「240」 翻訳 「アメリカは世界ナンバーワンの国だし、これからもそれは続く」と主張する論稿をご紹介します@ 古村治彦(ふるむらはるひこ)記 2014年9月5日

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。

 今回から4回に分けて、「アメリカ優位維持論=アメリカ衰退論への反論」を皆様にご紹介します。著者は、トム・ドニロン(Tom Donilon 1955年〜)前米大統領国家安全保障担当補佐官(National Security Advisor、2010−2013年)です。ドニロンは、バラク・オバマ大統領の対外政策に深く関わった側近です。アメリカの「アジアへの回帰路線」を立案した人物と知られています。

トム・ドニロン

 トム・ドニロンと立場が全く異なるにもかかわらず、つまり、ネオコンの立場から同じような議論を行っているのがロバート・ケーガン(Robert Kagan 1958年〜)です。私は、2012年にケーガンの著書『アメリカが作り上げた"素晴らしき"今の世界』(ビジネス社、2012年)を翻訳しました。この本を、立場が違うオバマ大統領が激賞したという話が出たのですが、その発言者がトム・ドニロンだったのです。「アメリカ優位論」は政権に近い知識人たちにとっては、民主党系、共和党系問わず、金科玉条、批判を許されない「アメリカの公式イデオロギー」なのです。

ロバート・ケーガン

 この「アメリカ衰退論への反論」は、やや「願望を含んだ」内容で、大本営発表的なものでありますが、アメリカの知識人が何をアメリカの強さだと考えているのかを知る上で重要な論稿であると思います。

 それではお読みください。

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私たちはナンバー1だ(そして私たちはこれ彼もナンバー1であり続ける):アメリカの衰退を予言する人々が間違っている理由について語る

トム・ドニロン筆
2014年7月3日
フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌
http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/07/03/we_re_no_1_and_we_re_going_to_stay_that_way_american_decline

 

「アメリカ合衆国は過去15年間に衰退を経験した。これ以上の衰退はないであろう。自己欺瞞だけが、私たちはアメリカの衰退を認めるという辛さから逃れるための方策である」
―ヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger 1923年〜)、1961年

 私たちアメリカ人は楽観主義を維持してきているが、同時に世界における我が国の位置に関して常に懸念を持ってきた。この懸念は私たちのDNAの中に存在するものであり、この懸念があるので、私たちは常に国を新しいものとすることができた。偉大な政治学者サミュエル・ハンチントン(Samuel Huntington 1927〜2008年)の言葉を借りると次のようになる。「アメリカ合衆国は、人々が「アメリカは衰退しているのではないか」という不安を定期的に持つ限り、衰退はしないのだ。衰退を主張する人々は、彼らの予想する衰退を防ぐ上で必要不可欠な役割を果たしているのだ」

サミュエル・ハンチントン

 1961年にキッシンジャーは上記の言葉を書いた。この時、彼にはこうした懸念を持つ正当な理由があった。当時、アメリカ経済は景気後退から脱出するために苦闘していた。ソ連は世界で初めて人工衛星、スプートニクを軌道上に打ち上げた。アメリカ国内はパニックになった。人々は技術革新でソ連に後れを取り、ソ連に適わないようになるのではないと考えるようになった。

ヘンリー・キッシンジャー

 しかし、キッシンジャーの恐怖感を醸成した15年という期間は、第二次世界大戦からジョン・F・ケネディ(John F. Kennedy 1917〜1963年)大統領の就任までの時期である。この時期を歴史家たちは、アメリカの類まれな経済成長と力の時代だと規定している。その次の10年間、アメリカはより豊かになり、ソ連ではなく、アメリカが人類を月面に送り込んだ。キッシンジャーが上記の言葉を書いてからの30年後、ソ連は地上から姿を消した。

ジョン・F・ケネディ

 10年ごとに、新しいが深刻な悲観主義がアメリカを駆け巡ってきた。ドイツ人ジャーナリストで作家のヨーゼフ・ヨッフェ(Josef Joffe 1944年〜)は、名著『アメリカの衰退という神話』の中で、衰退主義の定期的な波について書いている。

ヨーゼフ・ヨッフェ

 1960年代末に衰退を主張した人々は、ヴェトナム戦争のコストと社会、人種を巡る緊張が、ある高名な歴史家が「解体しつつあるアメリカ」と呼んだ状態をもたらすと語っていた。

 1970年代、衰退を主張する人々は、インフレーション、オイル・ショック、失業といった問題によって終末が近づいていることを示していると主張した。イランでイスラム革命が起こり、アメリカは同盟国を失った。そして、ソ連はアフガニスタンに侵攻した。1980年代、アメリカ人は、日本の成長し続ける経済力を、恐怖感を持って眺めた。歴史家たちは、「アメリカはもうすぐ歴史上の忘れ去られた諸帝国の仲間入りをする」と主張した。しかし、どんな時代でも、空は落ちてこなかった。アメリカは海の底に沈むこともなかった。それどころか、地上で最も素晴らしい国家であり続けてきた。

 私たちは将来を確実に予測する能力について、謙虚でなければならない。しかし、これまでに明らかになっているのは、私たちには、アメリカの維持している力を過小評価する傾向があるということだ。

 現在、アメリカの衰退を主張する人々が復活しつつある。彼は、中国がすぐにアメリカを追い越すと主張している。また、アメリカは政治の停滞、長期にわたる財政赤字、インフラの崩壊によって、戦後果たしてきたような役割を果たすことはできなくなるであろうとも述べている。

 私たちは、こうした懸念を真剣に受け止めねばならないし、過去に衰退を主張した人々の主張が間違っていたからという理由だけで、アメリカの優越性が維持されるなどと思い上がってもいけない。アメリカの指導者層は、アメリカが偶然持ち得たような人々ではない。このような優秀な人材はこれからも生み出され続けなければならないのである。

ズビグニュー・ブレジンスキー

 それでは私たちはどのようにしてアメリカの力を数量化できるだろうか?元安全保障担当補佐官ズビグニュー・ブレジンスキー(Zbigniew Brzezinski 1928年〜)は最新作『戦略的ヴィジョン(Strategic Vision)』を、アメリカの戦略的なバランスシート(資産と負債)という観点で書いている。彼の提示した枠組みは、現在の私たちの状況を分析するのに役立つものである。我がアメリカは、無視できないほど大きい戦略的負債を抱えている。しかし、定期的に起きるアメリカ衰退論が見逃しているのは、アメリカの持つ資産がどれほど大きく、かつ持続可能なものであるのかという点だ。私たちは、どんな問題が起きようとも、それに対して自分たちの望む方法で対処ができる能力を持っている、このことをまず強調しておきたい。

 今日のグローバル化された世界において国の力を測定することは複雑な作業となる。ある国の強さと影響力は、鉄鋼生産量や将兵の数といった、昔使われた一つの側面による評価では測れなくなっている。アメリカの軍事力は巨大で、卓越したものである。しかし、国力は、経済の活発さ、技術革新の能力、活力がありかつ安定した政治力、そして、弾力性を持つ社会を通じて発揮されるのである。

 ある国の世界における地位を知るために、1つか2つの基準で強さを測っても正確なところはつかめない。そうしたことを知りたければ、その国が持つ強さの要素(資産)の蓄積と相互作用をよく知り、それを測定に使うことだ。我がアメリカの強さを構成する中核的な要素は5つ存在する。これから、それらを見ていく。

(つづく)