「0035」 翻訳 トーマス・ウッズ著『メルトダウン』の書評のご紹介 古村治彦(ふるむらはるひこ)訳 2009年6月2日
ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。最近、論文の更新が滞りがちとなり、反省しております。今後はできるだけ定期的に、きちんと論文を掲載していけるように努力してまいります。一層のご支援をよろしくお願いいたします。
さて、今回は、私が翻訳に関わりました書籍の、アメリカでの書評を2つご紹介したいと思います。私が翻訳に関わりましたのは、Meltidown: A Free-Market Look at Why the Stock Market Collapsed, the Economy Tanked, and Government Bailouts Will Make Things Worse by Thomas E. Woods Jr. (Washington, D.C.: Regnery Publishing, Inc. 2009) です。本の内容は、一言で言うと、「2008年からの経済危機は、アメリカの連邦政府、特に連邦準備制度の政策によって引き起こされた」というものです。
発売日は未定ですが、近日中です。発売日などが決定されましたら、本ウェブサイトの兄弟サイトである「副島隆彦の学問道場」でも宣伝、販売をしていただけると思います。両サイトをよろしくお願いいたします。※2009年7月31日に、『メルトダウン 金融溶解』(トーマス・ウッズ著、副島隆彦監修・監訳、古村治彦訳、ロン・ポール序文、成甲書房)として発売されました。(2009年8月24日加筆)
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それでは、書評をお読みください。
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Politicker NJ
2009年2月23日
『金融溶解』:問題は連邦準備制度だよ、アホ(Meltdown: It’s the Federal Reserve System, stupid)
マーレー・サブリン
株式市場は記録的な下落を記録している。大銀行は合従連衡を繰り返している。住宅市場は縮小を続けている。差し押さえ数、個人破産、倒産は急増している。実質失業率は二桁を推移している。本年度の連邦政府予算の赤字は2兆ドル(約200兆円)となり、連邦準備制度(Federal Reserve System、フェデラル・リザーブ・システム)は通貨供給量をこれまでにないペースで増やしている。経済を「刺激」するために、連邦政府の支出は急上昇している。簡単に言おう。経済は大変な状況となっている。
左翼や大きな政府を支持する人々は、口を揃えて「強欲(greed、グリード)」、「規制緩和(deregulation、ディレギュレーション)」、「資本主義(capitalism、キャピタリズム)」が金融溶解(financial meltdown、ファイナンシャル・メルトダウン)と現在の経済不況の原因だと主張している。それは違う。ここでトーマス・E・ウッズ・ジュニア著『金融溶解(メルトダウン)』を紹介したい。
著者のウッズ博士は、歴史学で博士号を取得している。また、数多くの著作を出版している。ウッズは、次のように主張する「有識者」たちのひとりである。「現在の経済、そして政治のメルトダウン(meltdown on both Wall Street and Main Street)は市場に対する政府の介入が原因だ。連邦準備制度の決定によって通貨供給量は増大し、ファニーメイとフレディマックによって住宅バブルは進行した。両公社は政府が創設したものだ」
1990年代の通貨供給量増加政策が実行された後、ITバブルは崩壊した。それは10年前の出来事だった。連邦準備制度理事会議長のアラン・グリーンスパンは、経済を「刺激する」ために、2001年に通貨供給量を増やした。これはジョージ・W・ブッシュ大統領の称賛を受けた。2001年9月11日の同時多発テロ以降、連邦準備制度は、経済不況に陥らないようにするため積極的に活動した。2004年まで金利を人為的に低く保ち、FF政策金利を2003年6月から2004年6月まで、1パーセントに据え置いた。このFF政策金利は、連邦準備制度が直接コントロールできる分野である。こうした政策によって、銀行システムには、過度の流動化が発生し、通貨が溢れた。
連邦準備制度が通貨供給量を増加させたことで、住宅市場でバブルが発生した。ファニーメイとフレディマックは、今まで蚊帳の外に置かれた低所得の家族も住宅が持てるようにした。また、中・高所得者たちも、住宅バブルに巻き込まれた。彼らもまた住宅を購入し、「抜き差しならない」状況に追い込まれた。
ウッズは、ファニーメイとフレディマックが住宅バブルで果たした役割を要約している。それによると、両公社は、アメリカ経済において最も政治的な機関として創設され、活動し、住宅市場の崩壊を招いた一番の原因である(『金融溶解』13−17ページ)。また、地域再投資法(Community Reinvestment Act)と人種差別是正措置(affirmative action)によって、購入できるはずのない住宅を人々に買わせてしまった。これも現在の経済危機につながった。(『金融溶解』17−21ページ)
本書『金融溶解(メルトダウン)』は7章から構成され、それぞれの章には脚注が多くつけられている。ウッズ博士は読者とともにアメリカ経済の歴史を巡る旅をしている、『金融溶解(メルトダウン)』はそんな本である。ウッズ博士は、19世紀に起きた通貨と銀行に関する議論や論争から大恐慌についての神話まで、多岐にわたるテーマを扱っている。ウッズ博士は特にハーバード・フーバー大統領に関する神話を取り上げている。
その神話とは次のようなものだ。「フーバー大統領の自由放任主義的(laissez-faire)な政策によって大恐慌は長期化し、フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領が大恐慌からアメリカを救った。ルーズベルトは公共事業、赤字財政、通貨供給量の増加を行った」
ウッズ博士は、「宮廷歴史家たち」(court historians)によっていかに歴史が歪曲されていることを明らかにしている。「宮廷歴史家たち」は、人気テレビ討論番組の「ミート・ザ・プレス」や「ハードボール」などに出演し、自分たちの知識をひけらかしている。多くの研究で明らかにされているように、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が大恐慌からアメリカを救ったというのは事実ではない。しかし、歴史家と政治家の多くは、この主張を繰り返しており、ルーズベルトの「強いリーダーシップ」を称賛し、フーバー大統領を「何もしなかった、無策の政権」と非難している。実際には、ハーバート・フーバー大統領が「公共事業を始め、税率を引き上げ、潰れかけの企業に緊急融資を行い、国際貿易を縮小させ、各州にお金を貸し出し、救済プログラムを実行させた」のだ(『金融溶解』99ページ)。
言い換えるなら、フーバー大統領は、政府介入主義者だったのである。彼は、自由放任主義政策は、過去の遺物だと切り捨てた。フーバー大統領は、アメリカの歴代の大統領の中で、最悪の部類に入れられる存在だ。しかし、それは、彼が、自由な企業活動を強く主張し、大恐慌からの脱出に向けて「何もしなかった」からではない。彼が最悪な大統領のひとりなのは、国家主義者で、大きな政府の推進者であったからだ。1932年のアメリカ大統領選挙で、ルーズベルト大統領の副大統領候補であったジョン・ナンス・ガイマーは、「フーバーはアメリカを社会主義国にしようとしている」と断定し、非難した(『金融溶解』99ページ)。現在の政治状況なら、ガイマーの断定は、「ネガティヴ・キャンペーン」と呼ばれているところだ。
ウッズ博士は、1930年代の大恐慌が発生する以前の、経済不況のほとんどは政府の援助策なしに終息した、と述べている。大恐慌以前の経済不況は、持続不可能なバブル景気の流動化が進み、「自然な」成長が行われるようになることで、終息した。1914年に連邦準備制度が創設される以前、人為的なバブル景気は、連邦政府の援助を受けながら銀行が通貨と貸し出しを増加させることで発生した(『金融溶解』88−94ページ)。
ウッズは1920年から1921年にかけて発生した恐慌を取り上げている。この恐慌は1914年に連邦準備制度が創設されて数年経って発生した。連邦準備制度は、恐慌が起きないように、もしくは起きてもその程度が軽くなるようにするために創設された。1920年から1921年にかけて起きた恐慌は、すぐに終わった。それは、政府によって経済が「刺激」されたためでも、また連邦準備制度が金利を操作し、支出と投資を促進したためでもない。
ウィルソン大統領が連邦準備制度創設の法案に署名をして約100年経った。ある仮説が提示され、その正しさを証明するために実験が行われ、その実験の結果が生み出される。銀行が預金の大部分を貸し出しに回す、不完全な準備銀行制度と紙幣システムがバブル発生とその崩壊のサイクルを創り出した。更には、政府の介入策である、支出、課税、借り受け、そして不必要な規制によって、人々は自分たちが最も価値があると考える目標を達成できないようになってしまっている。簡単に言うと、現在の経済危機は、国家中心主義(statism)によって発生したのだ。この国家中心主義と、自由放任主義経済とは全く真逆である。この国家中心主義による、連邦政府による過度の介入策によって、経済が狂ってしまったのだ。
アメリカの政治や経済のエリートたち、そして馬鹿学者たちの大部分は、国家中心主義を熱烈に支持している。国家中心主義と言う考え方とそれを基にした試みは、失敗に終わった。ソビエト連邦、ナチスドイツ、共産中国、カストロの支配するキューバ、そして北朝鮮を見れば分かる。世界中に多く存在している、民主的で「資本主義的」な国家の経済もまた失敗している。それは、これらの国々の経済体制が国家中心主義の「やわらかい」ものであるからだ。そして、それらの経済体制が、中央銀行、紙幣、準備銀行制度を内包しているからでもある。
アメリカでは、グリーンスパンによる低金利による資金の貸し出し緩和策が終わり、ブッシュ大統領による赤字財政も終わった。それらに代わり、ベン・バーナンキによる更なる低金利による貸し出し緩和と、オバマ大統領による、更なる赤字財政と政府支出による経済刺激策が実行されている。21世紀のニューディール政策は、1930年代のフーバーとルーズベルト時代の元祖ニューディール政策と同じように失敗に終わるだろう。
アメリカは国家中心主義から脱却しなければならない。そして、自由市場経済体制、制限された政府、完全な準備銀行制度、政府による救済策の不実施、物品貨幣(金貨と銀貨)など、昔のアメリカで行われていた諸政策に戻らねばならない。これらの政策を実行することで、アメリカは持続可能な繁栄を達成することができる。政治や経済に携わるエリートたちが、政府の介入が最高の政策だと考え、現在のような貸し出し緩和策と巨額の政府を支出を続ける限り、経済不況はまた再び起きる。
ウッズ博士は、連邦政府が持続不可能なバブル景気とその崩壊をいかにして導いたかについて、大変重要な本を書いたと言える。さらに、ウッズは、ブッシュ前大統領とオバマ大統領が行った金融危機に対処するための政策についても書いている。彼らは、政府による金融機関の救済を行い、政府支出と借金を増やし、貸し出しを緩和しようとしている。『金融溶解(メルトダウン)』を読んだあと、読者であるあなたは、自由を守り、真の変革を達成するために活動する兵士となるための「基礎訓練」が終わった、と言える。読者であるあなたは、約一世紀の間、国家中心主義にからめ取られたアメリカを自由にし、真の変革をもたらすことができるのだ。
Economic Policy Journal.com
2009年2月14日
書評:トーマス・E・ウッズ・ジュニア『メルトダウン』
ロバート・ウェンゼル
景気循環(business cycle)について、人々は何も知らない。たとえ大学を卒業していても何も知らない。これは悲しいことだ。もっと悲しいのは、オーストリア学派の景気循環理論について、多くの経済学者が理解していないことだ。ノーベル経済学賞を受賞した、偉大な経済学者フリードリッヒ・ハイエク(Friedrich Hayek)が、この理論を打ち立てたというのに、誰も関心を払ってこなかった。
今回の経済危機の原因はどこにあるのか、という点について、多くのレポートが出され、主流派メディアで報道されているが、その内容は矛盾し、混乱している。それは、オーストリア学派の景気循環理論をメディアに携わる人々は誰も理解していないからだ。もし主流派メディアの情報だけで今回の経済危機を理解しようとしても、それは無理な話である。そんなことをしたら、経済危機の全体像の半分も理解できないことになる。大げさな言い方だが、本当にそうなのだ。信じて欲しい。
トーマス・E・ウッズ・ジュニア(Thomas E. Woods Jr.)著『金融溶解(メルトダウン)』は、オーストリア学派の景気循環理論への無理解に警告を発する書である。ウッズは、現在の経済危機に関する誤った主張や考えを取り上げている。ウッズは、本書『金融溶解』の中で、今回の経済危機を時系列的に分析している。彼は、住宅バブルをまず取り上げ、その後、ウォール街の大手金融機関の救済策、そして、政府による景気対策を取り上げている。それぞれの段階で、ウッズは、現在広く受け入れられている神話を一刀両断にし、それぞれが起きた本当の原因は何なのかを明らかにしている。
ウッズは、景気循環について説明している。また、彼は、中央銀行による通貨供給量の操作によって、景気循環が起きることを明確にしている。オーストリア学派の景気循環理論について書かれている第四章があるだけでも、この本は称賛に値する。
また、ウッズは、歴史を振り返り、大恐慌を含む過去のバブルとその崩壊を分析し、それらがどうして起きたのかを明らかにしている。
ウッズは、経済における通貨の役割についての説明から結論を導き出している。そして、現在の経済危機から脱出し、経済を健全な基盤の上に再構築するための、解決法を提示する。
この本から学ぶことは多くあり、多くの人々が読むべきだ。
もし読者の皆さんが世界について好奇心があるなら、そして、現在のアメリカを心配しているなら、この本は経済学的な視点から、世界がどのように動いているかを説明していて、皆さんを満足させるだろう。読者の皆さんが、ビジネスマン、投資家、住宅の購入を考えている人なら、この本を読むことで、景気循環を理解し、人生における重要な決断を下す際の助けとなるであろう。皆さんは、経済がいかに人生に影響を与えるかを理解することができるようになるのだ。
今この記事を読んでいるあなたが新聞記者なら、この本を読むことで、同僚に比べ、経済に対する理解が進み、自分の記事の読者に重要な示唆を与えられるようになる。
もし読者であるあなたがバラク・オバマ大統領なら、この本を読まなければならない。そして、政策立案のヒントを得なければならない。それは、今、現在あなたの周りにいる顧問たちは、経済をもっと悪化させる助言しかしないからだ。
簡単に言うと、この本を読み、その内容をちゃんと理解した人は誰でも、アメリカ人の中のトップ1パーセントに入るということだ。なぜなら、その人々は、現在の経済危機の原因を正しく理解しているからだ。そして、彼らは景気循環がどのように動いているかを正しく理解しているという点からも、アメリカ人のトップ1パーセントに入っていると言ってよい。
(おわり)