「181」 論文 書評:大下英治『「超小型原子炉」なら日本も世界も救われる!』をよむ。鳥生守(とりうまもる)筆 2012年3月11日

 大下英治著『「超小型原子炉」なら日本も世界も救われる! 原子力と50年・「服部禎男」大激白』(ヒカルランド、2011年11月30日)を読んだ。本書は、原子力利用専門家の服部禎男(はっとりさだお)氏の話を作家の大下英治(おおしたえいじ)氏が受けて書かれた本である。なぜか服部氏が直接書いていない。おそらく同志の大下氏が書くことによって、服部氏への風圧を少しでもかわすためなのであろう。

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『「超小型原子炉」なら日本も世界も救われる! 原子力と50年・「服部禎男」大激白』
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服部禎夫               大下英治

 服部氏は、日本が突然原子力利用に取り組み始めて、日本の工学部大学院で原子力研究が始まった頃、すなわち昭和32年(1957)から原子力を研究してきた人だ。原子力とともに50年以上歩んできた人である。大下氏の方は、広島の生まれで、お父さんが広島原爆投下時に被曝して全身ヤケドになって(その後傷が広がって)その6日後に亡くなられている。大下氏自身もそのとき1歳で被曝されたのだという。本書はそういう二人が書いた本である。

 本書は原子力平和利用を、その専門家がその内部から見たものを書いた、めずらしい本である。その期待にたがうことなく、内容の充実した本である。これと、副島隆彦編著『悪魔の用語辞典3・放射能のタブー』(KKベストセラーズ、2011年11月5日)を読み併(あわ)せると、原子力平和利用の実態、その現実の全貌がかなり見えてきます。

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『放射能のタブー』

 この『放射能のタブー』という本は、原子力をその外側から見て、そこから究明されたことを書いた本である。合計16人が書いてあり、いろいろな角度からのアプローチがなされている。原発事故による健康被害や生活や社会への影響という観点からの考察が主体となっているが、そのほかにも広範囲の論及がなされている。

 ここでは、『超小型原子炉』に書かれているメインテーマを紹介することにする。

●原子力平和利用の実用化が成功することを阻止する巨大な支配力がはたらいている

 上記二著を読むと原子力平和利用の全容がかなりよく見えてくるが、ではその全容は何かと言うと、次のようになる。

 日本を含め我々の自由世界(アメリカ陣営、対米同盟国)は、金融マフィア(ウォール街、石油メジャー、グローバリスト)がおこなう(悪徳)覇道文明に支配されているということだ。そして原子力発電(原子力平和利用)もその支配のカードのひとつである。覇道文明は、一方で、原子力平和利用を巨額の収奪のためにのみ使い、他方で、その原子力平和利用技術が順調に発達することをあらゆる手段を使って阻止しようとするのである。一言で言えば、そういうことなのである。

●覇道文明は世界の富を吸い上げ、世界を疲弊させる文明である

 王道文明は自国民の安心で豊かな暮らしを目指し、そして諸外国の安心で豊かな暮らしを目指す文明である。(西南)ヨーロッパ以外ではこの王道文明が、地域的にではあるがそして時々途切れたが、基本的には実現していた。王道文明は世界の共存共栄を理念とし目標とする文明である。

 この王道文明を標榜せず王道文明に従わない文明が、覇道文明である。(西南)ヨーロッパ文明がまさにそれである。覇道文明は自国の99%の市民から富を吸い上げ、自国を疲弊させ、また諸外国あるいは諸民族から富を吸い上げ、諸外国、諸民族を疲弊させる、そういう文明である。今の、金融マフィアに牛耳られているアメリカ政府が、悪徳の覇道文明路線を歩んでいる。

 我々自由世界(対米同盟国)の人々は現在、その巨大マスコミから、多くの虚偽と捏造の報道や不公正な報道にさらされて、真実の報道や公明正大でかつ公正な報道に接することができなくなっている。これが覇道文明の特性である。普通の多くの人びとがアメリカの金融は崩壊していることやアメリカ国民が虐げられオキュパイ(occupy、占拠)運動をおこなっていること、警官隊がそれに激しく襲いかかったり同情したりして対峙していること、アメリカやイギリスがシリアに侵入してシリア内戦が起こっていることなどを報道で知らされない。アメリカ政府は悪の覇道文明下にあるから、事実を伝える報道をしないのである。

今のアメリカ政府のやっていることは(1963年11月に暗殺されたケネディ大統領の時とちがって)悪徳文明(覇道文明)であり、したがって今のアメリカは悪徳の覇道文明国であり、悪徳の帝国なのだ。その悪の帝国の現世界皇帝が、97歳のデイビッド・ロックフェラー(David Rockefeller)である。アメリカ政府はこの覇道文明下にある。(覇道文明については、鳥生氏の論文、「0118」 論文 ヨーロッパ文明は争闘と戦乱の「無法と実力の文明」である(1) 鳥生守(とりう・まもる)筆 2010年11月28日 をご参照ください。鳥生氏の論文へは、<a href=" http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/files/ronbun122.html">こちら</a>からどうぞ。)

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デイビッド・ロックフェラー

 原子力平和利用(原発)の歩みもこの悪徳の覇道文明にさらされており、順調な発達を妨げられているのである。

●原子力発電の本来の目標はウラン238からエネルギーをとりだして利用することであった

 採掘したウラン鉱石を製錬すると、「イエローケーキ」と呼ばれる酸化物の天然ウランができあがる。天然ウランには、熱中性子による核分裂の連鎖反応を起こしやすいウラン235と、起こしにくいウラン238が含まれる。その天然ウランのなかに含まれる含有率は、

  ウラン235が0.7% 
ウラン238が99.3%

である。すなわち、ウラン238は核分裂反応を起こさず、エネルギーを放出しない。だから、このままでは使えない。ところがこのウラン238は高速中性子を与えられるとプルトニウム239にかわり、核分裂が可能となり、そこからエネルギーを取り出すことができるようになる。だからこのウラン238を安価で電力エネルギーに変換できれば、原発は超安いエネルギーになる。したがって専門家たちは、ウラン238をエネルギーとして利用して超安価な電力としようと考えたのであった。これが、当初からの原子力平和利用の本来の目標だった。

 アメリカは太平洋戦争中にマンハッタン計画を立てて、原子爆弾をつくって広島と長崎へ投下したが、その計画の当初から、ウラン型原子爆弾とプルトニウム型原子爆弾の2種類の原爆をつくる計画だった。それはどうしてかというと、ウラン235があまりにも含有率が少なかった(0.7%)からであり、多く(99.3%)あるウラン238をプルトニウム239にして用いれば、原爆がもっとたくさん、そして安価につくれるのではないかと思ったからだ。

 それで当初から2種類の原爆をつくったのだ。もっとも、純度の高いプルトニウムでなければ原爆に使えなかったので、実際には決して安価にはならなかったようだ。しかし原発(平和利用)の場合は、純度を上げる必要がないので、ウラン238を利用できるのではないかと、一部の専門家は思ったのである。これが当初の目標だったのであり、今でも、まじめな専門家たちにおいては、これが原子力平和利用の目標なのである。

 現在広く運転されている(軽水炉の)原発は、ウラン235のみを使っているだけである。残りは利用されていない。現在は天然ウランに含まれる0.7%のウラン235のうちの0.6%分くらいしか電力に利用できていないのである。だから、天然ウランに含まれる99.3%のウランのうちの90%分くらいを電力に利用できれば、

  90/0.6 = 150

となり、すなわち、現在の150倍ほど有効に天然ウラン資源を利用することになるのだ。服部氏はそのように言う。(だから、ウラン235の核分裂で得られるエネルギーとプルトニウム239の核分裂で得られるエネルギーとが、ほぼ等しいということになる。)

 ウランは毎年海中に蓄積されており、海水中には四十億から五十億トンも眠っている。日本には黒潮に乗ってウランが500万トン毎年やってきている。現在日本が消費しているウランは年間約5千トンであるから、黒潮に乗ってきているウランのうち0.1%でも捕集すれば済むことになる。日本では海水からの捕集は現在成功している。それは、通常(ウラン鉱山)のウランよりも10倍ほどのコストである。しかし、利用率が150倍であれば、コストは逆に現状よりも1ケタ安くなる計算になる。

 このようなことで、ウラン238を安全かつ安価に利用することができれば、原子力発電の電気料金は非常に安価(10分の1以下)になるというのである。もしそうなれば、日本はエネルギー資源大国になり、したがって日本は必然的にエネルギー独立国になるのである。また世界の国々も、エネルギーを安価に使えるようになるのである。

 だから原子力平和利用の本来の目標は、ウラン238をエネルギーに利用することだったのである。

 もしこれが順調に実現され実用化されると、石油の需要は大きく減少し、石油の価格は暴落し、石油メジャーの現在の(莫大な)収入源は断たれることになる。これは悪徳覇権文明にとっては好ましくないことなので、原子力平和利用のそのような進展をできる限り阻止することが、覇道文明の課題であったのである。

 マスコミ情報からは、この重大な意味を感じ取ることができないようになっている。それどころか「論点そらし」や「めくらまし」が大々的に行われていて、各国の国民がその重大な意味を忘れ去り、あるいは、知ることのないようにしているのである。しかし本当は、そのような重大な意味がもともとあったのであり、「自由世界」各国の国民のあいだでは、いつの間にか、この重大な意味が忘れ去られたのである。

●乾式再処理(高温冶金法)と小型高速増殖炉を組み合わせれば「夢」が実現可能

 使用済み核燃料の再処理と高速増殖炉は、ウラン238を利用しようという「夢」の技術である。

 服部禎男氏は、この「夢」が、乾式再処理(これは高温冶金法とも言われる)と小型原子炉(これは高速増殖炉である)で実用可能だと主張する。そうなれば上述の目標どおりに、黒潮が運んでくるウランを安価(16分の1)でかつ有効に使うことができる、電気料金は現在の10分の1以下となり、というのである。これがこの本の最もメインのテーマである。

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乾式再処理

 まず乾式再処理であるが、これは冶金技術に含まれるものであり、昭和電工、東邦チタニウム、昭和アルミ、神戸製鋼、川崎重工、住友金属工業などがもともと乾式再処理と似たような研究をしていたのだ。この乾式再処理でウランとプルトニウムからなる金属燃料をつくる。その工程はそんなに難しいものではなく、これによって安価な高速増殖炉用の原子力燃料が得られるのだ。

 そして、この過程で得られるプルトニウムは、中性子線を出す不純物の放射性重元素「マイナーアクチノイド」が含まれている(つまり結局純度が高くない)ので、鉄球内に納めた原子爆弾に使えない(核兵器への転用は不可能だ)という。核兵器としては使えないのだ。だからこの乾式再処理は完全な原子力平和利用なのである。

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4S小型原子炉

 つぎに小型原子炉であるが、これは、炉心の直径90センチ、炉心の高さは4メートルの、発電出力3万キロワットの小型高速増殖炉である。この小型原子炉によって、金属燃料は40年間連続使用可能(交換不要)となり、制御棒なし(不要)となり、動く装置がほとんどなくなり、したがって運転員は要らなくなる。熱循環系が完全に故障しても、自然放熱で炉心の温度は事故に至るまで上昇しない、そういう絶対的な安全特性を持つのだ。

 服部氏は、「小型原子炉に、運転員は必要ない。また燃料の交換の必要もない。事故は絶対に起こりえない。水を使わないため、海や川のそばにおく必要もない。砂漠のあちこちに点在する街々に、小型原子炉を置けば良い。日本の逆浸透膜を使った脱塩処理技術と組み合わせれば、砂漠化に打ち勝つ水が作れる」と言う。この小型原子炉によって、天然ウランのほぼ90%以上がほぼ40年間をかけて利用できると言うのだ。

 服部氏は、1958年の東京工業大学の大学院原子核工学修士課程にいたとき、種々の条件の臨界計算ができるようになったときに、「直径1メートル以下の炉心であれば安全だ。これだと、万が一事故が起こっても少し温度上昇すれば、連鎖反応は自然に止まる。本質的に安全な発電炉として実用化できるはずだ」ということを発見したそうだ。それをその時の先生の武田栄一教授に話して、その理論についての同意と賛意を得ている。

 小型にするメリットはほかにもあるという。設置場所をとらないことと、大規模な送電が要らないことである。この小型原子炉を出力3万キロワットにすれば、1基当たりに必要なスペースは200坪(660平方メートル)である。浜岡原発の敷地面積は約48万4千坪(160万平方メートル)であるので、その敷地には2400基が設置できる。その出力電力は、7200万キロワットである。つい最近まで浜岡原発は3基が稼動して、稼働率を考慮に入れると実質約240万キロワットの発電をしていた。

 したがってこの小型原子炉を用いれば、実に30倍の発電ができるという計算になる。逆に言えば、30分の1の敷地で済むのだ。また絶対的に安全だから、都会でもどこでも電気の消費する場所に設置できる。だから、大規模な送電が不要であり、そのメリットも大きい。このように原子炉は大型化するよりも、小型化したほうがよかったのである。

 この小型原子炉は「スーパー・セーフ、スモール・アンド・シンプル」の頭文字をとって「4S炉」と名づけられた。

 この小型原子炉をいろいろな人の提案によってさらに改良したのが、超小型原子炉「ネイチャー・セル10」であるという。これは出力1万キロワットで、炉心直径は85センチ、炉心高さは1.5メートル。器械のほとんどを一個のカプセルに収め、現場工事を事実上なくして、工場での高品質量産を可能としたものである。これも絶対安全ということだから、現在のプロパンガスボンベのような取り扱いが可能ということだろう。

 以上のような、乾式再処理と小型原子炉で、故障なし、放射能漏れなし、廃棄物なしという、そういう原子力発電が可能だと言うのである。

 覇道文明のもとでも、アメリカと日本には良心を失わない研究者がわずかだが、存在していたのである。そういう人たちがここまで開発を進めてきたのである。

 ところが世界の政府機関と原子力産業はこの路線と全く異なった路線を歩んだために、完全に行き詰ったのである。

●これまでの原子力平和利用の状況(完全な行き詰まり)

 現在の原子力平和利用は、先述のような、乾式再処理と小型原子炉を採用しなかったので行き詰っている。完全に失敗していると言ってよい。それはどういう状況か。

 現在の日本の原子力発電は、ほとんどが軽水炉(普通の水を減速材に使う原子炉、加圧水型と沸騰水型がある)で行っている。これは天然ウランのなかに0.7%しかないウラン235を用いている。天然ウランに99.3%あるウラン238は利用できない。だから、電気量は火力発電と同程度である。今後出てくる使用済み燃料の処理や揚水発電コストや事故対策などを入れれば、コストはもっと上がる可能性が大きい。とにかく巨額の資金を投入して、この今の原発でいくらがんばっても、原子力利用の経済的なメリットはどこにもないのである。

 なのに、どういうわけか日本ばかりでなく世界はこの原子炉を用いた、100万キロワット級の大出力の巨大な原発を急いで、何十基もあるいは何百基も建設したのである。巨大な原発装置を建設すれば、それを受注した建設会社には巨大な儲けになる。だが、ただそれだけだ。そのほかには、大きなメリットはどこにもない。

 一国あたりにつき数基を建設するのならまだ理解できるが、この軽水炉原発を急いで何十基もつくるメリットはなかった。まだ、高速増殖炉が実用になっていないのだから、使用済み核燃料(ウラン238)が溜まる一方になるだけである。この高速増殖炉でない巨大原発を次々と建設したことは、非常におかしな政策だったのである。

 事実、この軽水炉原発の建設ラッシュは、高速増殖炉の実用化が遅々として進まないなか、開発された軽水炉原発が建設されるようになったというのである。だからいつの間にか急に、原発の思想が「ただ原子力で大規模発電をする」という「大規模、大出力」崇拝に変わったのであろう。恐らく「大規模」ということに目を奪われていったのではないか。

 最初は何割か安い電力ということであり、そのうち「CO2 地球温暖化説」が世界のマスコミによって煽られたが、それは、その建設ラッシュのおかしさを隠蔽する役割を果たしたのだろう。この建設ラッシュは、覇道文明が世界の富を吸い上げる策略(相手を自分の望んでいる事態に陥らせるためのはかりごと)だったのだろう。

 高速増殖炉は、熱中性子を利用せず、高速中性子をそのまま利用するため、減速材を利用しない。それによって燃料(プルトニウム)を消費する以上に生産していく夢の原子炉で、原子力開発の理想的なシステムとして、早くからアメリカ、フランス、ロシア、イギリス、ドイツ、日本などで積極的な開発が進められていった。

その後、高速増殖炉開発の歴史は事故の歴史となる。実用化は遅々として進まず、後から開発された軽水炉(普通の水を減速材に使った原子炉)が主流となり、主要先進国はすべて増殖炉開発に見切りをつけて中止する結果となってしまった、と言う。(本書、121ページ)ここで発想の転換が起こっていたのである。それで上述の軽水炉原発の建設ラッシュが起こったのである。

 日本で二番目の高速増殖炉であり、日本で最初の本格的な実用高速増殖炉である、出力28万キロワットの「もんじゅ」は、1983年に建設準備工事に着手し、1985年に本体工事を着工した。そして1995年8月に発電を開始したが、その3ヵ月後の12月に事故が発生し、それ以後発電は行われていない。2010年5月に運転再開を試みて臨界確認をしただけで停止し、その後装置の落下事故が起こっている。だから、まともに運転できていない。

 日本で最初の高速増殖炉(これは実験炉だ)の「常陽」でも、出力7.5万キロワット炉(1977年〜1978年)と、次の10万キロワット炉(1982年〜1997年)は、一応なんとか無事に発電を行ったようだが、その次の14万キロワット炉(2003年〜2007年)の発電は運転開始から4年後の2007年に事故を起こして停止し、2016年度の運転再開を目指している状態である。「もんじゅ」はこれを参考に建設されたのであるから、うまくいかなくても不思議ではない。発電出力を高くしていきなり実用炉にしようとしたのだから、考えが甘かったのだ。

 問題は、大出力を目指し、いつまでもそれに固執するから起こるである。高速増殖炉は、出力5万キロワット、せいぜい10万キロワットまでが適切で、それ以上の出力では、どうも制御が難しく、うまくいかないのであろう。

 再処理の状況はどうだったか。六ヶ所村の再処理施設は、湿式再処理(ピユーレックス法)を用いている。このピューレックス法は、非常に丁寧な再処理をおこない、それを繰り返せば純粋なプルトニウムが抽出できる。その代わり、大変な手間と巨額の費用が必要となる。具体的にはピューレックス法は、酸に溶かした燃料棒からウランとプルトニウムをリン酸トリプチル(TBP)で抽出・分離する方法で、何千という気の遠くなるような工程を経て、純度の高いプルトニウムを抽出する方法である。工程が多いので、そのプルトニウムは安価にならず、またこの工程では核兵器への転用可能なプルトニウムが製造可能なのである。

 この六ヶ所村の施設はまた、まるで「配管のジャングル」のような巨大プラントである。だから運転のトラブルが起こらないはずがない代物だそうだ。とにかくプラント建設業者には好ましい施設なのだろう。

 そしてさらに、廃液基準、廃液処理の問題もある。国際放射線防護委員会(ICRP)の安全勧告が厳しすぎ、日本政府はそれに基づく条約を結んでおり、六ヶ所村施設はそれを遵守しようとしているのだ。それで、廃液を基準値まで引き下げるために、何千人ものスタッフが働いているのだ。その基準値というのは、わずかの放射線でも安全でないというものであるから、事実上たいへんなコストになり、また容易に処理できないことになる。六ヶ所村の再処理工場は、1993年の着工から当初予定の3倍近い2兆2千億円の建設費が投入されているにもかかわらず、いまだ実用運転は開始されていない。その本当の原因はこの廃液処理だというのである。

 実際には低線量の放射線はICRPの言うほど人体に害を及ぼさず、ICRPの基準は5ケタも違っているのである(現在の基準は、年間1mSvであるが、本当は年間100Svまでは安全)。それは不当な基準なのである。事実、アメリカ、イギリス、フランスなどは、軍事基準で廃液処理しているのだ。つまり、どんどん海に流しているのだ。ところが、日本のような非核国は、それをやれないことになっているのだ。これは完全に、覇権文明が仕掛けた罠である。

 ということで六ヶ所村の再処理施設は、装置の巨大化および複雑さの問題、湿式再処理(ピューレックス法)の問題、廃液基準の問題と、何重にも問題がある。これは、覇道文明による日本包囲網である。日本の原子力関係の「専門家」のほぼ全員が、この袋小路に陥ったということであるが、これは、考えられない事態である。

 もし乾式再処理を採用していれば、工程は一つしかなく廃液もないので、問題は全くなかったのである。だから、乾式再処理を行っていれば、建設費3千億円で今頃は問題なく稼動しているはずだったのだと、服部氏は言っている。そういう見通しを立てられる「専門家」はいなかったのだ。今現在でも、この事態を素直に認めることができる「専門家」もあまりいそうにもない。責任感も克己心もない、惰弱な人間たちだ。

 日本では、プルトニウムを本格的に利用する原子炉として、出力16万キロワットの重水減速沸騰軽水冷却型原子炉「ふげん」が試みられた(1975年〜2003年)。これは、世界初のプルトニウムを本格的に利用する炉であり、MOX燃料の燃料数も七七二本と世界最大であったという。だがしかしこれは、高速増殖炉ではない。この炉内ではプルトニウムの増殖がないので、ただMOX燃料にあったプルトニウムで発電しただけである(これはプルサーマル計画のことだと思われる)。だから、電力料金は安価になるはずはなく、何のメリットもないのである。この「ふげん」は2003年に運転停止した。2003年から26年かけて解体される予定だと言う。

 商用炉というと大出力でなければならないという先入観をもちがちになるが、高速増殖炉の場合は小出力の小型原子炉が良いという結果が出ている。そうすると絶対安全だから、プロパンガスのボンベのようにどこにでも置け、それで30年以上連続使用できる。そういう研究が、一部ではあるが、進んでいたのに、それを無視して世界中が大出力に走ったのである。まるで統制されたかのように。否、実際に統制されていたのだろう。世界の専門家たちは身にあまる特権を与えられて、統制されていったのだろう。

 以上のように、優遇もされない中で実直に本来の目標を追求してきた、日米の本物研究者集団の研究成果を無視した結果、巨額の資金を投じたのにも関わらず、原子力平和利用の現状は全面的に行き詰ったのである。これは間違いなく、覇道文明が世界から富を吸い上げる役割を果たしたであろう。

●日本政府はいまからでも乾式再処理施設と小型および超小型原子炉の実証炉を作らせるべきだ

 大体以上が、本書に書かれている最もメインの主旨である。本書を読むと、「原子力平和利用」の研究は実用段階にまで進んでいるが、覇道文明によって包囲され、封じ込まれているのだという思いがする。私には、服部禎男氏が正しいことを言いい、正しい考えをしているように思える。

 服部禎男氏は、乾式再処理と小型原子炉(高速増殖炉)で、原子力平和利用(原発)はうまくいくと言い切っている。それが本当かどうか、最終的には実際にやってみなければ実証されない。だから日本政府はその実証炉をつくらせて、それを公開実験させるべきだ。(そんなに大きな予算は要らないはずだ。)もし服部氏のいうようにうまくいけば彼を称揚した上でその実用化に向かえばよいし、うまくいかなければ、彼の不明を公表し、彼に謝罪を要求すればよいのだ。

 覇権文明国アメリカがその公開実験をいやがって阻止しようとするだろうが、そこは国民全体を巻き込んで、がんばらなければならない。それは何のやましいことではないはずで、堂々と公にすることができることである。最終的には、覇道文明国アメリカは、国際核拡散防止条約(NPT)をもちだして、阻止に動くことが考えられる。それは、1977年にカーター大統領が、1993年にクリントン大統領が行ったことである。それでも、これは「平和利用」であり、「核兵器への転用」は絶対にしないとの思想で、世界に向かって堂々と主張すべきである。

 さらにまた一部では、「水素核融合」エネルギーの基礎研究も進んでいるという。文化勲章受章者、日本学士院会員、大阪大学名誉教授、荒田吉明氏の「固体核融合炉」研究である。その基礎実験は成功しているのにもかかわらず、政府はそれを無視して、その実験炉に資金を出さないそうだ。

http://cybervisionz.jugem.jp/?eid=96
荒田吉明・阪大名誉教授が常温核融合の公開実験に成功!!

http://www15.ocn.ne.jp/~oyakodon/newversion/aratasensei.htm
文化勲章受章者、日本学士院会員、大阪大学名誉教授、荒田吉明氏の「固体核融合炉」

 これも小型だから、たったの数億円程度あれば間に合いそうだ。わずかな金額で済むことである。政府はこれにも資金を出してつくらせて、公開実験させるべきである。

●「脱原発」はエネルギー独立国への道を閉ざすことになる

 この本によって、以上のことがわかった。それで私の考えは変わった。

 私は「脱原発」を考えていたが、どうやら

(1)原発はうまくすれば、日本がエネルギー独立国になれること。
(2)絶対安全な原発がつくれること。
(3)大都市でもどこでも設置できること。
(4)放射線は現在の基準よりはるかに(5ケタ以上)人体に危険でないこと。

ということが分かったので、「原発」は推進されるべきであるとの考えになった。

 メリットのほとんどない現状の原発は、将来的に廃止すべきである。が、かといって「脱原発」はすべきではない。正しい「原発」は研究されるべきであるし、推進されるべきである。ただし、技術の進歩のためではない。エネルギー独立のためである。覇道文明からのエネルギー面での独立のためである。そのための「原子力」である。そういう「原子力」は、素直に利用すれば世界を救うことになる。

●「原子力平和利用」が成功したとしてもエネルギーを贅沢に使うべきではない

 しかしもし「原発」で日本がエネルギー独立国になり、エネルギー大国になったとしても、エネルギーを贅沢に使うべきではない。人口の分散化や過疎地帯の解消などに使うべきだ。1960年ごろ(昭和30年代)までは、どんな豪雪地帯でも、人々が家々の屋根にあふれるように上って、雪下ろしをしていたのである。そのような光景が当時はあったのである。地方には当時、それほど人がたくさん住んでいたのである。いまは地方の人口が少なくなって、老人の比率が多くになって、ろくに雪下ろしができなくなっている。日本はただでさえ国土が狭いのだから、多くの人が地方に住めるようにして国土を有効に使わなければならないのだ。また生活空間を広く確保することにそのエネルギーを使い、その上で、個々人の生活はなるべく質素にしてエネルギーを大切に使用すべきだ。

 華美な生活はやはり、人間を惰弱にしてしまう。特に男は、その人の資質の範囲でなるべく剛健でなければならない。常に自分の心身を鍛えながら生活するべきである。そうすれば、腹が据(す)わった心身の強い人間になり、幸福感が実感され、精神的に独立した人間になるだろう。女はそういう男を尊敬すべきだ。女も華美に流れてはならない。そういうことでは、真の幸福は得られないのだ。だから常にエネルギーを節約しようという意識をもって暮らすべきだ。高度成長期やバブル期のように、物質的満足に流されたり浮かれたりしてはならないのだ。そのような繁栄は人間を惰弱にして長く続かない。いずれは崩れるのである。

 だから「原子力平和利用」はエネルギー面での独立のために推進すべきであり、それによって得られる豊富なエネルギーはよく考えて節約しながら大切に使わなければならない。

(終わり)