「宣伝文0009」 ロバート・ケーガン著『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』(副島隆彦監修、古村治彦訳、ビジネス社、2012年8月)が発売になりました。 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2011年8月14日

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。私が翻訳しました『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』(原題:The World America Made)が、2012年8月7日に、ビジネス社から発売になりました。インターネット書店では先月から予約販売が開始され、既に全国各地の書店で販売が開始されています。この場をお借りして、読者の皆様に、『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』をご紹介したいと思います。

 

『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』

 まず『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』の目次を掲載します。少し裏話をしますと、原著であるThe World America Madeには、このような細かい小見出しはありませんでした。しかし、今回、日本の読者のために、あえてこのような細かい小見出しをつけるようにしました。これらの小見出しによって、内容をもっとりかいしやすくなっています。また、これらを読むだけでも内容が少し理解できますが、読者の皆様には、是非読んでみたいと思っていただけるものと自負しております。

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アメリカが作り上げた“素晴らしき”今の世界  目次

副島隆彦による序文 …… 3 

はじめに
アメリカが世界を現在の形に作り上げた …… 17 
世界秩序は永続しない …… 19
アメリカの衰退は世界に何をもたらすのか? …… 23

第1章 アメリカの存在しない世界はどうだったろうか
各時代の最強国が世界秩序を作り出してきた …… 26
戦争を正当な外交政策と考えるアメリカ人 …… 28 
アメリカ人は民主政治以外の体制が許せない …… 32 
アメリカは嫌々ながら他国に干渉している …… 35
アメリカの行動が世界に対する不安定要因となっているという矛盾 …… 38
首尾一貫した外交ができない国が作った世界秩序 …… 40

第2章 アメリカが作り上げた世界
ヨーロッパが嫌がるアメリカを引き込んだ …… 44
アジアから戦争をなくすことはできなかった …… 48
人間は脆弱な民主政治よりファシズムを求めた …… 51
第二次大戦は民主政治の勝利ではなかった …… 56
20世紀末に突然、巻き起こった民主化の第三の波 …… 58
首尾一貫しなかったアメリカの方向転換 …… 60
カーター、レーガン、ブッシュ政権の積極的な関与 …… 64
ソ連の崩壊と東欧・中欧で起こった民主化の津波 …… 67
19世紀半ば、仏英は他国の自由主義者たちを見捨てた …… 69
追い落とした独裁者たちの後に民主主義政権が成立するとは限らない …… 73 
覇権国が望まなければ国際秩序は強化されない …… 76
19世紀、イギリスが作り上げた世界 …… 79
アメリカが覇権を握り、世界に史上最高の繁栄をもたらした …… 81
自由市場経済は強国のためのシステム …… 84
大国間の戦争は今後起こりうるか? …… 89
国家指導者たちは野心と恐怖心から非合理的な行動をする …… 93
アメリカが大国間の平和を維持してきた …… 97
軍事力行使は世界秩序維持のための奉仕活動 …… 102
アメリカの軍事力行使を止められる国はない …… 106 
同盟国や国連の反対などアメリカは意に介さない …… 110 
世界各国がアメリカの軍事力を受け入れる理由 …… 114
アメリカによる中国包囲網 …… 118
紛争の火種は世界各地に存在している …… 120
現在、戦争は現実的な選択肢ではない …… 122 

第3章 アメリカ中心の世界秩序の次には何が来るのか?
アメリカ衰退後、世界は多極化するのか? …… 128 
民主化の波を阻む大国、ロシアと中国 …… 132
新興大国は自由経済を守れるのか? …… 137
次の超大国・中国の問題点 …… 143
中国は世界秩序の維持という重責を担うのか? …… 146
多極化した世界が安定する保証はない …… 151
中国とロシアは脅威となるのか? …… 154
超大国へと急成長する国が戦争を引き起こす …… 158
民主主義国家と独裁体制の大国の協調できるのか? …… 162
結局、国際ルールで縛れるのは弱小国だけ …… 165
覇権国の軍事力によって維持されてきたリベラルな秩序 …… 169
現行の国際ルールは覇権国の衰退とともに崩壊する …… 172
国連が直面する「ゆっくりと起こっている危機」 …… 176

第4章 結局のところ、アメリカは衰退に向かっているのか?
大国の衰退はゆっくりと進行する …… 180
経済力、軍事力ともにまだアメリカが優位を保っている …… 185
友好的な新興国の急成長はアメリカに利する …… 189
覇権国が常に世界をコントロースできたわけではない …… 192
力を誇示するアメリカは憎悪の対象となった …… 197
冷戦下の世界で反アメリカ主義が世界を席巻した …… 202
アメリカは中東をコントロールできなかった …… 204
70年代の失速と90年代の勝利 …… 208
二極化、多極化した世界こそ不自由な世界という皮肉 …… 213
中国が覇権国となるには、アメリカとの競争に勝たねばならない …… 218
覇権国の地位を維持するコストと利益 …… 221
アメリカの最大の懸念は財政危機 …… 226
それでも世界はアメリカのリーダシップと関与を必要としている …… 230

第5章 素晴らしき哉、世界秩序!
衰退という選択と覇権の移譲に対する条件 …… 234
アメリカのハード・パワーとソフト・パワー …… 238 
アメリカ国民にとって現在の世界秩序は必要か? …… 241 

訳者あとがき …… 245

(貼り付け終わり)

ロバート・ケーガン

 本書の著者ロバート・ケーガンは、日本でもよく知られている、ネオコンという思想集団に属するアメリカの政治・外交評論家です。1958年生まれで、現在ワシントンにあるブルッキングス研究所の上級研究員をしています。また、ワシントン・ポスト紙のコラムニストとして活躍しています。ケーガン初の邦訳書となった『ネオコンの論理』(山岡洋一訳、光文社、2003年)は話題となりました。ネオコンについては、本書の中で何度も出てきますし、ここでは言及しません。しかし、ジョージ・W・ブッシュ政権(2001―2009年)の外交政策を牛耳り、アフガニスタン侵攻とイラク進攻を主導した、恐ろしい人たちです。

    

ジョン・マケイン    ミット・ロムニー   バラク・オバマ

 ケーガンは、2008年の共和党の大統領選挙候補となったジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州選出)の外交顧問を務め、現在は、今年2012年の共和党大統領選挙候補に内定しているミット・ロムニーの外交顧問をしています。ケーガンは2回続けて、バラク・オバマ大統領の対抗馬を補佐し、オバマ大統領と戦っているということになります。

 本書『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』で、ケーガンは、「アメリカは衰退している」という主張に反論しています。アメリカは、経済的な面、軍事的な面、そしてソフト・パワーの面で(ケーガンはソフト・パワーをあまり信用していないようですが)、力を失っていないのだと主張しています。そして、アメリカが力を失えば、中国とロシアの台頭によって、現在のリベラルな世界秩序は崩壊するとも述べています。

 オバマ大統領もケーガンの「アメリカは衰退していないし、これからも世界に対して影響力を持ち続けるべきだ」という主張に賛同し、今年の一般教書演説で、ケーガンの名前は直接出しませんでしたが、彼の主張に言及しました。これがアメリカのメディアの注目を集めました。

 アメリカは、せっかく握った覇権を、そう簡単に手放すはずがありません。これは民主党だろうが、共和党だろうが、同じ事です。しかし、経済的な力は落ち、財政的にも厳しい状況に陥っています。オバマ大統領が軍事費の削減を行うのも、財政的な問題があるからです。そうなると、ここは「外注」するしかありません。今までアメリカがやっていたことを、代わりに誰かにやらせる。ということになると、アジアでは、日本が中国に対する番犬役を務めねばならなくなります。こうしたことを考えると、現在の、日本の一部の勢力による、反韓、反中感情の煽動は、こうしたアメリカの戦略上の変化に対応したものだということが分かります。そして、もっと言うと、日本はアメリカの属国であり、アメリカの戦略上の駒なのだということも明らかになります。本書『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』は、アメリカの外交・世界戦略の動きが分かり、現在の世界情勢を理解する一助となる、必読の書と言えましょう。

 本書『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』では、私の師である副島隆彦先生に監修と序文をお願いしました。先生からいただいた序文は、いつものことながら、読み応え十分の内容です。先生のアメリカ政治の鋭い分析も書かれております。今回は敢えてご紹介しません。是非手にとってお読みいただければと思います。

 最後に、訳者あとがきを掲載します。この訳者あとがきには、私の書きたかったことが詰まっておりますので、お読みいただければ幸いです。

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訳者あとがき

 本書『アメリカが作り上げた世界』は、ロバート・ケーガンRobert Kaganが二〇一二年二月に出版した、The World America Made (Alfred A. Knopf, 2012)の邦訳書である。ケーガンにとっては三冊目の邦訳書となる。ケーガンの初めての邦訳書『ネオコンの論理 アメリカ新保守主義の世界戦略Of Paradise and Power』(山岡洋一訳、光文社、二〇〇三年)は日本でも話題となった。

 著者ロバート・ケーガンは、現在、ブルッキングス研究所Brookings Institution上級研究員であり、ワシントン・ポスト紙のコラムニストとして活躍している。ケーガンは一九五八年生まれ、イェール大学で学士号、ハーバード大学ケネディ行政大学院で修士号、ワシントンDCにあるアメリカン大学で歴史学の博士号を取得している。そして、一九八四年から一九八八年まで米国務省に勤務した。前半の二年間は、国務省政策企画局で実際の政策立案に携わり、一九八六年から一九八八年にかけては、当時のジョージ・シュルツGeorge Shultz国務長官のスピーチライターを務めた。その後は文筆の世界に活躍の場を求めた。

ケーガンは、一九九七年、シンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクトProject for the New American Century、PNAC」(http://newamericancentury.org/)の創設に参加した。PNACは、二〇〇六年を最後に、現在まで活動を停止している。しかし、PNACは、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権(二〇〇一―二〇〇九年)の、特に一期目の外交を牛耳ったネオコンサヴァティヴNeoConservatives、通称ネオコンNeo-Consの拠点となった。

PNACのウェブサイト(http://newamericancentury.org/statementofprinciples.htm)には設立当時のメンバーが掲載されている。この中にブッシュ(子)政権入りした人々の名前が多数見られる。ディック・チェイニーDick Cheney副大統領、I・ルイス・リビーI. Lewis Libby副大統領首席補佐官、ドナルド・ラムズフェルドDonald Rumsfeld国防長官、ポール・ウォルフォヴィッツPaul Wolfowitz国防副長官、エリオット・エイブラマスElliott Abrams国家安全保障問題担当大統領次席補佐官(民主化戦略担当)、エリオット・コーエンEliot A. Cohen国務省顧問といった人々がブッシュ政権入りし、外交政策をリードした。 PNACは、ネオコンのオールスターチームであった。

ネオコンとは、「自由、民主主義、人権といったアメリカ的価値と原則を世界に普及する義務を重視し、絶対的道徳観と強い『反全体主義・反独裁』のイデオロギーに貫かれている」(高畑昭男「新保守主義の思想と外交」久保文明編著『アメリカ外交の諸潮流』、一八三ページ)という特徴を持つ人々のことである。こうした考えを持つネオコンが主導権を握ったブッシュ政権下、二〇〇一年にはアフガニスタンへ、そして二〇〇三年にはイラクへのアメリカ軍による侵攻・タリバン政権、フセイン政権の打倒・民主化democratization (ルビ:デモクラタイゼーション)が実行された。

ネオコンにとっての最大の目標は、世界中の国々を民主国家にすることである。そうなれば、世界から戦争がなくなり、平和な世界が実現すると彼らは考えている。こうした考えを、国際関係論の理論では、民主平和理論Democratic Peace Theory (ルビ:デモクラティック・ピース・セオリー)と言う。民主平和理論は、歴史上の経験から民主国家同士は戦争をしないという理論である。この理論から、全ての国が民主国家になれば戦争がなくなるということになるという考えが導き出される。だから、ネオコンは、アメリカが軍事力を使ってでも世界に民主政治体制democracy (ルビ:デモクラシー)を拡散しなければならないと考える。ネオコンは理想主義的であると言える。そして、アメリカ以外の国の人間から見れば、ネオコンは、なんと傲慢な考えをするのだろうと憤慨してしまう。それは本書のタイトル『アメリカが作り上げた世界』というものからも言える。

 ヨーロッパ諸国をはじめ世界の国々の中には、ネオコン主導で実行されたブッシュ(子)政権の攻撃的な外交政策に批判的な国も存在した。そうした国々、特に、長年緊密な同盟関係になった「欧米」という枠組みは、崩れつつある、とケーガンは『ネオコンの論理』の中で述べた。また、ある雑誌の記事の中で、「アメリカ人は戦いの神を象徴する火星から、そして、ヨーロッパ人は美と愛の女神を象徴する金星からそれぞれ出てきた。お互いに合意も理解もない」という有名な一節を書いている。ケーガンは、「弱腰のヨーロッパなど無視せよ、彼らとは行動原理が違うのだから」と主張した。ケーガンは、文筆の面からブッシュ(子)政権を支援した。

ケーガンは、現在、今年二〇一二年のアメリカ大統領選挙の共和党の候補者ミット・ロムニーMitt Romney前マサチューセッツ州知事の選挙対策本部で外交・国際関係担当のアドバイザーを務めている。前回二〇〇八年の大統領選挙では、共和党のジョン・マケインJohn McCain候補の外交・国際関係のアドバイザーを務めた。前回、マケインはオバマ大統領に敗れた。ケーガンは、今回ロムニー陣営に参加して、再びオバマ大統領と戦うことになった。ケーガンは、オバマ大統領に対して、「現在の大統領は、アメリカが衰退するのは不可避だと考えている」と厳しく批判している。

 本書『アメリカが作り上げた世界』は、アメリカで大きな話題を呼んだ。それは、バラク・オバマ大統領は、ザ・ニュー・リパブリックという雑誌のウェブサイトに掲載された、ケーガンの「アメリカ衰退の神話(The Myth of American Decline)」(二〇一二年一月一二日付)という論文を読んで、賛意を示した。側近とのミーティング、一般居所演説の前にオフレコで行われた各テレビのキャスターたちとの懇談で論文を持ち出して話をしたということが報告されている(『フォーリン・ポリシー』誌、二〇一二年一月二六日付記事「オバマがロムニーのアドバイザーの『アメリカ衰退の神話』についての理論を支持する」 http://thecable.foreignpolicy.com/posts/2012/01/26/obama_embraces_romney_advisor_s_theory_on_the_myth_of_american_decline)。また、国家安全保障問題担当大統領補佐官トーマス・ドニロン(Thomas E. Donilon)は、二〇一二年一二六日にアメリカの公共放送PBSの人気対談番組「チャーリー・ローズ・ショー」に出演した際、「オバマ大統領は、ケーガンの論文の内容を気に入っている」と発言した。

 そして、オバマ大統領は、二〇一二年一月二六日の一般教書演説State of Union Address (ルビ:ステイト・オブ・ユニオン・アドレス)の中で、「アメリカが衰退している、もしくはアメリカの世界に対する影響力が弱まっているなどと言っている人たちがいる。彼らは自分たちでも何を言っているのかさっぱり分かっていない(アメリカは衰退していないし、影響力も失っていない)」と述べた。オバマ大統領のこの発言は、ケーガンの主張そのものであった。ケーガンは、「オバマ大統領が、アメリカの世界に対する影響力が失われていくという考えに基づいて政策を決定していくことはない、と表明したことは素晴らしい」とコメントした。

 アメリカのメディアは、「民主党のオバマ大統領が、敵対する共和党の大統領選挙候補者のアドバイザーの主張に賛意を示した」という点を強調して報道した。そして、本書『アメリカが作り上げた世界』への注目が高まった。

 しかし、ケーガンは、民主党とブルッキングス研究所のウェブサイトには、ロバート・ケーガンの紹介文が掲載されている(http://www.brookings.edu/experts/kaganr.aspx)。紹介文の中で特に重要なのは、ケーガンが「ヒラリー・クリントンHillary Clinton国務長官の外交政策委員会Foreign Affairs Policy Board (ルビ:フォーリン・アフェアーズ・ポリシー・ボード)の委員をしている」という部分だ。この外交政策委員会という組織は、二〇一一年一二月に国務省内に設置された機関で、国務長官、国務副長官、政策企画局長に助言を行うことを目的としている。委員の数は二五名で、委員長には、ビル・クリントンBill Clinton元大統領の盟友で、クリントン政権時代には国務副長官を務めたストローブ・タルボットStrobe Talbottブルッキングス研究所所長が就任している。ケーガンを委員に招聘したのは、国務長官のヒラリーであり、恐らくタルボットが委員に加えるように進言したのだろう。ケーガンは、ロムニーのアドバイザーであると当時にヒラリー・クリントン国務長官とも人脈的につながっているということになる。

 ネオコンのケーガンは、民主党のヒラリー・クリントンともつながっている。しかし、これは何も驚くことではない。なぜなら、ネオコンと、ヒラリーに代表される民主党の人道的介入主義派は同じことを主張しているからだ。人道的な立場から、「アメリカは、非民主国家の圧政や国民の大量虐殺に対して軍事力を使ってでも介入すべきだ。そして、アメリカの価値観である人権や民主政治体制を世界に拡散すべきだ」と主張している。この主張は、ネオコンとそっくりだ。そして、最初は外国にはあまり介入しないという現実主義的な姿勢を見せていたオバマ政権の外交を乗っ取り、転換させたのがヒラリーをはじめとする政権内の人道的介入主義派の人々である。

 オバマ政権の外交の変質やネオコンと人道的介入主義派が同じであること、アメリカの外交潮流については、拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』(PHP研究所、二〇一二年五月)の中で詳しく書いた。合わせてお読みいただければ幸いだ。

 ここからは、本書『アメリカが作り上げた世界』の内容について簡単に紹介したい。ケーガンは、最近、アメリカ国内外で流行している「アメリカが衰退しつつある」という主張に反駁している。ケーガンは、同じネオコンに属しているチャールズ・クラウトハマーCharles Krauthammerの言葉を借りて、アメリカ衰退論は、「幻想illusion」に過ぎないと断言している。ケーガンは、@アメリカが世界の総GDP(国内総生産)に占める割合が一九六九年からほとんど変化していないこと、Aアメリカの一人あたりのGDPでは世界の中でいまだ上位に位置していること、Bアメリカの軍事力は予算と装備の面から他の大国を圧倒していること、の三つの点から見て、アメリカは衰退していないと主張している。また、現在のリベラルな国際秩序liberal international order (ルビ:リベラル・インターナショナル・オーダー)は、アメリカが作り上げ、アメリカが維持してきたものだ。従って、アメリカが衰退して経済力や軍事力の優位を失ってしまえば、非民主的な専制政治体制のロシアと中国の台頭を許し、現在の国際秩序は崩壊するという主張を行っている。そして、アメリカが衰退するかしないか、それはアメリカ国民の「選択choice」にかかっているのだとケーガンは主張している。

 本書『アメリカが作り上げた世界』について、ニューヨーク・タイムズ紙やフィナンシャル・タイムズ紙など欧米の有名な新聞に書評を掲載された。書評の中で共通して言われているのは、ケーガンの主張には、「アメリカの衰退はないという主張に確かな論拠がない、アメリカ衰退論を主張しているという政治家の名前を具体的に挙げないという曖昧さがある」というものだ。また、アメリカが現在直面している問題をケーガンが無視、あるいは軽視しているという指摘もある。メディアは、アメリカを戦争の泥沼に引きずり込んだネオコンに対して批判的であり、各紙の書評もそれを反映している。

 アメリカ大統領選挙は、民主党は現職のオバマ大統領、共和党はミット・ロムニーの一騎打ちとなっている。ケーガンはロムニーのアドバイザーをしているが、オバマ外交を牛耳るヒラリー派ともつながっている。ヒラリーはオバマ政権一期目の終わりで国務長官を退任することになっている。しかし、ヒラリーが敷いた外交路線は継承される可能性が高い。具体的に言えば、シリアとイランへの現在のような強硬姿勢をアメリカが緩和することは考えにくい。オバマ大統領が再選されても、ロムニーが大統領に当選しても、アメリカの外交が大きく変化することはないだろう。

 この『アメリカが作り上げた世界』は、これからのアメリカの外交政策を考えるうえで重要な示唆を与えてくれる。アメリカが世界最高の国で、アメリカの素晴らしい価値観である人権や民主政治体制を世界に拡散し、維持していくということがアメリカ外交の基本姿勢である。本書『アメリカが作り上げた世界』は、多くの批判も浴びるだろうが、このアメリカの確固とした姿勢と一種の矜持(ルビ:きょうじ)を世界に示している。アメリカの傲慢で独りよがりな外交に対して、私たちは怒りを覚えたり、呆れたりする。しかし、この一冊を読めば、アメリカ人はこのような考えを持っていて、アメリカ外交を正当化しているのかということがよく分かる。

 本書訳出にあたり、副島隆彦先生には、今年二〇一二年のアメリカ大統領選挙について、最新の分析を基にした序文を書いていただきました。ありがとうございます。また、ビジネス社の岩谷健一氏にもお世話になりました。記して感謝申し上げます。

二〇一二年五月三一日
古村治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

 以上、『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

(終わり)