「200」 翻訳 ヒラリー・クリントン米国務長官による重要な政策論文である「アメリカの太平洋の世紀(America’s Pacific Century)」を皆様にご紹介します(2) 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2012年10月22日

※アメリカのアジアへの大転換の関する記事は、ブログ「古村治彦の酔生夢死日記」(こちらからどうぞ) でもご紹介しております。お読みいただければ幸いです。ブログの左にカテゴリーで「pivot to Asia」としてまとめてあります。

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胡錦濤主席・オバマ大統領・クリントン国務長官

 新たなパートナーの中で最も目立つ存在なのは、当然のことながら中国である。中国もこれまでの様々な国々と同様、中国もまた開かれた、そしてルールに基づいたシステムの一部として繁栄してきた。このシステムが構築され、機能することに貢献してきたのはアメリカである。アメリカにとって、現在の中国との関係は、他のどの国との二国間関係よりも重要ではあるが、対処が難しいものとなっている。米中関係は、注意深く、堅実に、かつ精力的に進めていくことが必要だ。これには、中国に対して現実に即して、どのような結果を得るかに焦点を当てることが必要だ。それによって、私たちは、対中国に関し、アメリカの持つ原理に則った行動を取りながら、同時に国益を追求することができる。

 太平洋を挟んで、アメリカと中国との間には、お互いに対する恐怖心と誤解が存在する。アメリカ国内には、中国の発展と進歩をアメリカにとっての脅威と見なす人々がいる。中国国内には、アメリカが中国の成長を抑制しようとしていると懸念している人々がいる。私たちはこれら二つの考えには与しない。繁栄するアメリカは中国に利益をもたらすし、繁栄する中国はアメリカに利益をもたらす。米中両国は対立からよりもより多くのものを、協力によって得られる。しかし、私たちはただ願うだけでより良い関係を構築することはできない。前向きな言葉を効果的な協力関係に転換すること、米中両国がそれぞれ国際社会における責任を果たすこと、これらを実現できるかどうかは、米中両国にかかっている。これらが実現できるかどうかで、将来の米中関係が発展のための可能性を持てるかどうかが決まる。米中両国は相互の違いに対して率直な態度を取る必要がある。米中両国は、共同で対処すべき緊急の課題に取り組む際に、両国の違いについて、率直にかつ決然と向き合うべきだ。非現実的な期待をお互いが持つべきではない。

 過去2年半、私が最優先にしてきたことは、米中に共通する利益とは何かを把握し、共通する利益の範囲を拡大すること、中国との間で相互の信頼関係を築くこと、そして、世界規模の問題を解決するにあたり中国が積極的に役割を果たすように促すことだった。ティモシー・ガイトナー(Timothy Geithner)財務長官と私は、これらの最優先事項を実行するために、中国との間で戦略・経済対話(Strategic and Economic Dialogue)を発足させた。これは、米中両政府間の様々な対話のチャンネルのうち、最も集約的かつ幅広い議論が行われるものである。米中両国の多くの政府機関が一堂に会し、安全保障、エネルギー、人権など、二国間に存在する様々な問題について議論する。

ティモシー・ガイトナー財務長官

 米中両国は、双方の軍隊の透明性を高めること、そして、見込み違いやミスが起こるリスクを減らすことに努めている。アメリカと国際社会は、中国による軍の近代化と拡張を注意深く見守っている。そして、中国の意図がどこにあるのかということをはっきりさせようとしてきた。米中両国の軍隊がお互いに継続的、かつ実質的に関与し合うことで、透明性を高めることができる。これは米中両国にとって利益となる。私たちアメリカは、中国の逡巡は理解できるが、両国の軍隊レベルでの、持続的な対話の枠組みに中国側が参加してほしいと希望している。また、米中両国間で戦略安全保障対話(Strategic Security Dialogue)を発足させたいとも考えている。このチャンネルを通じて両国の文民や軍人が会場の安全保障やサイバースペース上の安全といった、デリケートな問題について議論することができる。

 アメリカと中国は信頼関係を築きつつある。そして、私たちは中国と協力して、安全保障に関する、地域や世界が抱える大変に重要な課題に取り組む決意である。私は、中国の戴秉国(たいへいこく)国務委員(State Councilor Dai Bingguo)と楊潔ち(ようけつち)外交部長(Foreign Minister Yang Jiechi)と頻繁に会談を持った。その多くが非公式な場で行われた。私たちは、北朝鮮、アフガニスタン、パキスタン、イラン、そして南シナ海における状況など多くの重要な問題について、率直な議論を行った。

戴秉国国務委員とヒラリー・クリントン国務長官

楊潔ち外交部長とクリントン国務長官

 経済面に関して言えば、アメリカと中国は、将来の世界の経済成長を力強く、持続可能で、かつバランスのとれたものとするために協力する必要がある。世界金融危機の発生後、米中両国は、瀬戸際に追い詰められた世界経済を救うために、G20を通じて、協力して行動した。米中両国の行動は世界経済の回復にとって効果的であった。私たちはその時の協力関係を基盤として、さらに関係を深めていく必要がある。アメリカ企業は、成長を続ける中国市場への輸出機会が公正な形で与えられることを求めている。アメリカ企業が中国へ製品などを輸出できれば、それがアメリカ国内での雇用を生み出すことにつながる。

 アメリカの投資家や企業はこれまでに約500億ドル(約4兆円)を中国に投資してきた。アメリカから中国への輸出が増大すれば、アメリカから中国へ投資された500億ドルが、新しい市場と更なる投資機会のための力強い基盤として役立つことになる。そして、世界規模での競争を支えることになる。競争が促進されることは世界中の消費者にとって良いことである。

 中国企業は、アメリカからハイテク製品を輸入し、投資を呼び込み、市場経済を採用している国々の市場に参入するにあたり、他国と同じアクセス条件を適用して欲しいと希望している。米中両国は、こうしたお互いの企業が持つ目標を達成するために協力することが可能である。しかし、中国は改革に向けてさらに重要な措置を取ることが必要である。中国には、アメリカやその他の国々の企業や革新的な技術に対する不公正な差別的取扱い、国内企業の優遇、外国企業が持つ知的財産権の侵害といった問題が存在する。中国は、これらを廃止、もしくは撤廃しなければならない。私たちアメリカもこれらの問題を解決するために中国と協力している。アメリカは、中国がドルやその他の主要な貿易相手国の通貨に対する自国通貨の切り上げを早急に行うことを望んでいる。こうした改革は、米中両国の利益となるだけでなく、バランスの取れた世界経済、予測可能性、繁栄をより多くの国々に拡大することに貢献することになる。また、こうした改革を行うことで、中国自身が五ヶ年計画で目指している内需主導の経済成長という目標の達成も実現することができる。

 アメリカは、人権問題については、公式、非公式様々な形で、深い懸念を明確に表明してきた。人々のために働く弁護士、作家、芸術家といった人々が収監されたり、行方不明になったりしたという報告を受ければ、アメリカは人権の擁護に関しての懸念をはっきりと発表する。私たちは、中国政府の担当者たちに対して、中国が国際法をしっかりと尊重し、より開かれた政治システムを採用するように主張している。私たちは、「そうすれば、中国は、より大きな安定と成長のための基盤と中国のパートナー諸国からの大きな信頼を手にすることができる」と中国側に伝えている。国際法の尊重と開かれた政治システムの採用がなければ、中国は発展に不必要な制限を自ら加えてしまうことになってしまう。

 最後に言っておくと、米中関係を発展させるための手引書は存在しない。しかし、私たちは米中関係において失敗することは許されない。それは米中関係の重要性があまりにも大きいからだ。米中両国は関係を深めている。私たちは、安全保障同盟、経済ネットワーク、社会的つながりというより広範な地域規模の枠組みに中国を組み入れていくために努力を続けていく。

 アジア地域では、多くの国々が新興国として勃興している。私たちはそれらの国々とより緊密な協力関係を築いていく。新興国の中で特に重要なのは、インドとインドネシアである。両国は、アジア地域において活力のある民主国家であり、重要な地位を占めている。オバマ政権は両国との間で、より広範で、より深い、そして強力な関係を築こうと努力してきた。インド洋からマラッカ海峡を通って太平洋に至る広大な海域は、世界で最も活発な貿易とエネルギー資源輸送の航路となっている。インドとインドネシアの人口を合わせると、世界の総人口の約4分の1を占める大きさになる。両国は、世界経済の重要なけん引車の役割を果たしている。そして、アメリカの重要なパートナーとなっている。更には、地域の平和と安全に中心的な立場で貢献している。インド、インドネシア両国の重要性はこれからますます大きくなっていく。

 オバマ大統領は、昨年(2010年)、インド議会で演説を行った。演説の中で、オバマ大統領は、共通する価値観と利益を基盤とするインドとアメリカとの関係は21世紀という時代の特徴となるほどに重要なものになるだろう、と述べた。米印両国の間には乗り越えねばならない障害や解決すべき問題が存在する。しかし、アメリカは、インドの将来に賭けている戦略を採用しているのだ。インドが国際社会でますます大きな役割を果たすことが、世界の平和と安全を強化することになる。インドが世界に向けて市場を開放することが、地域と世界の繁栄につながる。また、インドの科学技術の発展は世界中の人々の生活を改善し、人類の知識の進歩に貢献するだろう。インドの民主政治体制は活力があり、多元的である。民主政治体制があるお蔭で、インド国民は、これから更に大きな成果と改善を手にすることができるだろう。また、インドが民主政治体制を成功裏に維持することで、他国の人々が、インドの人々が歩んだ開放と寛容への道を自分たちも歩こうという動機づけを与えることにもなるだろう。オバマ政権は、米印両国間のパートナーシップの範囲を拡大しようと努力している。また、アメリカは、インドと日本との新たな3か国間対話を通じて、インドの「ルック・イースト」政策を積極的に支援している。更には、アメリカは、インドを要石とする南アジア・中央アジアの新たな枠組みの構築という構想を持っている。この枠組みを使って、南アジアと中央アジアの経済統合と政治的安定を実現したいと私たちは考えている。

私たちは、インドネシアとも新たなパートナーシップを構築している。インドネシアは、民主国家としては世界第三位、イスラム国家としては世界最大の人口を誇っている。また、G20のメンバー国である。アメリカは、インドネシアの特殊部隊との合同訓練を再開し、医療、教育交流、科学技術、防衛の各分野で協定を締結している。今年(2011年)、インドネシアは、自国で開催される東アジアサミットにオバマ大統領を招待した。オバマ大統領はアメリカ大統領として初めて東アジアサミットに出席することになる。しかし、両国関係の前途には、まだまだ多くの課題が残っている。アメリカとインドネシアは、官僚主義によって起こる障害、歴史に基づいた不信感、考え方や利害についての相互理解の不足といった問題を協力して解決していかねばならない。

 私たちアメリカは、アジア地域における二国間関係を強化してきた。更に、私たちは、多国間の協力関係の重要性もまた強調してきた。アジアは今、一国だけでは解決できない複雑な諸問題に直面している。これらの問題を解決するためには、各国がその下で協力できる諸機関が必要だと私たちは考えている。これが、私たちアメリカが多国間の協力関係の重要性を強調する理由である。アジア地域においてより強固で一貫性のある地域的な枠組みができれば、各国がルールを守り、責任を取るというシステムが強化されることになる。その結果、知的財産の保護や船舶航行の自由に関する問題が解決される。また地域的枠組みは、国際的な秩序形成の基盤となる。国際社会では、責任ある行動を取る国は賞賛され、正当性(legitimacy)を認められ、尊敬を集める。私たちはこういう国々と協力して、世界の平和、安定、繁栄に害を与える国やアクターの責任を追及することができる。

 私たちアメリカは、東南アジア諸国連合(the Association of Southeast Asian Nations、ASEAN)やアジア太平洋経済協力会議(the Asia-Pacific Economic Cooperation forum、APEC)といったアジア・太平洋地域の地域的・多国間機関へ全面的に関与し始めている。その際、私たちは、地域的機関との協力は、既存の二国間関係に代替するものではなく、補完するものであるという考えを持って行動している。アジア地域の各国は、これらの地域的機関の達成されるべき目標設定(agenda-setting)について、アメリカが積極的な役割を果たすことを求めている。これらの地域的機関が効果的、かつ迅速に事態に対応できることはアメリカの利益となる。

東アジアサミットに出席したオバマ大統領

 本年(2011年)11月、オバマ大統領は初めて東アジアサミットに出席するが、これは、アジア・太平洋地域の地域的機関にアメリカが積極的に関与するためなのである。オバマ大統領の東アジアサミット出席を円滑に進め、実りあるものとするため、アメリカは、新たにジャカルタにASEAN代表部(U.S. Mission to ASEAN)を設置した。また、東南アジア友好協力条約(the Treaty of Amity and Cooperation)にサインした。アメリカは、もたらされる結果を重視して目標を設定する。私たちのこのような考えが南シナ海で発生している紛争に対処する際に役立った。2010年、ベトナムのハノイでアセアン地域フォーラム(ASEAN Regional Forum)が開催された。この会議で、参加各国は、南シナ海への自由なアクセスと船舶航行の自由を保証すること、そして、各国の南シナ海における領有権の主張の基礎となる国際法の遵守を確認し合った。アメリカは各国の合意取り付けを支援した。

南シナ海領有権問題

 南シナ海は、全世界の商船の半分が行き来をする重要な海域である。この点から考えて、南シナ海に関して、アセアン地域フォーラムの場で合意が形成できたこと、それにアメリカが貢献したことは大変重要なことであったと言える。この1年、アメリカは、地域の安定と船舶航行の自由というアメリカにとって極めて重要な利益を守るという点で大きな成果を収めた。また、南シナ海での領有権を主張し合っている当事者たちの間で多国間の外交的関係を維持できるように努力を重ねてきた。アメリカは、南シナ海の領有権に関する紛争を国際法の諸原則に則って、平和的に解決できるように努力しているところである。

 アメリカはAPECが参加各国の首脳が参加する需要な地域的機関となるように努力してきた。また、APECが太平洋全域の経済統合と貿易関係の深化を推進することができる機関となることをアメリカは支援してきた。昨年(2010年)、APECに参加している一部の国々が、アジア・太平洋地域における自由貿易圏の設立という大胆な提案を行った。今年(2011年)11月、オバマ大統領は、ハワイで開催されるAPECリーダー会議を主催する。私たちは、APECがこれからもアジア・太平洋地域において第一級の経済的な機関であるよう努力し続ける決意である。また、地域内の開かれた貿易と投資の促進、そしてルールをきちんと守らせることができる枠組み作りに、地域の先進諸国と新興諸国を参加させる。アメリカは、これらが実現されるよう、経済面における目標設定を行う。

 APECとAPECの活動は、アメリカの輸出の拡大、米国内における質の高い雇用の創出と維持に貢献している。また、アジア・太平洋地域全体の経済成長を促している。更には、APECは、女性が潜在的に持っている、経済成長に貢献できる能力を発揮させるために、幅広い目標を実現するための手段を提供できる。この点で、アメリカはパートナー諸国と協力して、「参加の時代(Participation Age)」が早く到来するように活動していく決意である。参加の時代とは、性別やその他の特性に関係なく全ての個人が、世界市場に価値ある一員として参加し、貢献することができる時代のことである。

 より多くの国々が参加する多国間機関への関与に加え、私たちアメリカは、「少数国間(minilateral)」会議を数多く発足させようと努力してきた。この少数国間会議とは、問題や課題の当事者となっている国々だけで集まって、それらの解決に向かって協力するためのものである。メコン河下流域開発(Lower Mekong Initiative)がその具体例である。この枠組みには、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムが参加しており、教育、医療、環境などの諸分野で協力して問題解決を進めるものとなっている。また、太平洋諸島会議(Pacific Islands Forum)も具体例として挙げられる。この枠組みでは、参加各国が直面している気候変動や魚の乱獲、船舶航行の自由などの諸問題を協力して解決するために活動している。これらの枠組みをアメリカは支援している。また、私たちアメリカは、モンゴル、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国といった国々との間で、新たな三カ国間関係の樹立も目指している。更には、アジア・太平洋地域における三大大国である中国、インド、アメリカの協力関係と関与の強化も目指している。

(つづく)