「211」 翻訳 第18期中国共産党大会報告書(The 18th Party Congress Work Report)の紹介記事を皆様にご紹介します(2)・ウェブサイト開設4周年のご挨拶を申し上げます。 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2013年2月20日

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。本日、ウェブサイト開設4周年を迎えました。今まで支えていただきました皆様に厚く御礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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■国際関係:影響力を手にし、国益を守る(International Relations: Building Leverage and Defending Interests)

 外交政策についてのガイダンスでは、以前の党大会での報告書とはトーンと協調されている部分が異なっている。以下のタスクの達成が特に強調されている。

(1)大国との関係を見直す(Revise relations with great powers)
(2)アジアにおける中国の影響力を強化する(Consolidate China’s influence in Asia)
(3)世界秩序における改革を進めるために増大する国力を最大限利用する(Leverage developing powers to promote reform in the world order)
(4)国際秩序の改革を促進するために、多国間関係を利用する(Leverage multilateral venues to facilitate reform of the international order)
(5)海上交通やその他の分野における中国の権利と国益を守る(Protect Chinese rights and interests in the maritime and other domains)

●大国間関係(Great Power Relations):党大会報告書は、「長期にわたり、安定した、健全な新しい形の大国間関係の構築」を求めている。1997年に提出された「新安全保障概念」に基づいて、中国が求める「新しい大国間関係(新興大国関係、xinxing daguo guanxi)」は、相互の国益を尊重し、協力関係を強化し、対話のチャンネルの構築が特徴となっている。報告書は、このアプローチの「長期の安定」に不可欠なものとして、アメリカによる中国の国益の承認があるとしている。

●中国の周辺地域(China’s Periphery):第18期中国共産党大会報告書では、「近隣諸国と良好な、そして友好的な関係」を築き、「相互利益のために協力関係を深化」させるとなっており、第17期中国共産党大会時の決定よりもさらに一歩踏も込む形になっている。これは、中国共産党指導部がアジア地域での中国の影響力の強化と経済的な相互依存関係と貿易関係を深化させたいと望んでいることの証である。中国政府の各公式文書では、中国のリーダーシップの下でのアジアの統合を、多極化する世界では重要な要素となるとしている。

●発展途上諸国(Developing Countries):第18期中国共産党大会報告書は、中国が発展途上諸国との間の「統合と協力」に前向きであり、「国際社会において発展途上諸国を代表し、要望を伝える」役割を果たす用意があることを示している。これは、現在の世界秩序に対して中国が持っている不満を共有でき、中国やその他の新興大国の国益を認めさせるために、世界秩序の改革を行う、政治的なパートナーとして行動できる国を探そうという姿勢の現れとも読める。

●多国間外交(Multilateral Diplomacy):第18期中国共産党大会報告書は、「二国間、多国間の政治的、市民による、またその他の組織や団体への関与を通じて、国際関係を発展させるための社会的基盤を強化すべき」だと書いている。第17期中国共産党大会報告書で書かれたものと同様、目標は、「国際秩序とシステムが正しく、合理的な方向に発展させる」ことである。

●核心的な利益(Core Interests):第18期中国共産党大会報告書は、中国が安全保障、主権、経済発展の利益を守る決心を示しているということを繰り返し強調している。これは、中国共産党指導部が、国連の様々な活動への参加を通して海外、宇宙、サイバー空間、海上における中国の国益を守ることを目指して政策を遂行する意思を持っていることを示している。

●海洋大国:第18期中国共産党大会報告書では、初めて、中国を「海洋大国」と規定し、「中国は海洋における権利と国益を守る」と主張している。中国の指導者たちは、海洋大国と海洋における権利と国益の擁護という言葉を、資源を守るという項目と合わせて使っている。これは、海洋においては安全保障上の利益と共に、経済発展の利益も存在していると中国政府が見ていることを示している。また、中国政府は、海洋上の領有権争いに関して、単なる軍事上の問題ではなく、全ての政府機関に関わる重要な問題であると見ていることも示している。

■政策の実行:歴史における具体例(Policy Implementation: Historical Examples)

 ケ小平の死去以降、政治意思決定と党の意思決定の機構化が進められている。党大会報告書のような戦略的な文書の重要性もそれに合わせて増大している。第17期中国共産党大会報告書で出されたガイダンスは、以降の党大会で新しいガイドラインが出されたり、改正されたりするまでは有効である。党大会報告書は全体として戦術的な意思決定における柔軟性を強調している。ガイダンスの精神と方向性は党大会報告書を読めば分かるようになっている。そして、その精神と方向性は実際の政策決定に浸透している。

 これまでの共産党大会報告書はだいたいにおいて同じテーマが取り上げられてきているが、それでも、強調される分野がそれぞれ異なる。1997年に出された第15期中国共産党大会報告書は、経済発展を強調していた。第15期中国共産党大会報告書は、経済発展は「中国の全ての問題を解決するための鍵」となると述べていた。そして、経済を再構築し、貿易を振興するためのガイダンスを提示していた。このガイダンスは、中国が世界貿易機関(World Trade Organization、WTO)に参加することを促進した。(新華社通信、1997年9月21日)2002年に出された第16期中国共産党大会報告書では、中国共産党の統治能力の改善が強調された。(新華社通信、2002年11月17日)統治能力の改善によって、2002年以降の国内で発生した危機に対して当局はより柔軟に対応できるようになっている。2003年に発生したSARS問題に対して迅速な対応ができた。

 中国の国力の増強に合わせて、2007年に出された第17期中国共産党大会報告書は、バランスのとれた経済発展を求めていた。また、国家の安全、主権、国益(「核心的」国益)を守るための一層の努力も求めていた。そして、この党大会報告書では、人民解放軍の「歴史的使命(historic mission)」という言葉が使われた。(新華社通信、2012年10月24日)人民解放軍の「歴史的使命」という言葉が使われたことで、人民解放軍の海軍をアデン湾に派遣したり、ここ数年の中国「近海(jinhai)」への派遣ができたりする政治的な環境が醸成された。

■これからの政策の実行に向けて(Implications)

 第18期中国共産党大会報告書に書かれた政策ガイダンスによって、習近平政権発足時の政策の優先度が分かるようになっている。中国の指導部は、経済成長を維持するための構造改革を実行するというコンセンサスに達している。政治的なことを言えば、指導部は、政府サービスの責任応答性と効率性を高めるための、穏健な改革プログラムを実行することに同意している。また、党の意思決定プロセスの明文化とシステム化を進めることも決定している。しかし、そのために中国共産党の持つ権力を損なうことはないように進めようとしている。

 中国の対台湾政策においては、台湾と中国本土との間の経済的、文化的、政治的な統合を進めていこうということになっている。このような傾向が続いていると中国政府が判断する限り、習近平率いる中国共産党指導部は、両岸関係の「平和的な発展」に満足することになるだろう。

 国際関係についてのトーンは微妙である。党大会報告書は、中国共産党指導部が様々な形の中国の国益を守る決心をしていることを示している。しかし、報告書は、これから数年して中国の経済力が世界唯一の超大国であるアメリカに近づいた場合のアメリカの対応についての懸念も示している。中国政府は、アメリカやその他の大国との間で、「新しい形の大国間関係(new type great power relationship)」を築くことを求めている。中国は、過去の大国間関係に衝突と争いが付き物であったことを懸念し、それを避ける方法を模索している。

 中国の最高指導者たちは、中国の力に適応した世界秩序を形成しようと決心したように見える。しかし、アメリカやその他の大国に挑戦しようとしてはいない。党大会報告書は、現在の秩序を変化させたいと望んでいる発展途上諸国との間で連携を築くことで中国の影響力を増大させるための政策を行うように求めている。党大会報告書はまた、アジア地域各国との関係を深めることで影響力を増大させること、また他国間関係、二国間関係を構築して、中国に親近感を持つ国を増やすことを求めている。

 中国政府は政策の幅を広げつつあり、大国との関係を構築しようとしている。これは、協調関係を構築する機会を持とうとしていることを意味する。第18期中国共産党大会報告書では新たに環境問題の項を設けた。この分野ではアメリカと中国は協力できる。習近平国家主席率いる中国の最高指導部は、中国の掲げる目標の達成を邪魔する妨害すると思われるものに対する圧力をかけようとしている。指導部は、中国の掲げる目標の達成から脱線させるような衝突や争いは避けたいと考えている。中国の政策決定の詳細はこれからも秘密の部分が残されるだろうが、中国の戦略的な目標と政策ガイダンスは中国共産党大会報告書やその他の重要文書にこれからも書かれていくだろう。その内容を見れば、アメリカの政策立案者たちも中国の指導者たちが何を考えているかを理解でき、より効果的に関与できる。

※ティモシー・ヒース:米軍太平洋軍司令部アナリスト。アメリカ政府で中国分析官として10年以上のキャリアを持つ。ジョージ・ワシントン大学で修士号(アジア研究)を取得。

(終わり)