「0022」 翻訳 オバマはポピュリストだ― オバマに大悪人のレイべリグ(labeling、レッテル貼り)をする謀略言論 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2009年4月7日
「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。本日は、オバマ大統領に対するネガティブキャンペーンの論文をご紹介します。オバマ大統領をニューディール政策で有名な、フランクリン・ルーズベルト大統領と比べる報道や記事は、大統領選挙党戦後、多くなされました。しかし、今回の論文は、オバマ大統領の経済政策は、アメリカのポピュリズム政治家であった、ヒューイ・ロングに似ている、と断じています。
バラク・オバマ ヒューイ・ロング F・D・ルーズベルト
まず、ポピュリズムとヒューイ・ロングについて、しっかり理解したいと思います。副島隆彦著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社、1999年)と、副島隆彦著『ハリウッド映画で読む世界覇権国アメリカ(下)』(講談社、2004年)から重要な部分を引用します。(なお、副島隆彦先生の著作は、ウェブサイト「副島隆彦の学問道場」でお求めいただけます。よろしくお願いいたします。アドレスは以下の通りです。http://soejima.to/cgi-bin/hi-mail/4books.html)
(引用はじめ)
アメリカでは、代議制・議会制を基本とする民主政体に対して民衆が不満と不信感にかられたとき、激しい直接行動に打って出ようという雰囲気になることがあるが、これを“ポピュリズム”Populism(民衆主義)の伝統と呼ぶ。特権化した議員たちに対する不信感を露(あらわ)にして、自分たちの代表を直接中央政界に送ろうとする。右左いろいろな型のポピュリズムがあるとされるが、主に保守的な白人中産階級の庶民たちによる反議会の民衆運動であることが多い。
これが吹き荒れることを、議会政治家やメディア言論人たちはたいへん憂慮する。そこには一種のアナーキーanarchy、すなわち「無秩序=秩序破壊」的なムードが大きく漂い、民主政体democracyそのものの危機だと感じられる。(『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』、129−130ページ)
この映画(「オール・ザ・キングスメン」のこと:筆者註)の主人公ウィリー・スターク(ブロデリック・クロフォード)のモデルとなったヒューイ・ロングHuey Longという人物は、アメリカ政治史上の中で極めて重要な危険人物とされる。ヒューイ・ロングは、ルイジアナ州知事を務めたあと、州選出の上院議員となって連邦ワシントンの政界に乗り込んでいった。そして、当時のフランクリン・ローズヴェルト大統領時代のアメリカ政界を牛耳る大金持ちや財界人を、激しく攻撃し口汚く罵った。ヒューイ・ロングは、大衆の圧倒的な支持を得て大統領をめざしたが、暗殺されてしまった。彼は現在でもアメリカの言論界やメディア界では大悪人扱いされて、「アメリカのファシスト」と呼ばれている。(『ハリウッド映画で読む世界覇権国アメリカ(下)』、101−102ページ)
(引用終わり)
古村治彦です。
ポピュリズムは、人々の間からワシントンの政治家たちやエリートたちに対する怒りから自然発生するものであることが分かります。そして、ポピュリズムは、エリートたちにとって、最大に憂慮すべきもので、ポピュリズムの流れを率いる政治家は、彼らの敵として、抹殺の対象となります。ヒューイ・ロングがまさにそうでした。
下に紹介する論文の著者、マイケル・G・フランクは、オバマ大統領をヒューイ・ロングに似た人物である、と主張しています。これは決して褒めているのではありません。既得権を持っているエリートたちや議会政治家たちにとって、オバマ大統領は、危険だと言っているのです。なにしろ、「アメリカのファシスト」ヒューイ・ロングにそっくりだ、と言っているのですから。フランクは、「ロングの過激な所得再分配政策を、オバマも踏襲しようとしている」と述べています。
しかし、論文を読み、論文の筆者フランクがオバマとロングを比べている部分は、恣意的な引用であり、情報操作、レイべリング(レッテル貼り)を目的としているとしか思えません。オバマは、「行きすぎ」を是正しよう、と主張しているだけなのです。アメリカのエリートたちは、オバマを恐れているのです。そして、彼らは、「オバマは、暗殺されても仕方ない。アメリカのファシストの再来だから」とまで考えているのでしょう。
この論文が掲載されたのは、アメリカの政治雑誌「ナショナル・レビュー」誌のウェブサイトです。この雑誌はアメリカの保守本流を代表する雑誌ですが、「リバータリアン派とは対立。シカゴ学派の古典保守派(レオ・シュトラウスら)やバージニア学派の土着保守派(フィジオクラット)とも仲がよくない」(『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』、409ページ)とされています。こうした媒体に、謀略的な、恣意的な論文が掲載される訳です。
それでは以下の拙訳をお読みください。
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National Review
「ナショナル・レビュー」誌
April 02, 2009
Obama, the Other Huey Long
「オバマ、ヒューイ・ロングの再来」
The president is more like the Depression era’s populist Louisiana governor than like FDR.
「オバマ大統領は、フランクリン・ルーズベルト大統領よりも、大恐慌時代のポピュリスト、ヒューイ・ロングに似ている」
By Michael G. Franc
マイケル・G・フランク
「オバマはFDR(フランクリン・D・ルーズベルト)の再来」という決まり文句は、大統領選挙後によく口にされた。経済誌「ジ・エコノミスト」誌2008年11月20日号の記事では、オバマとルーズベルトの比較をしている。以下に引用する。
(引用はじめ)
ワシントンは、現在、フランクリン・デラノ・ルーズベルトの話題でもちきりである。オバマ氏の側近たちは、ルーズベルト大統領の最初の100日間の動きについて研究している。ルーズベルトのことを話さないと政治に関する会話にならないかのような様相だ。タイム誌も、ニューヨーカー誌も、オバマ氏をルーズベルトに見立てた絵を掲載している。それらの中で、オバマ氏は、ルーズベルトのように、煙草をくわえ、オープンカーに乗っている。オバマ氏は、恐れるものが何もないという状況だが、これが怖いことでもある。
(引用終わり)
オバマ大統領の最初の100日間で、多くの法律が成立した。金融分野に連邦政府が介入するための法律、そして、莫大な政府支出に関する法律などが成立した。こうした動きは、ルーズベルトのニューディール政策に比肩するものだ。
しかし、ある政策分野に関して言えば、オバマは、ルーズベルトではなく、大恐慌時代のカリスマ的な政治指導者に似ているのだ。オバマは、「「金持ちたち」の富を、多くの人々に分け与え、所得をできるだけ平等に再分配する」という政策を公約として掲げている。この点で、オバマ大統領は、ルイジアナが生んだ、ポピュリスト、ヒューイ・ロングに似ているのだ。
ロングは、1928年にルイジアナ州知事となり、1932年には連邦上院議員となった。彼は、ルーズベルトのニューディール政策に対して、急進的ポピュリストの立場から対抗した。ロングの提唱した「富を分け合おう」(Share the Wealth)プログラムは、「金持ち層から財産を奪い、高い税率を彼らに課す。そして、その戦利品を一般の人々に分け与える」といものだった。ロングの提唱によって、アメリカ中に、多くの「富を分け合おうクラブ」が設立された。
大恐慌時代に、ロングが現状維持派(体制派)に対して行った批判は、オバマの言っている内容とよく似ている。ロングは「アメリカの金持ち2パーセントが国全体の富の60パーセントを握っている」と主張した。ロングはまた、「金持ちの富はますます増える一方だ。だから、金持ちの富を守るよりも、それらを貧乏人に分け与え、使わせた方が、経済を刺激するのだ」とも主張した。オバマの主張とそっくりではないか?
ロングの「富を分け合おう」プログラムは、3つの大きな目標を掲げていた。ロングの演説の中から引用しよう。
(引用はじめ)
第一に、私たちは、アメリカの全世帯が、財産の3分の1を下回らない価値の家を持つようにする、ということを提案する。アメリカの平均世帯の財産は16,000ドルである。従って、私たちは、アメリカの全世帯が、価値にして、5,000ドル以上の、快適な家を持つようにする、と提案するものである。
第二に、私たちは、アメリカの全世帯の中で、平均世帯の財産の300倍を超える資産を持つ家庭をなくす、ということを提案したい。簡単言うと、500万ドル以上の資産を持つ世帯をなくすということだ。5,000ドル以下の財産しかない世帯も、500万ドル以上の資産を持つ世帯も、アメリカからなくすということだ。
第三に、私たちは、年収2,000ドルから2,500ドルに届かない世帯をなくすことを提案する。そして、平均年収の300倍以上の年収を得る世帯もなくすことも併せて提案したい。100万ドルがその上限となる。
(引用終わり)
ロングは、財産を奪い取ってやろうと狙っていた財閥のモルガン、メロン、ロックフェラーなどの名前を出し、統計的な数字を使った。それによって、支持者の気持ちに火をつけたのである。彼の演説から引用する。
(引用はじめ)
1930年、ウォールストリートで働く540人が総計で、1億ドルの金を儲けた。この額は、小麦、綿花、サトウキビを生産している農家全部の収入の合計よりも多い。この国には何百万人もの、いや何千万人もの百姓がいる。その全ての収入の総計よりも、たった540人が儲けた金の方が多いのだ。彼らは1億ドルも儲けた。俺たちはどうしていつも腹を空かせたままでいなくてはいけないんだ?
(引用終わり)
オバマは、ロングほどには所得の再分配者として野心的に行動しようとはしていない。しかし、何もしていない訳ではない。オバマ大統領の経済チームは、「金持ち課税」計画(年収25万ドル以上の人々に高い税率を課し、相続税の税率を引き上げる)によって、今年からの10年間で6,367億ドル(約60兆円、年にならすと約6兆円)の増収を見込んでいる。オバマ大統領は、中産階級の人々や低所得者たちへの税金の控除、中産階級への、健康保険、住宅、その他の補助金制度の充実も併せて掲げている。これらのことから、オバマ大統領の作成する予算は、ニューディール後の、アメリカの歴史の中で、最も、平等な富の再分配をするものとなる。
オバマ大統領は予算や税金について、常々語っているが、その語り口は、ロングによく似ている。オバマ大統領は、金持ちに税金をかけることで、経済を刺激しようか、高所得者たちをもっと働かせよう、とは言っていない。オバマ大統領は、「金持ちたちは豊かになり過ぎているので、政府がそれを是正するのだ」と言っている。オバマは、金持ちの税率を上げることが、どうして「富の偏在を是正する」方法になるのかについて説明している。オバマの説明を聞いたら、ロングはニヤリとすることだろう。オバマの演説から引用する。
(引用はじめ)
この30年間に、景気が良い時期が数年間あった。その時期、富裕層は、とてつもない富を蓄えた。ブッシュ政権下、徴税制度を利用して収入格差を縮小させようとするのではなく、徴税制度自体を変更させてきた。その結果、収入格差はどんどん広がった。
アメリカ国税庁の調査によると、アメリカの高額納税者400人は、2006年に、平均して2億6,300万ドル(約263億円)の収入があった。しかし、彼らの所得税の税率は、1981年に調査が始まって以来、最低であった。恒常ドル(GNP などの時系列比較においてインフレの影響を除いたドル数値)で考えると、高額所得者400人の平均収入は、1992年から、4倍になったが、税率は下がる一方だった。
富が富裕層に集中するのは、別に驚くに当たらない。2004年までに、アメリカ国民の10パーセントに当たる富裕層が、70パーセントの富を握るようになってしまっている。アメリカ国民の上位1パーセントの総資産は、下から90パーセントの総資産を上回っているのだ。上位1パーセントの人々は、アメリカの富の22パーセントを奪っている。この数字は、1980年の時点では、10パーセントであった。それだけ富の集中が進んでいるのだ。ある人の健康状態と収入には直接関係性がある(収入が高ければ健康状態も良好)ことはいくつかの研究で明らかになっているように、収入格差の増大もはっきりとした事実なのである。
(引用終わり)
ロングは、「アメリカの上位2パーセントが全体の富の60パーセントを支配している」と述べたが、オバマは、「上位10パーセントが全体の富の70パーセントを支配している」と述べている。オバマの言葉づかいを見ていこう。オバマは、金持ちたちは、お金を「稼いでいる」とは言っていない。金持ちたちは、富を「奪っている」という言葉づかいをしている。そして、「徴税制度を利用して収入格差を縮小させる」という言葉づかいをしている。
2009年3月22日に放映されたCBSの番組「60ミニッツ」の中で、オバマ大統領は、収入格差について次のように述べている。以下に引用する。
(引用はじめ)
ほんの20年前、25年前、金融産業はどのように運営されていたかを思い出してみてください。現在、投資銀行で働けば、教師の20倍の給料をもらえます。200倍は稼げませんけどね。
ノースダコタ州、アイオワ州、アーカンソー州では、年収で、7万5,000ドル稼ぐのは大変なことです。人々が金融産業に対して怒りを感じているのはよく理解できますね。
(引用終わり)
このロングのような言葉づかいは、議論のための道具にすぎないのかもしれない。しかし、政府の役人が企業のCEOを追放するような時代では、オバマは本気かもしれない、と心配になる。
ワシントンにいるリベラル派の人々は、高所得者たちに対する税率が引き上げられていることに満足しているように見える。しかし、ロバート・ライシュ元労働長官のような左派の人々は、「富裕税を課すべきだ。富裕税とは、税金を徴収した後、金持ちたちからまた別に税金を取り立てるものだ」という考えを持つようになっている。アメリカ政府は、何兆ドルもの財政赤字を抱えている。その解消のために、ライシュのバカげた考えが、実際の政策となってしまうこともある、ということを考えておかねばならない。
マイケル・G・フランク:ヘリテイジ財団政府関係担当副会長
(終わり)