)をまとめると、次のように表すことができる。

 副島隆彦氏は、

  1. 放射線量100ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.0% ……(S0−1)
  2. 放射線量200ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.5% ……(S0−2)

が科学的データ(事実、サイエンティフィック・ファクツ)であるとし、

それを踏まえて、

(1)安全基準は100ミリシーベルト/年が適切 ……(S0−3)

とする。

 武田邦彦氏は、

  1. 放射線量1ミリシーベルト/年では、 癌発生率の増加は0.5% ……(T0−1)
  2. 放射線量20ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は10%  ……(T0−2)

が科学的データ(事実、サイエンティフィック・ファクツ)であるとし、
それを踏まえて、

(1)安全基準は1ミリシーベルト/年が適切 ……(T0−3)

とする。

ここで、両者の違いを見てみる。

 両者の違いの一つ目は、放射線量の人体への影響についての根拠事実(データ値)の相違である。

 一方は、放射線量100ミリシーベルト/年で癌発生率の増加が0.0%なのに対し、他方は、1ミリシーベルト/年で癌発生率の増加は1.0%としている。これはまるで違う。どちらが正しいのだろう。これは問題である。

 これまで、60年、100年に人類が経験した事実から、それを分析集計して得られる値である。だから、両者は同じでなければならないのである。しかしまるで違っている。これならば、両者の安全基準が一致しようがない。

 副島氏は、科学的データを国際放射線防護委員会(ICRP)の発表によるといっている。副島氏のデータの出典は明らかなようだ。ところが武田氏の方は、その依拠するデータの出典を明示していない。この武田氏の態度は不思議だ。科学者(理科系)らしくない。本当に武田氏はいつも、データの出典を明らかにしない。そういう意思がまったく感じられない。

 これでは武田氏の主張は受け入れられないことになる。副島隆彦氏の採用する「放射線量100ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.0%である」というデータは、これまでの60年、100年にわたる人類の歴史(経験)から導き出された結果であるに違いない。このくらいのことは分かっているであろう。だから副島氏が依拠するデータ(事実)が正しいのだろう。

 両者の違いの二つ目は、副島氏は癌発生率の増加が0.5%であるところを安全基準としようという点については、考え方はほぼ一致しているが、その増加率に対する恐怖感が全く違うという点である。

 副島氏は0.5%の増加であれば、平時と変わらないではないかという考えがあるのに対して、武田氏は、その増加率は、増加したのだからかなり危険であるというような考えで言う。

 これは武田氏が、平時の癌発生率を基にして増加率を考えないからだ。武田氏にとっては、2倍(100%)増とか5倍(400%)増とか、そういう言葉が簡単に出てくるのである。

 だから武田氏の目には、実際には癌発生率1.0〜5.0%の増加であっても、2倍(100%増)とか10倍(900%増)に見えるのである。それで大きく増加したと自分で思い込み、周囲にも思い込ませるのである。そういうことで、実際のわずかな増加が大きな増加とされ、大きな危険状態だとされるのである。自他ともに、そういうトリックに嵌っていくのである。

 それに対して副島隆彦氏の考えは、真っ当である。現実を踏まえ現実を考えた判断である。現実のデータから考えているから、間違いがない。普通の人たちの賛同を得られるであろう。

 つまり、こういうことが言えると思う。ある放射線量によって癌発生率の増加率が1%になったのであれば、その環境の住民が癌になった場合、その放射線量が原因である可能性は1%であり、そして、その放射線以外の要因が原因である可能性が99%であるということである。

 武田氏や恐怖を煽る学者たちは、話しているうちにだんだんと、その環境で癌になった人の発癌原因が100%その放射線量であるかのように話し、それを聞いている人々もその多くはだんだんそのように聞こえてくると思うのだが、上記のように整理してみると、それは全くの誤りであることが分かる。

 武田氏の提示する(事実とは思えない)データからみても、武田氏が絶対危険とする放射線量10ミリシーベルト/年や20ミリシーベルト/年の環境に居住する人が癌になっても、それは放射線量が原因だとは直ちに言えないのである。なぜならば、その確率は5%とか10%とかそのような値であるのだから。つまり、それは90%以上の確率で放射線量以外がその発癌原因ということなのである。放射線量以外の原因が9割も占めているのである。

 後述するように事実は、世界の現状は発癌物質が蔓延しており、それゆえ人々は放射線量で癌になる前に癌になる状況なのである。だから、武田氏の提示した値のようにはならず、ICRPが示すデータのようになるのだ。

 だから武田氏らは、実際には放射線量の影響が少ないにもかかわらず、それが極めて大であるかのように主張することになるのだ。本人たちはその自覚がないかもしれないが、「小さな危険」を全く在りもしない「巨大な危険」として発信するという類のことをしているのだ。

 こう考えてくると、私は場合によっては、癌発生率の増加が少なくとも10%までは、強制避難をさせなくても良いと思う。原子力発電の大事故が起こったのだから、それくらいは仕方がないと判断すべきだと思う。これでも放射線量による癌発生確率は、わずか10%である。癌になっても、放射線量によって癌になったと思わなくても良いレベルなのだから。

 だから、副島隆彦氏が三月一九日の時点で安全宣言を出すべきだとしたのは、全く正しかったのである。もう放射線量100ミリシーベルト/年の地域の避難者は、帰宅して生活することを許すべきであり、帰宅させるべきだ、と思う。

●副島隆彦氏の安全宣言(2011年3月19日)は完璧に正しかった

武田氏はブログで次のように言っている。

(転載貼り付けはじめ)

武田邦彦(中部大学)ブログ
「どの程度、放射線を怖がる必要があるか?」 からhttp://takedanet.com/2011/09/post_7155.html

1. 学問的には1年100ミリ以上の被曝と病気の関係しかわかっていない(低線量の健康への影響は、医者の間で合意されていない)。

3. 1年100ミリ以下は「わからない」のであって、「危険」か「安全」かもわからない(医師同士で合意できない)。

(転載貼り付けおわり)

 このように武田氏は、放射線量100ミリシーベルト/年以上まではその健康への影響は分かっているが、100ミリシーベルト/年以下では分かっていない、と言っている。ここで、武田氏は「100ミリシーベルト/年以下では分かっていない」と表現しているが、本当はそうではなくて、もともと(平時には)放射線以外の発がん性物質などによって癌が発生しているので、それらに隠れてその放射線量による影響が測定不能だ、というのが本当のことなのである。

 100ミリシーベルト/年以下がそうなのだから、それ以下は完全に安全であるということになる。放射線以外(平時)での癌発生率がもっと高ければ、完全に安全なレベルはもっと高くなるし、平時の癌発生率がもっと低ければ、完全に安全なレベルはもっと低くなる。現在の世界の現状では、それが100ミリシーベルト/年だということなのである。

 だから副島氏が採用するICRPの提示したデータ、

 ●放射線量100ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.0% ……(S0−1)
 ●放射線量200ミリシーベルト/年では、癌発生率の増加は0.5% ……(S0−2)

は、全く正しいのである。放射線量100ミリシーベルト/年以下では、その放射線量で癌になる前に、その他の発がん物質などによって癌になる、ということである。(上式からは、200ミリシーベルト/年でも十分に安全・その影響はきわめて軽微と言えるのである。)

 われわれは放射線に対して恐怖心を植え付けられてきているのだが、このように放射線は思い込まされていたほどには危険でなかったのだ。現状は発がん性物質などの方が、放射線などよりも恐い状態なのである。というか、世界および日本は人口(発癌)物質にひどく汚染されているので、低線量の放射線は安全といえるのである。

 地球を汚すヨーロッパ生まれの文明が地球に広まっているから、低線量の放射線はほとんど危険がないことになっているとも言えるだろう。そういう現代文明の汚染の上に、われわれの生活が成り立っているのだとも言える。原発は電気を我々に供給してくれるが、その原発は同時に海洋水の熱汚染と放射能汚染を我々にもたらすように。――そういうことなのだ。

 今回2011年3月12日からの原発事故で、副島隆彦氏が、放射線量は100ミリシーベルト/年以下であったのを見て、三月一九日に「安全宣言」をしたのは、全く完璧に正しかったのである。(もちろん、ICRPの発表も。)驚くべき迅速で正しい対応である。

 副島隆彦氏は、次のように言っている。事故直後(だけ)を非常に心配していたことがわかる。副島氏は当初から被害はそこ(爆発事故直後の数日)で決まる、と考えていたのではなかろう。


福島第一原発3号機の事故の様子

(引用はじめ)

 チェルノブイリ事故(3)の情報だけが私の脳にありましてね。放射性物質が、300キロのベラルーシ(白ロシア)のほうまで飛んだと。実際は、100キロ、200キロぐらいでした。で、事故(1986年)のとき赤ちゃんだった女の子たちだけが、5年、10年、15年後に発病して、チェルノブイリ・ネックレスって呼ばれる甲状腺の摘出手術をした。数千人だったか、正確には今も知りません。ですから東京までも100ミリシーベルト・パー・アワーぐらいのが降り注いだら、これはもう日本も相当な打撃どころじゃすまない。国家の存亡にかかわる。民族が大変なことになるんだと思いましてね。それならば、自分はもう死ぬ気で石棺作業(4)を手伝いに行くと。そのための国民の決死隊を募集すると3月13日には言い出したわけです。(19ページ)

 3月15日に2号機の地下の圧力抑制室(サプレッション・チェンバー)での爆発があって、これが重大でした。(14ページ)

 武田さんたち専門家でもまだあのときはどうなるか分からなかったはずなんです。いくら核爆発(再臨界)はない、格納容器は壊れないということが分かっておられても、何が起きるかは15、16日までは分からなかったはずなんです。この後、私は非常に楽観的になりましてね、私たちは救われたんだという気持ちが非常に強まった。(20ページ)

 1986年のウクライナのチェルノブイリ事故のときは、あれは核爆発でしたからヒドかった。それで5年後、10年後に甲状腺異常の女の子たちが数千人出た。この問題だけを当初私は心配したんです、最初の3月19日までは。それが原発近くがたったの15マイクロシーベルト毎時だったから、まったく問題ないことが分かってホッとしたのです。(162〜163ページ)

 私が3月19日に原発のそばまで行って放射線量を測ったら、たったの15マイクロシーベルト毎時しかなかった。だから日本民族は救われたと判断して、現地から弟子たちに連絡して私の「学問道場」というホームページに緊急報告文を載せました。私たちは救われたんだと。高濃度の危険な放射能の放出はもうない。日本国民は助かった、と。(18ページ)

(引用終わり)

 そして副島氏は、2011年3月17日頃から安心し、3月19日に「安全宣言」を報告したのである。これも全く完璧に的確な判断だったのだろう、と私は思う。

 このように副島氏は、事故後の一週間後に事故のすべてを見通し、その時点でもう避難の必要がないと確信したのだ。これは驚くべき先見性である。

●武田邦彦氏の考えについて

 武田氏は自分のブログで、次のように言っている。

(転載貼り付けはじめ)

武田邦彦(中部大学)ブログ
「どの程度、放射線を怖がる必要があるか?」 から
http://takedanet.com/2011/09/post_7155.html

4. そこで、1年100ミリから0ミリまで直線を引いた(このことを「***仮説」と呼ぶこともあるが、学問的には仮説と呼べるものではなく、「わからないから直線を引いた」にすぎない。「直線仮説」等というと議論したくなるが、もともと学問的な根拠がないのだから議論しても意味がない)。

5. つまり、1年100ミリ以下はわからないのだから、「エイヤッ!」と直線を引いただけ。人間にはわからないことがある。科学にも医学にもわからないことが多いことを認める。

(転載貼り付けおわり)

 これではっきりしたのだ。前述したように、武田氏が根拠として提示した科学データは、武田氏が「直線」を引いて得られたグラフ上の値である。おそらく、現在の世界の発癌率(癌発生率)が1910年ごろ以前のように現状よりずっとずっと低ければ、武田氏の提示データが現われるであろうが、現在の発癌率はそんな甘いものではないので、武田氏の提示したデータはいくら測定しても現われないのである。

 放射線で癌になる前に、人工発癌物質などによって、人々は癌になっているのである。結局武田氏は、その(平時の、放射線以外の)発癌率をまったく無視しているから、論理の組み立てが全く間違ってくるのである。だから現状では起こりえない架空の話を、武田氏は発信していることになるのである。

 武田氏は本書で、「(放射線量175シーベルト/年ならば、)毎年、1000人に6人の癌が出る」(一〇七〜一〇八ページ)と言っている。世界に強力な人工発癌性物質などが蔓延していなければ、5年後、10年後から、おそらく武田氏の言うとおりになるだろう。しかし癌になる人は、放射線で癌になる前に、人工発癌性物質で癌になるということだ。200ミリシーベルト発癌率は0.5%増加するというデータがあるのだから、さすがにこのレベルになると、放射線の影響が見え始めるのである。

 人間の身体は、がん細胞ができてもそれを修復できているうちは癌が発症しない。インフルエンザフィル巣に感染していても、それに打ち勝っているはインフルエンザが発症しないのと同じことだ。そのようなことで、武田氏の言っているのは、現状に全く合っていないのである。そのような放射線量では、癌はほとんど増加しないのである。

 このように、武田氏は低線量(5ミリや10ミリシーベルト/年)レベルの、事実上ありもしない問題を、さも重大な問題として騒ぎ立て、人々を扇動する傾向が強くある。そして上記に示したように、安全基準(1ミリシーベルト/年)論議ではそれを実際に行っているのである。そして人々は武田氏の発信の間違いを正面から批判しない。これによって、無益で有害な混乱が起きている。

 武田氏が、今まで行ってきたこのような発言の誤りを明確に訂正し謝罪しない限りは、私は、武田氏の発言を信用することはできないだろう。

●まとめ

 以上のように、本書に触発されて考察を進めていくと、幸か不幸か現代文明によって人工の発癌物質が蔓延しているので、今回の福島第一原発事故による放射能汚染は、ほとんど健康に影響ないという結論が導き出される。事実、現状においては、放射線量はもうずっと前(3月17日)から「安全」だったのである。

 アメリカのトップ30人はそれを知っている。日本のトップたちや、東京電力などのトップたちも知っているだろう。なのに強制避難は続けられており、「危険情報」と、その「対策情報」が間欠的に流されている。人々を恐怖につなぎとめたままだ。これは「ショック・ドクトリン」といって、戦争や大災害などを利用して人々に恐怖を与え、その恐怖の力で支配するという手法を用いた、計画的なアメリカによる「日本の再占領」であるだろう。それが今進められているのだ。

 武田邦彦氏は、新しい体制派(支配者)になるように動かされているのだろう。

 そのようなことも本書で書かれており、その他情報満載で、私にとって予想以上にこの本は重要であった。

 「福島原発の避難区域のほとんどはもうとっくに安全である」という、この事実(サイエンティフィック・ファクツ)に立ってこの本を読みこなせば、副島氏の視点に少しは近づけるのではないか。

 なお最後に、ここでの計算および考察において誤りがありましたら、ご指摘ください。誤りが認められましたら、お詫びして訂正させていただきます。

(おわり)

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