「0018」 論文 わかるかわからないかは、結局言葉。―「言葉理解読書法」で、『恐慌前夜』を読む(2) 原岡弘行筆 2009年4月3日


3.「言葉理解読書法」で、『恐慌前夜』を読む


 ここからは、実際に、副島隆彦師の『恐慌前夜―アメリカと心中する日本経済』(2008年9月、祥伝社刊)を「言葉理解読書法」で読んでいきます。

『恐慌前夜―アメリカと心中する日本経済』


(1)セントラルワードをみつける

 「2.優れた本とは、言葉の定義がしっかりしている本」で、言葉を理解するときには、「一言でいうと?」「肝はなに?」という視点から考えていくと述べました。中心となる意味をおさえます。

 本のなかから、ぜひとも理解したい言葉を見つけるときも、「この本の中心となる言葉は何か」ということを考えます。中心となる言葉が理解できれば、その本は読めたといえるからです。人間でいうと、脳(Mind)か心臓(Heart)です。企業でいえば、本社です。

 筆者には、伝えたいメッセージがあります。どうしたら自分の考えが読者に伝わるだろうかと真剣に考え抜きます。そこで多くの場合、筆者は造語を作り、その言葉に一番に言いたいことを凝縮します。本(論文)の中心となる言葉ですので、「セントラルワード(Central Word)」と私は呼んでいます。

 このセントラルワードをみつけることが、読書をするときには大切です。いくら支社で交渉をしても、本社がOKを出さなければ決裂であるのと同じです。


(2)「ゲシュタポ・金融庁」

 それでは、『恐慌前夜』のセントラルワード(筆者が一番言いたいことが凝縮されている言葉)は何でしょうか。

 これは、Ratio(ラチオ、合理、2点間を直線で結ぶ)の思想ではありますが、効率よく、的確にセントラルワードをみつけるため、私は以下の分析をします。判定基準は、3つあります。

@登場する回数
Aカギ括弧、太字
B造語

 @登場する回数は、伝えたいものであればあるほど、通常は増えます。繰り返し述べることで、読者に気づいてもらおうとします。無意識のうちに回数は増えています。

 Aカギ括弧、太字は、ストレートな表現方法です。名文には登場しませんが、実用系の本にはよく登場します。「みんな、注目!!」という印(サイン)です。

 B造語は、先ほど述べましたが、筆者が自分で考えてつくったものです。造語があれば、ほぼ間違いなくセントラルワードだと判断できます。

 本を読む際は、この3つの基準で判定しながら、読み進めていきます。書き手も気づいてほしいですから、たいていは、タイトルやサブタイトルに入れたり、見出しにしたりしています。

 この基準で『恐慌前夜』を読むと、「ゲシュタポ・金融庁」がセントラルワードであると判断できます。その根拠は、以下の3つです。

 @「ゲシュタポ」が8回、「ゲシュタポ・金融庁」が3回と複数回登場しています。

 Aカギ括弧、太字にされています。

 B「ゲシュタポ」と「金融庁」という通常の人にとってはまったく違う世界の言葉を結合した、副島隆彦師の勇気によって生まれた造語です。


(3)セントラルワード「ゲシュタポ・金融庁」を抜き出す

 それでは、実際にセントラルワードである「ゲシュタポ・金融庁」を『恐慌前夜』から抜き出していきます。長くなりますが、初回ということもあり丁寧に分析していきたいので、この本に登場する箇所は段落ごと、すべて抽出します。

 「ゲシュタポ」と「ゲシュタポ・金融庁」の2語は、見やすいよう私がイタリック体にしました。ご了承ください。

(引用はじめ)

1章 アメリカと心中する日本経済

・「暗黒の木曜日」は、どのように訪れたのか

 農林中金(5.5兆円)、三菱UFJ(3.3兆円)、ニッセイ(2.6兆円)の幹部たちは、前述した米住宅公社に融資した金(購入した債券の残高)が安全に返ってくると思っているのか。正直に日本国民に説明すべきだ。あるいはこのように書く私を、ホリエモン(堀江貴文)に対してやったのと同じように、「風説の流布の罪」(金融商品取引法158条)で逮捕するだろうか。ゲシュタポ(リツァイ)である金融庁が、まさか銀行業とは何の縁もない個人の私ごときを相手にするはずもない。(31ページ)

・取りつけ騒ぎは対岸の火事ではない。日本でも起きる

 どうせ取りつけ騒ぎは、そのうち日本でも起きるのである。欧米で起きたことは日本でも起きるのだ。どうしてそういうことさえ分からないのだろう。何が何でも分かりたくないと言うことか。その日のために、10年前(1998年)から着々とゲシュタポ・金融庁が日本に作られたのである。(42ページ)

3章 「格付け」と「会計基準」の虚妄

・強引に押しつけられた会計基準

 日本における時価会計は、2001年3月期から「企業会計原則(という法律)」の改正によって実施された。この時価会計の適用と、銀行の自己資本比率についてのBIS(ビーアイエス)基準が、アメリカの意志で強引に導入されたのである。

 日本国内でも、それらの制度のあまりにもの理不尽さに対して、各業界から時価会計とBIS基準導入への抵抗があった。だから正式導入まで約10年かかったのである。日本公認会計士協会がアメリカに実質的に乗っ取られることで強引に推進されたのだ。会長に奥山章雄(おくやまあきお)氏が就任し、アメリカの意志が“手先代表”の竹中平蔵大臣と直結することで、事態は2001年から加速度的に進行した。

 竹中金融相は、銀行の融資先の貸し倒れ債権リスク評価を厳格に査定するようにと、ゲシュタポ・金融庁にハッパをかけた。竹中大臣と、その補佐官であった高橋洋一氏(彼が「日本金融破綻」の実質的な現場司令官であったようだ。彼の『さらば財務省!』[2008年3月、講談社刊]を細かく読むと、如実にいろいろの真実が分かる)がやった。(120ページ)

5章 恐るべき統制経済―ネオ・コーポラティズムとは何か

・これから金融庁が日本国民を統制する

 1929年の大恐慌(ザ・グレイト・ディプレッション)の事態を10倍する巨大な金融恐慌が世界を覆うのに、まるで何も起きていないかのようなふりをする。再度書くが、そのためにアメリカが10年前から日本に強制して金融庁というおかしな役所をつくったのである。現代のゲシュタポである。ゲハイム・シュタートポリツァイ(Geheime Staatspolizei ドイツナチス政権の時の国家秘密警察)である。

 ゲシュタポは多くのフランス人愛国者を殺戮した。反ナチス抵抗運動(レジスタンス)をするフランスの人々を捕まえては拷問にかけて殺した残忍な組織である。まさしく金融庁はアメリカのグローバリストたちが大恐慌突入を見越して着々と飼育して育てた現代の特高(とっこう)警察である。この恐るべき真実を私たちは片時もおろそかにしてはなるまい。

 なぜ金融の検査機関である金融庁が、政治警察(思想警察、ソート・ポリス)なのかと不思議に思う人もいるだろう。だが現在では政治思想の弾圧などというものは、表面上はあり得ないことに世界基準でなっている。だからこそ、お金の取り扱いという私たちの生活にきわめて重要な場面で、国民の自由を奪い取る。そのための実質的な弾圧機関として金融庁が存在するのである。

 日本には財務省(旧大蔵省)があるのに、ここから金融検査部門を奪い取り、財務省をすっかり訳の分からない弱小官庁にしてしまった。日銀にも考査局というきちんとした検査部署があった。今の財務省は全国税務署の親分に成り下がりつつある。財務省は総務省(戦前の内務省。“国家の神経”と言われた。敗戦時に解体されて自治省、厚生省、消防庁などになった)との権限争いをしているだけの、頓馬(とんま)な官庁になりつつある。予算編成権などでも実権を奪われ始めていて、正体不明の弱小官庁になりつつある。それにひきかえ金融庁が、国民生活のすべてのお金の動きに監視の目を光らせる怖ろしい政治警察であることが徐々に判明しつつある。(193−194ページ)

・「よりよい規制」とは何ごとか

 2006年6月に成立した改正金融商品取引法(通称「金商(きんしょう)法)」。従来の証券取引業法などがひとまとめにされた。その後も改正が続き、最終改正は2008年6月)では、民間企業の集まりである金融業界へ金融庁による規制強化が一段とひどくなっている。「ベター・レギュレーション」やら、「14個のプリンシプル」なる、いかにもアメリカ(の財務省や商務省)の日本操(あやつ)り対策班が作ったコトバが並んでいる。規制撤廃のはずだったのだが、今は「寄りよい規制」とか、「個別の法律の根拠なしで(正直な態度で、役人の自主的判断で、すなわち官僚の自由な裁量で)どんどん金融業界に規制と統制を加えることができる」という法律になっている。今や恐るべきゲシュタポ集団である。金融庁は各業種の金融法人に対してだけでなく、私たち国民にも牙(きば)をむいて、「お金についての生活統制」を今後仕掛けてくるだろう。

 金融庁の定員は、10年前の発足当時の3倍に増えて1300人になっている。アメリカのSEC(証券取引委員会)が真の親分であり育ての親だ。他の官庁は行政改革の方針に従い定員が減らされているのに、金融庁と検察庁だけは“危険な時代”を先取りするように増員が続いている。

 ここで働いている連中は、前の大蔵官僚のような人たちではない。公認会計士をやっていて民間企業で働いていたり、検察官上がりのような人たち、あるいは日本の民間の銀行や保険会社にいたような会計実務のプロだった人々が、個別にリクルートされて雇われている。アメリカのCIAのような国家機関である。金融機関や国家の帳簿を細かく見て、いちゃもんやケチをつけることを無上の喜びとするサディストの体質をした人間たちの集まりだ。(195−196ページ)

・私たちは見張られている

 金融庁(現在の長官は佐藤隆文(さとうたかふみ)。前は五味廣文(ごみひろふみ))は、2005年4月から始まった「ペイオフの解禁・実施」(倒産銀行の預金の1000万円以上は国は返済保証しないという制度)」に合わせて「名寄(なよ)せの整備」(国民一人ひとりの資産を捕捉・監視する行動)を公言してきた。

 国民とくに資産家、経営者層の個人金融資産を、すべて一元的にコンピュータで管理して把握(捕捉)するのが、監督庁として当然の行為だ、という感覚である。住民基本台帳ネットワーク法と、それを補完するために作られた個人情報保護法(という名の、本当は個人情報国家管理法)を作って、これで銀行の預金口座の名寄せ(資産捕捉)を徹底しようとしているのである。

 このゲシュタポ・金融庁の動きに対して、私たち国民は、日本国憲法の定める国民の諸自由(諸人権)の規定で、今からもっともっと闘わなければならない。大恐慌突入とともに私たちに襲いかかってこようとしている、アメリカの手先の金融庁という名の特高(とっこう)警察を、解体・消滅させなければならない。

 “Big brother is watching.”「ビッグ・ブラザー・イズ・ウォッチング」という重要な英文がある。これは「あなたたち国民の支配者が、いつでもあなたたちの行動を監視しているからありがたく思え」という、ぞっとするような光景を表しているコトバである。

 このコトバは、イギリスの社会主義者で優れた思想家であるジョージ・オーウェルがその著作『1984年』という人類の未来社会を警告した小説で使った。

 私たちは、これからは駅や街路で24時間、監視カメラで見張られ、銀行のATMでお金を引き出したりしたら、すべて映像記録をとられるという怖ろしい官僚制監視社会(警察国家、ポリス・ステイト)で生きることを強制されようとしているのである。私たちは何としても、この邪悪なる動きを阻止しなければならない。国民の自由の諸権利が奪われるようなら、それこそ元も子もないのである。(197−198ページ)

・「タンス株」が召し上げられる

 このような見えすいた国民騙しの手口は、いかにも金融庁が現代のゲシュタポであることを表している。(203ページ)

(引用終わり)

 長くなりましたが、実際に読書をしているときには、これだけの情報を処理しています。慣れている人を除けば、副島本のような高級な思想用語を扱っている本を読むときには、ただ前から読むだけでは理解ができないと思います。私も最初は読めませんでした。そこで、「言葉理解読書法」という言葉を分析して、理解していく読書法を考えつきました。

 

(4)セントラルワード「ゲシュタポ・金融庁」に情報を凝縮していく

 さてここから、セントラルワード「ゲシュタポ・金融庁」に先ほど引用した文章に含まれている情報を凝縮していきます。段階を踏んで、情報を集めていきます。最終的には、1つになります。

  

ゲシュタポ        金融庁

 まずは、22個に整理します。以下に示します。

→ゲシュタポ・金融庁

1.(リツァイ(ゲシュタポのこと)、金融庁。ホリエモンとは違って、まさか銀行業とは何の縁もない個人の副島隆彦を相手にするはずもない)

2.(やがて日本でも起きる取りつけ騒ぎを見越して、10年前(1998年)から着々と日本に作られた)

3.(アメリカの手先、竹中平蔵金融相が、時価会計とBIS基準を強引に導入せ、銀行の融資先の貸し倒れ債権リスク評価を厳格に査定するようにと、金融庁にハッパをかけた)

4.(やがて1929年の大恐慌(ザ・グレイト・ディプレッション)の事態を10倍する巨大な金融恐慌が世界を覆うため、アメリカが10年前から日本に強制して作らせた)

5.(ゲハイム・シュタートポリツァイ、Geheime Staatspolizei、ドイツナチス政権の時の国家秘密警察)

6.(多くのフランス人愛国者を殺戮した、反ナチス抵抗運動(レジスタンス)をするフランスの人々を捕まえては、拷問にかけて殺した残忍な組織)

7.(アメリカのグローバリストたちが大恐慌突入を見越して、着々と飼育して育てた現代の特高(とっこう)警察)

8.(金融の検査機関ではあるが、実質政治警察(思想警察、ソート・ポリス))

9.(現在では政治思想の弾圧は、表面上はあり得ないことに世界基準でなっいるため、お金の取り扱いという私たちの生活にきわめて重要な場面で、国民の自由を奪い取る実質的な弾圧機関)

10.(財務省(旧大蔵省)から金融検査部門を奪い取り、すっかり訳の分からない弱小官庁にしてしまった)

11.(国民生活のすべてのお金の動きに監視の目を光らせる怖ろしい政治警察)

12.(各業種の金融法人に対してだけでなく、私たち国民にも牙(きば)をむいて、「お金についての生活統制」を今後仕掛けてくる)

13.(他の官庁が行政改革の方針に従い定員が減らされているなか、“危険な時代”を先取りして、10年前の発足当時に比べて3倍の1300人に定員が増やされている)

14.(アメリカのSEC(証券取引委員会)が真の親分であり育ての親)

15.(アメリカのCIAのような国家機関。金融機関や国家の帳簿を細かく見て、いちゃもんやケチをつけることを無上の喜びとするサディストの体質をした人間たちの集まり)

16. (名寄(なよ)せの整備」(国民一人ひとりの資産を捕捉・監視する行動)を公言して きた。国民とくに資産家、経営者層の個人金融資産を、すべて一元的にコンピュータで管理して把握(捕捉)するのが、監督庁として当然の行為だ、という感覚。住民基本台帳ネットワーク法と、それを補完するために作られた個人情報保護法(という名の、本当は個人情報国家管理法)を作って、これで銀行の預金口座の名寄せ(資産捕捉)を徹底しようとしている)

17.(こいつらの動きに対して、私たち国民は、日本国憲法の定める国民の諸自由(諸人権)の規定で、今からもっともっと闘わなければならない)

18.(大恐慌突入とともに私たちに襲いかかってこようとしている、アメリカの手先の金融庁という名の特高(とっこう)警察を、解体・消滅させなければならない)

19. (“Big brother is watching.”「あなたたち国民の支配者が、いつでもあなたたちの行動を監視しているからありがたく思え」)

20.(ジョージ・オーウェルが著作『1984年』で警告した人類の未来社会が現実化した組織)

21.(私たち日本国民を、官僚制監視社会(警察国家、ポリス・ステイト)で生きることを強制しようとしている邪悪な組織)

22. (見えすいた国民騙しの手口を使う)

 

(つづく)