「215」 論文 天然ガスの時代―太陽エネルギーは本当に原子力エネルギーの代替になりえるか(4) 鴨川光(かもがわひろし)筆 2013年7月29日

●コンバインド・サイクル

 コンバインド・サイクル(combined cycle)とは、火力発電中に大気中に放出される排熱の再利用発電のことである。

 石炭やガスの熱は、完全に発電のためのエネルギーになるのではなく、その多くは廃熱として無駄に捨てられていて、大量のCO2排出の元となっている。この二つの無駄を解消できるのがコンバインド・サイクル発電方式である。

 これはジェット・エンジンとほぼ同じ作りのガスタービンで、発電をした後の排気(600℃前後)でスチームを作り、もう一度蒸気タービンを回す仕組みらしい。(一〇八ページ)

 天然ガスの火力発電では、もう既にこの方式が標準化されていると書かれている。この方式なら石炭火力の1.5倍も発電効率が良くなるという。石炭火力の発電効率は38%で、天然ガス・コンバインド・サイクルは60%である。(一〇九ページ)

 これにより、天然ガスのタンカーでの輸送の際に、冷却して液化する時に自家消費してしまうエネルギー・ロスのかなりの部分を挽回できる。(一五一ページ)

 さらに、火力での最大の懸念事項である環境負荷、CO2排出量だが、これはコンバインド・サイクル抜きで、天然ガス火力というだけでも、石炭の排出量の約半分である。

 実験室ベースでの同一エネルギー出力に対するCO2排出量は、石炭を100%とすると、石油が75%、天然ガスが55%である(一〇五ページ)。

 さらに既存の石炭火力発電所であっても、これらを新型コンバインド・サイクル発電所に置き換えると、CO2排出量は三分の二程度に削減が可能であるという。(一一〇ページ)

●じゃあパイプライン敷設はどうするのか

 天然ガスは4000キロメートルまでは、パイプラインのほうがコストはかからないという(一五五ページ)。ということは、サハリンからなら、日本列島に縦横にパイプラインを網羅(もうら)出来るということだろう。

 そこで、二〇〇〇年頃、既に大きな増量が確認されていたサハリン北部の天然ガスを大量輸入するために、パイプラインを敷設する計画があった。(一五四ページ)

シベリアにある天然ガスパイプライン

 このパイプラインは、サハリンから宗谷海峡と津軽海峡によってサハリン、北海道、本州を海底パイプライで繋(つな)ぎ、北海道と東北自動車道など、主要幹線道路沿いに、地下1〜2キロメートルのところに敷設する予定だった。(一五六ページ)

 この地中に埋められたパイプラインは、一般の都市ガスや水道と同じく、安全性に問題はない。復旧のメンテナンスも早い。

 こうして天然ガスは、冷却タンカーによる輸送コストが全面的に解消され、全てのエネルギー源の中でも最高のものとなりうる。しかしそれでも、自然エネルギーのない日本では、なぜかタンカーによるLNGガス輸入のままなのである。

 これには当時、次ような反論が掲げられていた。

(引用開始)

 日本の電力業界は長年LNGの取り扱いに習熟しており、LNGの液化プラントの工事が始まった場合、いつ頃それが完成して、いつから輸入が開始できるのか確実に見込むことができる。

 一方で、本格的なパイプラインは日本で工事がなされたことがなく、許認可関係や土地所有者の了解を取るのにどれだけ時間がかかるか読めずに、発電計画の対応が困難だ。」(『エネルギー論争の盲点』、一五五ページ)

(引用終わり)

 要するに、企業の合目的計画立てがその理由。資本主義として当然の、経済学教科書のお手本のような理由である。だからこれは、企業として当然の理由だが、国家のエネルギー政策という視点からは程遠い。

 石井氏は「あらゆる新規事業にはつきものの懸念」と述べているが、それは、あくまで電力会社の企業側としての「真っ当な」理由でしかない。電力会社は企業であるから、LNGを輸入し続ければよい。コンバインド・サイクルで十分に採算が取れる。

 もう少しコンバインド・サイクル火力のメリットを述べておくと、石炭火力発電所に比べて発電所建設期間も圧倒的に短く、必要面積も一番小さい。(一一〇ページ)

 さらにLNGガスの逆のメリットが挙げられている。LNGを受け入れる際、LNGを温めるが、その時に出る冷熱を隣接した工場や冷凍倉庫に有効利用することができ、エネルギー・ロスをさらに相殺できるという。(一五一ページ)

 これで天然ガス冷却時にとられる一割の自家消費は、実質すべて解消出来るだろう。かかるのはタンカー輸送費だけだろう。実際に大阪ガス泉北LNG基地では、これを実施している。(一五一ページ)

 これで、天然ガスを電力会社が輸入しても、原子力よりもはるかにコストが低く、儲けも出しやすいことがわかる。コストが異常にかかる原子力よりもはるかに儲かる。営利という面だけ見ても、企業としての電力会社には十分にうまい話であろう。

 ところが、電力会社はパイプライン敷設という国家的プロジェクトに反対したらしい

 電力会社がパイプライン敷設に反対した本当の理由として、二〇〇〇年当時のエネルギー関係者の間で囁(ささや)かれたとされるものは、電力市場の自由化に対してだったらしい。

 電力市場の自由化に関して、我々一般の人が心に浮かべるのは、屋根の上に設置したソーラーパネルで風呂を沸かすために発電したけど、電気が余ってしまう。それを電力会社に売って小金を儲けようといったことだ。これは間違ってはいない。一般家庭ではせいぜいそのくらいだろう。子供にちょっとしたお小遣いくらいあげられるだろう。

 電力市場自由化の本質は、「発電事業と送電事業の分離」である。これは二〇一三年の現在、もう既に一般の耳に届いている言葉だ。

 送電事業には、送電インフラを所有している電力会社が受け持って、発電に関しては、電力会社だけでなく、一般に開放して競争を促(うなが)し、電気料金を下げる。これが電力の自由化である。(一五六ページ)

 これだけならば、電力会社は圧倒的に有利である。太陽光や風力などの自家発電程度であれば、全く痛くもかゆくもない。だから、電力会社にとって、電力自由化それだけでは脅威ではないから、反対のしようもない。

 電力会社が恐れたのは、この自由化とパイプライン敷設のセットであった。

 電力会社が忌み嫌ったのが、パイプラインを敷くと「その沿線途上でいくらでも、その天然ガスを利用した独立発電事業や、工場などの自家発電が低コストで可能となる」(一五八ページ)からであるという。

 電力会社に天然ガスがようやく行き届くのは、パイプラインの末端になって初めてである。発電所がパイプラインの末端だからである。パイプラインの終着点が電力会社なのだということだ。

 これは電力会社にとって、実に都合が悪い。パイプラインの途中から、それまで電力会社の顧客であった工場や独立事業者が、より安い価格で、直接天然ガスを調達出来るようになるからだ。

 さらに、二〇〇〇年当時は、依然として原子力推進の流れの中にあった。CO2の排出量が石炭よりも少ない天然ガスシフトを、電力会社の火力発電事業の範囲の外で行われることは非常に都合が悪い(一五八ページ)。パイプライン敷設への電力会社の反対の背景には、このような事情があったのだろうと言われている。

 これに対し、サハリンの天然ガスの売り手側が、譲歩案と言えるものを出してきたという。それは、沿線の独立発電事業者が天然ガスを手に入れられないように、東北地方沿岸の海底に、パイプラインを敷設するという案であった。(一五八ページ)

 ところが、これでは200キロメートルごとに陸揚げして、ポンプでパイプラインの圧力を上げないと、長距離を輸送はできないため、電力会社が完全にその支配下に置くことができない。

 パイプライン敷設は、今後数百年間の産業立国、先進国の現在のエネルギー源であり、死活問題であると思う。あくまでも民間企業である電力業界の都合で、国家的事業が潰されるいわれはない。福島第一原発事故以降の日本は変わった。

 今後、日本のエネルギー事情は、天然ガスシフトになっていくだろう。そして、サハリンからのパイプライン敷設は、日本の国家的な死活問題である。

 ただし、二〇〇〇年頃に、サハリンの天然ガスの利権を有していたのはエクソン・モービルであり、それらと日本やロシアの企業のプロジェクトであったことは、特筆すべきで、それが日米ロの国際関係や、地政学と何らかの関係があったとするのは考慮すべきだ。

 世界の天然ガスシフトへの、二〇一一年の福島の事故後のさらなる傾向を示すものとして、筆者は「天然ガスの黄金期到来か(Are we entering a golden age of Gas?)」と題した、国際エネルギー機関(IEA、二〇一一年六月)のレポートと、MITの低酸素社会へのブリッジとしての天然ガスの重要性を指摘するレポートを引いている。(一六一ページ)

●コジェネとスマート・エネルギーの時代

 CO2や福島以降、一層加速した脱原発後のエネルギー・トレンドとして、天然ガス利用とセットになっているのが「コジェネレイション(cogeneration)」である。

 コジェネレイション、コジェネとは簡単に言えば、廃熱利用のことである。火力発電の石炭やガスが持っている多くの熱量は、廃熱として捨てられ、実際にはエネルギー効率が悪く、環境にもよくない。

 この廃熱を利用して有効エネルギー(エクセルギーという)を取り出す率を高め、CO2削減を同時に実現しようという、新しいエネルギー供給システムが、コジェネレイションである。(一八〇ページ)

 どんなに効率よいエネルギーでも(天然ガス・コンバインドであっても)、送電の際には熱量の40%は消えてなくなってしまう。(一八〇ページ)

 そこで「これまでのような、中央集権型の発電によるエネルギー供給だけに頼るのではなく、供給元と需要先の距離が近い「分散型」の発電システムを、それぞれの規模に見合った方式で配備する」ことが重要だという。その際に、コジェネレイションは、太陽熱、風力と共に組み合わせて使うと、威力を発揮する。

 筆者、石井氏がコジェネレイションとして取り上げているのは、「ガスエンジン・コジェネレイション」と「燃料電池利用のコジェネレイション」である。

 まず、ガスエンジンのほうだが、これが一体何であるのかを筆者は書いていない。おそらくは、小型の天然ガス・コンバインド・サイクル発電機なのだろう。これは発電効率が49%で、有効エネルギー利用率は90%だという(一八一ページ)。

 六本木ヒルズは、森ビルと東京ガス共同出資のエネルギー会社による、ガスエンジン式コジェネレイション発電で、施設内の電気と熱を賄(まかな)っているため、東日本大震災後の電力不足の時にも、停電知らずだったという。(一八一ページ)さらに、余った電気を東電に売っていたらしい。

 このように、工場やオフィスビルのような中規模需要先には、ガスエンジン・コジェネレイションが極めて有効である。

 六本木ヒルズは最先端の商業ビルだが、一般家庭の場合、燃料電池コジェネレイションが有効であることが書かれている(一八一ページ)。燃料電池とは水素と酸素を反応させて、水を生成する際に、電気を取り出す小型発電機のことである。(一八二ページ)

 その中でも実用化が進みつつあるのが、固体高分子模型(PEFC、発電効率30%台高機動性)と固体酸化物模型(SOFC、発電効率40%、機動性若干劣る)の二つである。

 この発電の際に出る廃熱も、温水・冷水、冷暖房のために利用出来る(一八一ページ)。共に日本の企業が先端を行っているという。

 石井彰氏は、本書にて、太陽や風力エネルギーを批判しているが、それはあくまで、原発の代替としての主力エネルギーの可能性を否定しているだけである。石井氏は原発もコストと安全面で割に合わぬと述べている。

 石井氏は、太陽光パネルであっても、ネヴァダ州のような砂漠から大規模に電気を持ってくるのではなく、各家庭やビル・工場の屋根に設置することには反対していない。ただし、太陽光の場合、朝夕、曇り、雨天、夜間のバックアップ電源が必要。その際、この燃料電池とガスエンジン・コジェネレイションが大活躍する(一八四ページ)。

 風力の場合にも、リチウム・イオン電池のようなコストと環境負荷の高いものより、この二つの方式のほうが良い。

 この二つの方式のコジェネレイションが有効であるのは、オン・オフの機動性の高さもその一つである。大規模発電所からの供給は、この機動性が低く、これだけと太陽光パネルを組み合わせても、あまり効果はないようだ。

●スマート・エネルギー・コミュニティ

 こうしていろいろなエネルギーが揃った。天然ガス・コンバインド・サイクル、パイプライン、コジェネレイション、それと組み合わせた太陽光、風力。

 脱原発の議論の中心は、原発代替エネルギー源の確保(つまり輸入先の確保。輸入先相手国との仲の良い関係の確立と維持。これがエネルギー安全保障)の分散化である。

 主力エネルギーを一本に頼るということをしない、経済学的なリスクヘッジの思想である。

 マネーの世界でのリスクヘッジは、本質的に虚偽、あるいは時には詐欺的な思惑に駆られることのある、虚栄の世界の側面があるが、エネルギーの場合のそれは、現実と実際の問題である。虚栄でもヴァーチャルでもない。

 様々なエネルギー効率の良い、コストも低いエネルギー源が存在するが、いくらこれだけのエネルギー源や装置があっても、各々が相互に関連づけられていて、有効に機能していなければ駄目である。

 そのためのシステム構築が必要となるのだが、その宣伝としてこれまで為されてきた方式がスマート・グリッドである、と石井氏は述べている。(一八五ページ)

 スマート・グリッドは、「地域単位で不安定電源の太陽光発電や風力発電を取り込んで、IT技術で情報を瞬時にやり取りし、各種の電源の発電量の最適化を図る」方策だという。(一八五ページ)

 しかし、この方策は、送電線網の整備の不備があるアメリカに適したものであって、日本での効果はあまり期待できないらしい。

 スマート・グリッドは、日本の場合原子力発電の夜間の需要が下がるため、その分深夜電力料金を割引して電気自動車を充電し、これを太陽光のバックアップとして使うという、あくまでも原発ありきの発想だったらしい。(一五六ページ)

 これだけを聞いても一体何のためにやるものなのか、全くピンと来ない。根本的なエネルギー問題解決や技術進歩という視点はほとんどない。あくまで原発が親の発想である。

 ただし、スマート・グリッドの、IT技術を使って各種発電量の最適化を図るという根本の発想は間違ってはいない。要は、情報システムだけではなく、きちんとしたインフラを整えればよい、このことにかかっている。

 石井氏は、二〇五ページにスマート・エネルギー・コミュニティの概念図を掲げている。

 それによれば、家庭には水素の燃料電池、工場やビルにはガスエンジンという二つのコジェネ、加えるに太陽光パネル。近隣空き地に風力発電。生ごみ人畜排泄物利用のバイオマス・ガス発電、産業廃棄物利用のごみ発電、河川、地下水、海岸の水の熱利用を相互補完的に組み合わせ、地域単位である程度完結したエネルギー・ネットワークを形成することだという。(二〇六ページ)

 さらに、その単位ごとに外部の大型発電所からの送電線網と連結して、エネルギーの安定化を図る。これを「スマート・エネルギー・コミュニティ」という。

 石井氏は、一八九ページ、第三節のタイトルを「原子力大体は天然ガス+再生可能エネルギーで」としているが、それは、地域単位のスマート・エネルギーを確立して、パイプライン、及び、液化天然ガス=LNG両輪による、天然ガスを主軸にしたシステムを作り上げることが、今後のエネルギーの実際的なヴィジョンであるだろう。

 私個人としては、二〇一〇年の一〇月に、東芝の府中工場に見学に行く機会があり(小学校の社会科見学レベルのもの)、そこで見せられた中で、東芝が今最も力を入れているものがスマート・エネルギーであるという説明を受けた。

 東芝工場のグランド・ツアーでのスマート・エネルギーの説明は、再生可能エネルギーのIT技術による、相互補完を行うシステムであるということで、本書での石井氏の説明と同じであった。今はそのためのデータを取っているという。

 太陽光に関しては、夜間や曇り空でどれだけの発電減になるのか等のデータを取り、それを今後のシステム構築に反映させていくのだという。

 案内をしてくれた人の説明によれば、そもそもこのシステムはヨーロッパからの発想であり、フランスのとある地域や都市の単位で実験中であるという。日本もこれを取り入れて、近々小さな地域で、スマート・エネルギーを実験的に取り入れるのだとの説明を受けた。

 同じく、二〇一二年七月現在、日本電気もスマート・エネルギーに取り組んでいるとのテレビCMも始まっている。共に、三井(東芝)と住友(日本電気、NEC)というヨーロッパと伝統的に繋がりの深い企業である。ちなみに、アメリカに近い日立は核融合技術を東芝と共に政府から請け負っている。日立(安田。芙蓉グループ)もスマート・エネルギー推進に一役買うだろう。

 そこで原子力発電はどうするかという問題が残る。

●原発廃止推進は、天然ガス火力導入に比例していくべきだ

 石井氏は一九三ページにて「原子力については、「危険で高いもの」との前提で、何とか折り合いをつけてやって行くしかない」と自分の立場を明らかにしている。彼は即時全廃派ではないということである。

 原子力は、コストも安全性も推進派が言うほど信頼できるものではない。しかし、反原発派(いわゆる左翼のことを指しているのだろう)が言うほど「大事故の発生確率が極めて高いわけでもないし、チェルノブイリ以外では大勢の死者が出たわけでもない」(一九三ページ)。

 さらに、(保守系の言論人や現実派が言いそうなことではあるが)電力会社の下請け、孫請けなどの多数の原発関連事業の従事者がいる。この人々をすべて引き受けることの出来る雇用が、そう簡単に創出可能なのかという点からも、原発の大半は存続させざるを得ないだろうと石井氏は述べている。

 老朽化した発電所の建て替えもやむを得ないという。ただし、安全対策・規制の抜本的強化と、活断層の上に立つと言われている浜岡原発のような、危険性を指摘されているものを除いて。

 しかし、ここまで天然ガスの高い有効性を聞かされると、原発の廃止は天然ガス・コンバインド・サイクル火力発電所の建設と稼働の進み具合に比例するものだと思う。

 スマート・エネルギーや、パイプラインの敷設に関する努力は、同時に進めていくべきだが、それは天然ガス火力の現実的実施が、全般的に可能になって後のことだと思う。

 だから私は自分のことを、現実的には「天然ガス・コンバインド・サイクル火力発電推進に伴う、原発の実際的な漸次(ぜんじ)的撤廃推進者」ということになる。

 そして石井氏の論に乗ってみれば、原発の大半を存続させるという石井氏の主張も、やはり間違いであると思う。

 石井氏は、「将来の日本全体の発電コストの上昇を最小限に抑える意味と、CO2削減効果の量的な面から」大半は残すべきだと述べているが、CO2の問題に関しては、天然ガスとスマート・エネルギー・コミュニティ確立によって、大幅に削減出来る。もし、原発を残すとしたら、発電コストの面からであろうか、原発はそもそもコストが高いのだから、彼の説と矛盾すると思う。

 もしも原子力を残すとしたら「エネルギー安全保障上の意義」(一九三ページ)だけであろう。ウランからプルトニウムを作れるという、「準」国産エネルギー源であるから、資源の輸入の心配が軽くて済むという理由である。ただしテロ攻撃を受けるという懸念はある。

 天然ガスに関しても、石油・石炭と共に、化石燃料は、一〇〇パーセント輸入に頼らなくてはならない。そこで燃料価格の高騰や外国事情や国際関係によって、国のエネルギー危機に陥るということが考えられる。

 人為的なものではあるが、日本の経済成長が国際的な情勢に動かされたものとして、一九七三年のオイルショックがまさにそうだった。

 そこで「準」国産と言えるウランを燃料にすれば、そんな心配も消える。

 ウランは大量のストックが可能で、燃料自体のコストは低い。プルトニウムも取り出せる。だから外国事情に左右されにくいというのがその理由である、

 しかし、二〇一一年の福島の事故、二〇〇七年に起こった新潟県柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発の事故によって、ウランによるエネルギー安全保障という目論見は見事に崩れたのである。

 二〇〇七、八年夏は電力需要に耐え切れず、大停電すれすれであったという。これは、オイルショック以上の本物のエネルギー危機であり、日本人は二〇〇七、八年、一一年夏と、三度に渡る本物のエネルギー危機に見舞われたことになる。

 だからウランという「準」国産エネルギーによる安全保障という点から原発を残すという理由も立ち消えた。

 では原発を残す理由は何か。それは日本の先端科学技術と核物理学知識の維持、技術者、学者、専門従事者の育成という観点からであろう。

 また、世界のどこかで原子力による危機が起こるかもしれない。あるいは、日本に最低レベルの緊急用の発電として、ほんの一部は稼働させず残しておく必要があるだろう。そうした実際的必要としても、原子力、核分裂(ワットの蒸気機関のように、いつかは博物館行きにはなるが)施設を何らかの形で残しておかなくてはならない。

 核分裂原子力は、技術者と施設を緊急のために常に一定の水準を維持するための、経験のためのものとして残すのである。そうすると各電力会社はせいぜい一基だけは、稼働させないままに、国家のエネルギー技術水準維持のために残しておくべきであろう。

 ただし、稼働させるにしてもかなりの厳格な規制や法律を作って、国家の一大危機以外には容易には動かせないようにする、という条件付きとなるであろう。

 原発の存在意義は、そうした「原発の冷凍保存」(つまりは本当の凍結)以外にはないだろう。つまり、実際に稼働している原子力発電所は、天然ガスの普及に伴い、二〇年以内の全廃を目指すことになると思う。それが実際的な考え方であろう。

 これで、私のエネルギー分野の文章の第一弾は終わりである。

 「天然ガスのコンバインド・サイクル火力発電普及、サハリンからのパイプライン敷設とLNGの両輪、家庭や工場ビルでの太陽光とガスエンジンなどの複合発電、スマート・エネルギー・コミュニティの構築、核分裂施設漸次的撤廃(最大で二〇年以内)と技術学術的意義を残した凍結」これが現実的な、現在のエネルギー政策として、未来に向けて実施すべきだというのが私の主張である。

 私のエネルギー理論はまだ終わりません。この後、天然ガスに続いて、最大の人類永遠のエネルギー解決に関する文章を発表致します。

追記:私の以上の文章と照らし合わせれば、以下の毎日新聞の記事での安倍総理の動向の意味がどういうものかがわかるであろう。

 安倍首相は二〇一三年四月二八日からロシア、トルコをはじめとした中東、南米へ向けて、三菱重工、住友商事、東芝、川崎重工といったエネルギー分野で重大な働きをしている日本企業の重役の一団を引き連れて外遊した。

(転載貼り付け開始)

<GW首相外遊>経済界が大規模同行団 商機拡大へ協調

毎日新聞 4月28日(日)10時35分配信

安倍晋三首相=森田剛史撮影

 安倍晋三首相ら政府要人が大型連休中にロシア、中東、南米などを訪問するのに合わせ、経済界が大規模な同行団を派遣する。

(2013年4月)28日からの首相訪露では、アジア向け液化天然ガス(LNG)輸出基地の性格を強めている極東地域の開発などが議論される見通し。政府は成長戦略の柱の一つにインフラ関連施設の輸出拡大を掲げており、中東訪問などで成果を目指す。

官民一体となった経済外交を展開し、アベノミクスの「第三の矢」である成長戦略に弾みをつけたい考えだ。【大塚卓也、松倉佑輔、西浦久雄、大久保渉】

訪露には、岡素之住友商事相談役や佐々木則夫東芝社長ら約50人の企業幹部が同行。安倍首相とプーチン大統領の首脳会談では、北方領土交渉の地ならしとして、ロシア極東地域のエネルギー・食糧資源開発に向け、国際協力銀行(JBIC)による金融協力などが協議される見通しだ。

米国の「シェール革命」などの余波で欧州へのガス輸出が低迷するロシアは、日本へのLNGの売り込みを活発化。原発停止で火力発電用の燃料を求める日本も、調達地域の拡大に期待は大きい。

訪問団には複数の大手商社幹部が加わり、このうち双日は、極東地域へのコージェネレーション(熱電併給)システム導入でロシア側と覚書を交わす見通しだ。サハリン−ウラジオストク間にハバロフスク経由約1800キロのガスパイプラインを敷設し、周辺地域に電気や熱を供給する大型事業。

ガスタービンの納入を見込む川崎重工業の長谷川聡社長は「企業だけではできないことも多い」と首相のトップセールスを後押しする。

ロシアでは2009年から、三井物産と三菱商事が参加する「サハリン2」のLNGプロジェクトが始動。伊藤忠商事も国営ガス大手とウラジオストクでLNG基地を建設し、18〜20年ごろから日本などに輸出する計画だ。

17日には丸紅が国営ロスネフチとLNG基地建設で合意しており、エネルギー協力に厚みが増している。

ただ、日本はあくまで「エネルギーの安価な調達が重要」(茂木敏充経済産業相)との立場だ。将来的な米国からのシェール・ガス輸入に道筋がつけば、他国との有力な交渉カードになるため、輸入量や価格などの詳細条件は米政府の輸出許可後に交渉を本格化させる。

一方、5月1日からの首相の中東訪問には、経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)、渡文明審議員会議長(JXホールディングス相談役)らが同行し、サウジアラビアのアブドラ国王らとの首脳会談に同席する方向で調整が進んでいる。

米倉会長は中東訪問について「資源の調達国であると同時に、今後整備が進むインフラ関係(での協力)などで非常に重要な地域だ」と語り、政経一体外交で強いメッセージを送る意義を強調する。

トルコでは中国、韓国などと受注を競っていた原発建設について、日本政府が押す三菱重工業と仏アレバの企業連合が優先交渉権を獲得することで政府間合意が成立する見通し。同国は23年までに3カ所に原発を新設する計画で、今回の受注は日本から1兆円規模の輸出につながる可能性がある。

毎日新聞 4月28日(日)10時35分配信

(転載貼り付け終わり)

(つづく)