「232」 翻訳 習近平の人脈についての論文をご紹介します(1) 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2014年4月18日

 古村治彦です。

 今回から4回に分けまして、中国最高指導者の習近平の人脈について書かれた論文を皆様にご紹介いたします。

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習近平のインナーサークル(パート1:陝西省組)

チェン・リー(Cheng Li)筆
China Leadership Monitor, no. 43

 世界中の成功した政治家たちがそうであるように、中国の習近平(Xi Jinping、1953年〜)国家主席もまた、インナーサークルの支援を受けて、中国の最高指導者の地位に就いた。このインナーサークルは、就任して最初の一年間で権力を完全に掌握しようとする習近平の試みにおいて重要は役割を果たしている。習近平のインナーサークルは腹心たちで構成され、習近平が大胆な反腐敗キャンペーン、薄煕来(Bo Xilai、1949年〜、はくきらい)に対する裁判、野心的な経済改革を進める上で、その進行がスムーズにいくように尽力した。今回のシリーズでは、習近平のインナーサークルを形成する様々な権力基盤を構成する個人について分析を行う。彼らは習近平の手となり、耳となり、口となり、頭脳となっている。

  

習近平        中国共産党第18期中央政治局常務委員たち

 今回の第一回目で取り上げるのは、習近平の出身地グループである。彼らは「陝西省組(Shaanxi Gang)」と呼ばれている。この中には、中国共産党中央政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)内の「鉄の三角形」グループも含まれている。インナーサークルの人々を取り上げて分析することで、習近平政権の政治の方向性と政策決定を明らかにすることができる。習近平の長年の友人たちの地位と昇進を分析することで、習近平の現在の実力と効果的な政策実行のための潜在的な実力を評価することができる。

陝西省の位置

 習近平の権力掌握に関する最近の議論のほとんどは、彼が指揮する中国の最高指導部に関する分析に集中している。(1)習近平は、最近の権力継承によって、党、国家、軍それぞれの最高機関の指導的立場を継承した。それだけでなく、習近平は、2つの新たに創設された機関である、国家安全保障委員会(National Security Committee)と経済改革深化指導中央グループ(Central Leading Group on Comprehensive Deepening of Economic Reform)のトップとなった。この2つの機関は中南海における重要な意思決定機関である。2013年11月に第18期中国共産党中央委員会第三回全体会議()が開催され、習近平の包括的な市場改革政策が党の指導部において支持された。(2)この大規模な、大胆な、そして広範な政策への支持は、習近平の権力と影響力が増大していることを反映している。(3)

 あまり書かれないが、同じくらいに重要なのは、習近平が腹心たちで構成するインナーサークルに依存しているということである。習近平は長年の付き合いがある腹心たちをすぐに重要な指導的地位に昇進させている。こうした動きは、2つの理由から、習近平の指導力にとって重要なものなのである。

 第一に、習近平よりも前の最高指導者であった江沢民(Jiang Zemin、1926年〜)と胡錦濤(Hu Jintao、1942年〜)は、数年、もしくは10年にわたって後継者として最高意思決定機関(中国共産党中央政治局常務委員会)の中で活動していた。しかし、習近平の場合、後継者として指名されて以降の活動期間が比較的短かった。2012年秋に党総書記に就任するまでに、中国共産党中央政治局常務委員は1期(5年)、中国共産党中央軍事委員会副主席は僅か2年しか務めなかった。

江沢民(左)と胡錦濤

 対照的に、江沢民は、1989年の天安門事件の後すぐに党、国家、そして軍のトップの地位に就任したが、彼は、最高指導者であったケ小平の影響下に甘んじた。それは、ケ小平が健康問題で1990年代半ばに実権を失うまで続いた。ケ小平による「垂簾聴政(ruled behind a acreen)」が続いていた時期、江沢民は、彼の親友たちの多くを昇進させることで徐々に権力を掌握していった。第一機械工業部以来の後輩である、李嵐清、賈慶林、曽培炎、上海時代の側近である曽慶紅、呉邦国、黄菊が最高指導部入りを果たした。これらの人々は、一人を除いて全員が中国共産党中央政治局常務委員となった。中国共産党中央政治局常務委員会は中国最高の指導機関である。(4)

 胡錦濤は、後継者として、中央政治局常務委員を2期(10年)、中国共産党中央軍事委員会副主席を5年務めた。胡錦濤は1980年代に中国共産主義青年団(Chinese Communist Youth League)のトップを務め、この組織を通じて多くの人々との間に強固な親分・子分関係を形成した。「団派(tuanpai)」出身の指導者の多くが、2002年に胡錦濤が最高指導者の地位に就いた後に重要な地位に就けられた。(5)習近平には江沢民や胡錦濤が持っていたような人脈的なバックグラウンドはなかった。そのため、習近平は、前任者たちのような側近によるインナーサークル作りをし、指導力を発揮できるようにしなければならないという必要に迫られた。

 第二に、習近平政権の第一年目、中国の政治と政策の面で大きな変化があった。習近平は中国における最重要の機関を全て掌握し、政策決定における決定権を握ったように見えた。しかし、こうした業績は、中国共産党中央政治局常務委員会の派閥構成の結果であって、習近平個人の権威と指導力の結果ではないという主張もなされた。

 ポストケ小平時代、現在でもある程度の影響力を持つ江沢民と胡錦濤の2人の元党総書記がそれぞれ2つの主要な政治派閥を率いていた。2つの派閥は中国が「集体領導(collective leadership)」と呼ぶ体制を確立した。第18期中国共産党大会において、江沢民派は7名の中央政治局常務委員のうち6名を占めた。胡錦濤派は李克強1人だけであった。(6)この「6対1」という江沢民派の優越は、現在の中国の最高指導部が行う政治にとって大変に重要な要素となっている。これによって、江沢民の側近である習近平には大きな支援が与えられ、権力も与えられているということになる。しかし、常任委員の5名は習近平の政治的同盟者ではあるが、この最高意思決定機関における江沢民派の優越は習近平にとって有利とばかりは言えない。彼ら5名は3年後に開催される次期党大会で定年のために引退することが予想されている。(7)

 江沢民派の中央政治局常務委員人事における大勝利は2008年のアメリカ大統領選挙で民主党候補だったバラク・オバマが勝利した時の状況とよく似ている。もちろん、中国とアメリカの政治システムの間には根本的に大きな相違点がある。中国の政治システムでは、政治における恣意性と支配層のエリートたちの密室での合理形成で指導者が選ばれる。一方、アメリカの政治システムの場合は、指導者の決定は有権者の投票による。しかし、オバマ大統領も習近平党総書記も政治的な現実を常に念頭に置いておかねばならない。その現実とは、党や派閥の印象的な勝利を得ることは重要であるが、国家を有効に統治することは全く別のことだ、というものだ。

 新たにホワイトハウスの住人となったオバマ大統領がすぐに自分の政権に少数の仲間を入れたことを、この政治的な現実によって説明できる。彼らは、「彼らは長年オバマと共に行動し、一緒に働き、彼らの判断は信頼できる」と言われた。(8)こうした人々は、いくつかの重要な政治的、個人的ネットワークを通じてオバマに連なる人々であった。一つ目のグループは、オバマの地盤であるシカゴ出身の政治顧問たちで、ラーム・エマニュエル、デイヴィッド・アクセルロッド、そしてヴァレリー・ジャレットといった人々がいた。二つ目のグループは、オバマの出身校であるハーヴァード大学の「同級生たち」で、マイケル・フロマン、カサンドラ、バッツ、そして、クリス・リューといった人々が含まれていた。三つ目のグループは、上院議員時代のスタッフで、ピート・ロウズ、ロバート・ギブス、アリッサ・マストロモナコといった人々がいた。そして、四つ目のグループは、ブルッキングス研究所出身の外交政策戦略形で、スーザン・ライス、ジェイムズ・スタインバーグ、ジェフリー・ベイダーが含まれていた。(9)

 オバマ大統領は、こうした信頼に足る友人たちについて、「アイディアを提供し、フィードバックもしてくれる」と語っている。(10)彼らの中にはオバマ大統領のインナーサークルを形成している人々がいる。彼らは、オバマ大統領にとっての「戦術指南」「調整役」「擁護者」そして「情報提供者」の役割を果たしている、とアメリカの評論家たちは述べている。(11)

 習近平のインナーサークルを構成しているのはどういう人たちなのか?誰が習近平の手となり、耳となり、頭脳となって、彼を支えているのか?アメリカに比べて最高指導部内の活動に関する透明性が低い中国の政治システムにおいて、インナーサークルを特定し、その動きを観察することは困難である。習近平のインナーサークルの研究においてはどうしても限界があり、抜け落ちてしまうところがどうしても出てきてしまうということを認識しなければならない。それでも、この研究テーマは大変に重要であり、取り組む価値があるものだ。

 習近平の近くにいる個人、特に習近平の就任以降の主要な政治課題の調整と新たな政策変更の助けとなったアドヴァイザーたちを理解することで、中国で起きている変化の理由を説明することができる。更に重要なことは、この分析によって、習近平政権が進む政治と政策決定の路線に関する手掛かりを掴むことができる。付け加えれば、習近平の年来の友人たちの地位と昇進を分析することで、習近平の現在の実力と影響力を評価することもできるのだ。

 オバマ大統領は、キャリアを通じて社会、政治、職業の面で深い関係になった人々に大きく依存した。それと同様、習近平も自身の個人的なそして政治的なキャリアにおける重要な時期に関係を形成した人々の助けを求めた。習近平に近い人々についての情報は、誰でも利用切るような形で公開され、その情報の精度も格段に向上した。習近平自身も中国メディアと海外メディアに対してキャリアを通じて形成した人脈について語っている。(12)

 近年、中国政府は、様々なレベルの指導者や官僚たちについてのより詳細な個人データを発表するための努力を行っている。中国共産党もインターネットを通じて、政府、主要な国有企業、軍の要職にある人々の個人データを紹介している。中国の公的メディア、半公的なメディア、そしてソーシャルメディアでは、以前であれば公開が禁止されていた、党の指導者たちの親分・子分関係(patron-client ties)についての情報も公開されるようになってきた。(13)個人データ、家族の背景、政治的なネットワークを取り上げた中国語で書かれた書籍が香港、台湾、そして海外で多く出版され、中国の指導者たちと政治的なつながりについての追加情報を提供してくれる。しかし、こうした情報の真偽は定かではない。(14)

 この習近平のインナーサークル研究では、中国の公式な媒体(インターネットと印刷物)に掲載された、誰でも閲覧可能な情報を利用し、それを調査し、分析している。一人一人のキャリアで、習近平や彼の側近たちとキャリアが重なったり、一緒に仕事をしたりしている点に特に注目している。この研究はまた、いくつかの真偽が定かではない情報源の正確さを調査することを目的の一つとしており、脚注でこれらの情報源を示す。

 習近平の家族、妻の彭麗媛(Peng Liyuan、1962年〜)、母親、娘、兄弟姉妹たちと彼らの配偶者たちはおそらく、習近平の腹心であり、アドヴァイザーの役割を果たしていることだろう。彼らの多くは表立って指導的な立場に就いてはいないが、習近平に対する彼らの影響力は大きいと考えられる。しかし、人脈にテーマを絞りたいので、今回の研究では、家族の影響力については取り上げない。

彭麗媛

Notes
1 The author thanks Yinsheng Li and Ryan McElveen for their research assistance and helpful comments on an earlier version of this article.
2 For example, see Evan A. Feigenbaum and Damien Ma, “After the Plenum: Why China Must Reshape the State,” Foreign Affairs, December 16, 2013,
http://www.foreignaffairs.com/articles/140557/evan-a-feigenbaum-and-damien-ma/afterthe-
plenum, accessed January 14, 2014.
3 For a more detailed discussion of the necessity for the “big, bold and broad” reform agenda, see Cheng Li and Ryan McElveen, “Pessimism about China’s Third Plenum is Unwarranted,” U.S.-China Focus, November 4, 2013, also see
http://www.chinausfocus.com/political-social-development/pessimism-about-chinasthird-
plenum-is-unwarranted/, accessed January 15, 2014.
4 The exception, Zeng Peiyan, also later became a Politburo member and vice premier in the State Council.
5 Cheng Li, “Hu’s Policy Shift and the Tuanpai’s Coming-of-Age.” China Leadership
Monitor, no. 15 (Summer 2005).
6 For the reason of the landslide victory of the Jiang camp, see Cheng Li, “Rule of the Princelings” The Cairo Review of Global Affairs, no. 8 (Winter, 2013): 34–47.
7 Based on the Chinese political norms, at the next party congress, in the fall of 2017, all
leaders who were born in 1949 or earlier will retire from the Central Committee. Among the current seven members of the Politburo Standing Committee, only Xi Jinping and Li Keqiang were born after 1950.
8 Anne E. Kornblut and Scott Wilson, “Obama’s Inner Circle about to Break Open,” Washington Post, September 23, 2010. Also see http://www.washingtonpost.com/wpdyn/
content/article/2010/09/22/AR2010092206151.html, accessed January 14, 2014.
9 For President Obama’s heavy reliance on his classmates from his Harvard years, see Carrie Budoff Brown, “School Buds: 20 Harvard Classmates Advising Obama,” Politico, December 5, 2008, also see http://www.politico.com/news/stories/1208/16224.html,
accessed January 14, 2014. Some of the individuals from these political networks overlap. For example, Chris Lu, who was Obama’s Harvard classmate, also served as his staffer at the Senate before joining the White House as the secretary of the cabinet.
10 Kornblut and Wilson, “Obama’s Inner Circle about to Break Open.”

11 For example, Ken Thomas, “A Look at President Barack Obama’s Inner Circle,” Associated Press, July 19, 2012 (http://bigstory.ap.org/article/look-president-barackobamas-
inner-circle), accessed Dec. 27, 2013.
12 For example, the Chinese official media recently published several articles about Xi Jinping’s experiences in Zhengding County in Hebei Province, where he served as deputy party secretary and then party secretary of the county from 1982 to 1985. These articles revealed the friendships that he developed with some officials during that period and
beyond. See Cheng Baohuai, Liu Xiaocui, Wu Zhihui?, “Comrade Xi
Jinping in Zhengding County , Hebei Daily , January 2, 2014, p. 1; also see http://news.xinhuanet.com/local/2014-01/02/c_125944449.htm,
accessed January 15, 2014. Xi Jinping, “In commemoration of Jia Dashan” Guangming Daily, January 13, 2014, p.1. Also see
http://www.chinanews.com/gn/2014/01-13/5726676.shtml, accessed January 15, 2014.
The piece originally appeared in Contemporary, no. 7 (1998).
As for the international audience, Xi introduced Liu He, one of his top aides on economic affairs, to then U.S. National Security Adviser Tom Donilon in the fall of 2013. Xi said: “This is Liu He. He is very important to me.” Quoted from Bob Davis, “Meeting Liu He, Xi Jinping’s Choice to Fix a Faltering Chinese Economy,” Wall Street Journal, October 6, 2013, also see http://online.wsj.com/news/articles/SB10001424052
702304906704579111442566524958, accessed January 15, 2014.
13 For example, the database of party and state leaders in China
http://cpc.people.com.cn/gbzl/index.html, accessed January 15, 2014.
14 In the study of Xi Jinping’s political associations, Hong Kong–based Mirror Books has published a large number of books, good examples of which include Xiang Jiangyu, Xi Jinping’s Confidants (New York: 2011); Xiang Jiangyu, Xi Jinping’s Team ( New York: 2013); Ke Lizi , People Who Influence Xi Jinping (New York: 2013); Wen Zixian, Xi Jinping’s Choice (New York: 2012); and Liang Jian, New Biography of Xi Jinping(New York: 2012). For some other publishers, see Wu Ming, China’s new leader: Biography of Xi Jinping, new enlarged edition (Hong Kong: Wenhua yishu chubanshe, 2010).

(つづく)