「243」 翻訳 「アメリカは世界ナンバーワンの国だし、これからもそれは続く」と主張する論稿をご紹介しますC 古村治彦(ふるむらはるひこ)記 2014年10月17日

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。今回は、皆様に、今回をもってウェブサイトの更新を(一時)停止することをお知らせ申し上げます。理由は、@私の本業である翻訳、執筆が忙しくなってきたこと、A主要な執筆者であった方々からの投稿がなく、掲載できる文章がないこと(その原因の一端が本ウェブサイト「ご挨拶」のページをお読みいただければお分かりいただけるかもしれません)、B今まで弥縫策として私の翻訳した文章を掲載してきたが、翻訳した文章をご紹介するだけでは本サイトの目的に沿わないと判断したこと、C資金援助なしで続けてきたが限界であること、が挙げられます。再開の時期は未定です。読者の皆様にはお詫び申し上げます。大変申し訳ございません。長らくのご愛顧に心から御礼を申し上げます。またお目にかかります。

古村治彦拝

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●諸問題と逆風

 アメリカの優位性を構成する目に見える、また目に見えない諸要素をこれまで見てきたが、ここから、アメリカの戦略的なバランスシートの負債の部を見ていく。負債にもまた5つの要素がある。

 アメリカの長期的な財政赤字をコントロールすることは重要である。現在のアメリカの財政状況は、アメリカ経済の基盤全版を傷つける危険を持つ。一般的には反対の印象をもたれるが、ここ数年、我が国の財政赤字は確実に減少している。第二次世界大戦が終結し、復員(demoblization)が始まって以来、減少のスピードは一番速くなっている。しかし、昨年と今年の2年間だけで、財政赤字は再び増加することになるだろう。それは、自動的に支払わねばならない義務的経費の支払いがあるからだ。その結果、アメリカ政府は、科学技術から防衛に至る様々な分野における将来に役立つ投資を行うだけの柔軟性と余裕を持つことができないであろう。

 我が国の財政赤字に対処するためにも、経済成長は、短期的及び長期的に見て、必要となってくる。ラリー・サマーズ(Larry Summers 1954年〜)元財務長官は年間経済成長率があと0.2%高くなれば、長期的な財政ギャップに対処できると推定している。

ラリー・サマーズ

 第二に、我が国のインフラは修理不可能な状態に陥っている。5年前、世界経済フォーラムは我が国のインフラを世界第9位に位置付けたが、現在は何と19位にまで短期間で急降下している。アメリカの公共建設事業に向けられる資金量のGDPに占める割合は、ここ20年で最低を記録している。我が国の負担過重の道路と橋梁は、環境的、政治的、経済的に持続不可能な状況を作り出している。

アメリカには、経済拡大と経済成長のためにインフラに投資するという長い歴史がある。絶対的な必要性、経済危機以降の高い失業率、そして政府にとって好ましい貸出利率が重なり、インフラ整備には絶好の環境が整っている。これ以上の良い時期はないであろう。

 第三に、私たちが技術革新の点で優位に立っているということを当然の事実だと考えることを止めるべきだ。中国と日本は一年ごとの特許取得数で、アメリカを凌駕している。中国は研究開発費の点でアメリカに迫りつつある。アメリカ政府は科学知識の発展に投資をし続けなければならないのはこうした理由があるからだ。

 同時に、私たちは移民制度の改善に失敗しているので、才能を持つ人々を巡る国際的な競争では、有利な立場にあったものが、それも失われつつある。アメリカの大学で科学、技術、工学、数学の分野で学士号以上の学位を取得した人々のうち、40%は外国人で、彼らは学校を卒業してしまうと、たとえそう望んだとしても、合法的にアメリカに留まることができない。アメリカの実業界の指導者たちは、現在の移民関連法では、海外から才能を持つ人々を雇用することが難しいので、会社を成長させるにも限界があると、機会があるごとに不満を表明してきている。アメリカ企業は既に海外から最高の知性と才能を持つ人々を惹きつけようと企業内のポリシーを変更している。しかし、これがアメリカ国民に懸念を持たせている。常識に沿った線での移民制度の改革を進めることで、21世紀のアメリカ経済のニーズを満たすことができるようになるのだ。

 移民制度と同じような問題がある。それは、我が国の初等、中等教育も多くの問題を抱えているというものだ。我が国の大学は世界で最高の水準にあるが、ピアソン社の教育インデックスでは、我が国の小中学校の水準は世界で14位に留まっている。この数字は全く持って受け入れがたい。アメリカ国民が将来仕事を得て、中間層の生活を維持できるようにするためには、教育の分野で世界をリードしなければならない。そして、教育改革は、乳幼児教育から大学に至るまで、全ての段階での強力な学校システムの構築から始めなければならない。

 こうした負債に対処するには時間が必要であるし、難しい選択もしなくてはならないだろう。その際に肝に銘じておかねばならない重大なポイントがある。それは、これらの諸問題は乗り越えられないということはない、ということだ。それぞれの問題にはきちんと目に見える政策的解決策が存在する。この解決策はアメリカだから実現可能なのだと言える。私たちが建国以来200年間やって来たように、それぞれの問題に取り組むのは、政治的意思の実現することということになる。

 経済危機の最悪の局面は脱した。また永続的に続いた戦争からも手を引きつつある。私たちは、アメリカの力と指導力がこれからも続くように、ここでより賢い選択と投資を行うべきなのだ。私たちは資産を築き上げ、負債に対処し続けなければならない。この意味するところは、経済成長を強化するために必要な方策を全て実行するということだ。その手段には、包括的な意味制度の改革、科学技術の分野への投資の増額、インフラ整備、我が国の民主政体の健全性を高めるための徹底的な政治改革が含まれる。これは常識に沿ったものであり、民主、共和両党は支持するべきである。

 私たちが私たちの国を新しくし続ける限り、私たちの根本的な強さは、私たちを前進させ続けるだろう。我が国の開かれた社会と民主的な諸機関の存在はアメリカを特別な国にしている。我が国の軍隊は世界で最強であり続ける。そして、アメリカは国際的な舞台で世界をリードし続けることだろう。我が国が持つ様々な分野の諸機関は、私たちの変化し続ける社会が必要とする公正で持続可能な成長を可能なものとしてくれる。我が国は歴史的には、競争相手である世界各国よりも若い国であり、我が国の経済はこれからも活発であり続けるだろう。

 私がホワイトハウスで働いていた時、ヘンリー・キッシンジャーと交わした会話を最近になって思い出す。私はキッシンジャーに、また新たに出てきたアメリカ衰退論に関してどのように考えるか、と質問した。私はキッシンジャーの答えをこれからも忘れることはないだろう。キッシンジャーは次のように答えた。「トム、アメリカ以外の国の大統領安全保障担当補佐官を務めたいという気になるかい?」。私の答えは明らかだ。「ノー」である。

(終わり)