「208」 記事・翻訳 オバマ・ドクトリンで日本はどうなるか:ナショナル・インタレスト誌から 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2013年1月20日

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」の管理人、古村治彦です。2013年最初の投稿になります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 今回、ご紹介するのは、アメリカの『ナショナル・インタレスト』誌に掲載された論文です。この論文では、現在のオバマ大統領の外交政策の基本と、レーガン大統領の外交政策の基本が良く似ているということがまず指摘されています。そして、その類似点というのは、「アメリカが介入を行う際に代理(proxy)を使う」というものです。このプロキシーという露骨な言葉が非常に重要です。

 ここで紹介している論文では、オバマ政権がフランスを代理として使っていると指摘しています。現在、世界的に関心を集めているマリに対するフランスの介入、2011年のリビアへの介入もフランスがアメリカの代理として、犠牲を払いながら主導的な役割を果たし、アメリカはサポート役に回るという構図になっています。

マリ侵攻の準備をするフランス軍将兵

 このアメリカが代理を使うということをアジア地域にあてはめて考えてみると、代理として真っ先に名前が挙がるのは、日本とオーストラリアです。現在、安倍政権が展開している価値観外交は、日本が主導的な立場で(アメリカの代理として)、中国包囲網づくりを行っているということになります。 そして、自衛隊がもっと自由に動けるようにするために、集団的自衛権の容認、憲法改正を急ごうというのが安倍政権の意図です。露骨に言えば、日本の自衛隊の下請け化を進めようとしています。

安倍晋三首相

 なお、この論文に書かれている「オバマ・ドクトリン」やアメリカのリビア介入については、私が昨年に発表しました単著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)の前半部で詳しく書いております。興味がある方は、どうぞお読みください。

『アメリカ政治の秘密』

 日本の状況を考えながら論文を読むと、安倍政権の行っていることの危険性がよく分かると思います。

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「オバマ・ドクトリン、レーガン・ドクトリン(Obama Doctrine, Reagan Doctrine)」

ジェイムズ・ジョイナー(James Joyner)筆
ナショナル・インタレスト(National Interest)誌
2013年1月18日
http://nationalinterest.org/commentary/obama-doctrine-reagan-doctrine-7982
http://nationalinterest.org/commentary/obama-doctrine-reagan-doctrine-7982?page=1

 バラク・オバマ大統領は二期目を始めようとしている。外交政策分野における「オバマ・ドクトリン(Obama Doctrine)」がいよいよ出現してくるだろう。オバマ・ドクトリンは、レーガン・ドクトリンとたいへん似たものである。

バラク・オバマ大統領

 1985年の一般教書演説(State of the Union address)の中で、ロナルド・レーガン大統領は、次のように語った。「無邪気、無毒ではない世界において、私たちは無邪気な行動を取る訳にはいかない。また、私たちは自由が圧迫されている時、受動的ではいられない。私たちは、私たちと同盟関係を結ぶ全ての民主国家の側に常に立たねばならない。そして、ソビエトの進行を食い止め、私たちが生まれながらに持つ人権を守るために、アフガニスタンやニカラグアなど、世界の全ての地域で、生命を危険にさらしながら戦っている人々の信頼を裏切ることはできない」

ロナルド・レーガン大統領

 一般教書演説から数か月後、評論家のチャールズ・クラウトハマーは、『タイム』誌の記事の中で、レーガンの演説を「反共革命に対するアメリカの支援を公然と語った」と述べ、レーガン・ドクトリンと呼んだ。レーガン・ドクトリンの肝は、アメリカの直接的な介入ではなく、代理を使うこと(use of proxies)とうことだった。発展途上国で共産主義政権に対して、正当な人々の反乱が起きた時、レーガンは、この反乱が道徳的に正しく、武器や物資の支援を行うことがアメリカの国益に適うことであると論じた。

 オバマ大統領は、レーガン・ドクトリンに良く似た戦略を採用している。しかし、そのことを声高には喧伝していない。オバマ・ドクトリンでは、NATO加盟の同盟諸国、その中でもフランスを代理として使っている。2011年3月、アメリカはリビアに介入した。この時、介入における最初の段階の攻撃では、アメリカは重要な役割を果たした。アメリカは、「独自の能力」を発揮した。しかし、すぐに支援の役割に転換した。カダフィ政権側を抑えるための防空支援、情報、調査、偵察、空中給油機を提供した。私たちは、現在、マリにおいても似たようなことを行っている。フランスが主導的な役割を果たし、アメリカは様々な支援を行っている。

アメリカによるリビア介入時の攻撃の様子

 リビアへの介入を行っている時、オバマ大統領の側近たちは、オバマ大統領が「後ろから指揮をし、動かしている(leading from behind)」と述べた。そのために、オバマ大統領に対する批判者たちは、大統領が弱腰だと非難した。「アメリカが行うべき役割をほかの国にやらせている」というのが批判者たちの言い分だった。しかし、レーガン・ドクトリンから見てみると、オバマ大統領は、正しくリスク管理を行っているということになる。

 共和党のネオコン(neoconservatives)と民主党のリベラル派の介入主義者たち(liberal interventionists)は一緒になって、オバマ大統領に対して、リビア、シリア、マリ、その他の地域に対して、決定的な行動を取るように求めた。こうした国や地域の紛争は実際のところ、アメリカの国益にとって重要ではないが、彼らは、アメリカ軍の将兵を危険な場所に送ることを正当化した。他方、リアリストたちも、カダフィ大佐やアサド大統領を追い落とし、西アフリカのマリでイスラム過激派が国を乗っ取ることを阻止するように求めた。彼らもまた、そうすることで、アメリカにとって良い結果がもたらされると主張せざるを得なかった。従って、フランスやその他の同盟諸国が、そうした負担を引き受けても良いが、アメリカとの連携、アメリカからの情報提供や物理的な支援がなければ負担できないとなった場合、アメリカは、彼らの望むものを提供しなければならないということになる。

 もちろん、元々のレーガン・ドクトリンはただの成功物語ではない。レーガン政権は、ニカラグアのコントラという反共ゲリラを支援したが、このことが、軍事的、政治的に大きな損失をもたらした。アフガニスタンのムジャヒディンへの武器供与に関しては、ソビエト連邦の崩壊について重要な要素になった。このムジャヒディンに対する支援は、カーター政権が始めたということを明記しておかねば公平な態度とは言えないだろう。冷戦後、ムジャヒディンの転換まではアメリカもうまく管理していた。彼らがアルカイーダになった訳ではない。この他にもアメリカは、ジョナス・サンヴィビ率いるアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)、エルサルバドル政府、カンボジアのクメール人民解放聖戦(Khmer People's National Liberation Front)を支援したが、純粋に成功とは言い難い結果をもたらした。

 カダフィ大佐の追い落としではアメリカ人の生命は失われず、大きな物理的被害もなかった。しかし、アメリカの完全勝利という訳ではなかった。リビアでは現在に至るまで、混乱状況が続き、民主的で多元的な社会が出現するかどうか先行き不透明である。そして、リビアでの戦闘が終わった後、不要となった武器が現在、マリ北部を勢力下におさめている勢力に流れた。私たちはフランス主導でこの勢力の駆逐を行っている最中である。

 興味深いことに、ここ数年、クラウトハマーは単純なネオコンとして描かれている。しかし、1985年のレーガン・ドクトリンについて言うと、その危険性について書いている。「外国の内戦にアメリカが関与することにどんな大義があるだろうか?その国の主権についてはどうだろうか?国際法から見てどうだろうか?」クラウトハマーは、記事の中で、介入をいつ、どのように行うべきかについて、はっきりしない主張を展開している。

 クラウトハマーは続けて次のように書いている。「レーガン・ドクトリンは、その見かけよりもずっとラディカルである。レーガン・ドクトリンは、民主革命を求める反乱を支援することは‘自衛権(self-defense)’の行使であり、経済制裁は国際法に則っていると主張する。しかし、その根拠は薄弱である」クラウトハマーは更に次のように主張している。「アメリカが慎重にかつ賢明に代理を選ぶ場合、国際法に基づいて、道徳と国益に適ったものでなければならない」と。クラウトハマーが記事を発表してからの20数年の間に、「保護する責任(訳者註:国家が破たんして保護を受けられない人々に対して国際社会が保護を与えること)」という考えが国際社会の中で発達し、クラウトハマーの提起した疑問に対しての答えとなっている。

コリン・パウエル

 コリン・パウエル(Colin Powell)は、当時、レーガン大統領の大統領国家安全保障担当補佐官(national security advisor)を務め、レーガン・ドクトリンの熱心な支持者であった。パウエルは、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権の国務長官だった。彼は国務長官時代に、ブッシュ大統領に対して、「ポッタリー・バーン社の規則」になぞらえて警告を発したという有名な話がある。ポッタリー・バーン社は、アメリカのチェーンの雑貨販売店であり、そこのルールは、「もしあなたが商品を壊してしまったら、買い取ってもらいます」というものだ。イラク戦争に向かう期間、パウエルは、ブッシュ大統領に対して、戦争反対の立場から、イラク戦争を始めたら、イラク全部をアメリカがしょい込み、面倒を見なくてはならなくなると警告したのだ。この警告は、後ろから指揮をするスタイルのオバマ大統領にも当てはまる。代理を使って介入することで負担は少なくなっているが、それによって、より多くの介入が可能となっている。支援という軍事的に見て側面的な役割を果たしていることで、介入に伴うリスクが低下している。しかし、それによって、介入による長期的な影響や結果について深く考えることがなくなっている。アメリカが主導的な立場で介入を行っていた時ですら、私たちが得てきた結果は考えていたものと全く異なるものであった。

※ジェイムズ・ジョイナー:大西洋評議会編集者・ウィキストラット寄稿専門家。

(終わり)