「217」 論文 核融合と「進歩の観念」(2) 鴨川光(かもがわひろし)筆 2013年8月26日

●核融合、ニュークリア・フュージョンは核物理学応用技術の最終解決である

 原爆は、核反応エネルギーを利用した兵器としては、中途段階のものであったように、原発も最終的エネルギー革命の中間過程に過ぎない。

 原爆は既に六〇年前には、水爆の起爆装置としての役割しか果たさなくなっている。つまり、原爆=核分裂技術は、爆弾のただの信管部分でしかないのだ。

 水爆とは、原爆を起爆剤として、ガス爆発のように水素に引火させて爆発させているわけではない。つまり、福島第一原発事故で騒がれた水素爆発をさせているわけではない。

 水爆のあの途方もないエネルギーは、水素に核融合反応を起こさせているのだ。その際に、膨大な熱エネルギーで原子核を加速し、核融合の超高速連鎖を誘発させているのである。そのために水爆には起爆装置として原爆が仕込まれているのだ。水爆は破壊が目的だから、この爆発の際、何の制御もいらないから、無分別に爆発の勢いに任せてしまえばいい。

 つまり兵器として核を考えた場合であっても、核分裂エネルギーは小規模で中途半端。原子力爆弾は、大量破壊兵器開発の最終段階ではなく、その中途の過程でしかなかったことがわかる。

 核融合は核分裂とは比較にならないエネルギーを出す。ビキニ環礁などの実験映像と、広島・長崎でのキノコ雲の規模を見ただけでも、二つの爆弾の破壊力規模の違いがわかるだろう。

 核融合を実証するのは不可能だという人がいたら、それは大間抜けである。地上での核融合は、この水爆によって六〇年以上前に実証された。あとは、実用的な制御核融合の可能性追求が残されているのみ。そして、これによって、人類のエネルギー問題、環境問題も含めてすべてが解決される。

 自然環境エネルギーを複合的に活用したスマート・エネルギー・システムは、核融合実用化までのつなぎであり、それを迎え入れるための土台である。自然エネルギー活用―太陽光、太陽熱、バイオマスが中心。地域的には風力、地熱―と火力、天然ガスというエネルギー群に原子力発電。これが核融合に取って代られる。

 この核融合はどうも、実用化へのスケジュールが決まっているようだ。最短でも二〇三〇年。二〇五〇年には確実に実用化、平常運転可能となる。奇妙なことに、脱原発宣言をしたドイツ、デンマークの完全撤廃期限とほぼ時期が一致する。ひょっとしたら、もっと早いかもしれない。

 二〇二〇年代には、核融合を一部だけ実用化してしまうかもしれない。核融合は、予算、つまり、経済とそれ以上に政治問題が深く絡む。

●核融合とは

 では核融合とは何なのか。これからそれをお話しします。私の一連のエネルギー文章は、おそらく既に論文教室に既出であろう天然ガスとスマート・エネルギーに関する文章と、これまでの原発に関する私の意見表明。そしてこれから、次の四部の構成で書いていきます。

一「核融合の仕組み」
二「核融合の歴史」
三「核融合の政治学」
四「進歩の観念」

 先ずは「核融合の仕組み」です。核融合とは、軽い元素(エレメンツelementsという)同士が激しくぶつかりあり、そのまま離れず融合し(これをフュージョンfusionという。核分裂はフィッションnuclear fission)、より重い元素に変わることを言う。

 より重い元素とは鉄にまで至る。この衝突の際に、エネルギーが放出される。それで水を沸騰させてタービンを回す。燃料が石炭の燃焼から核利用に変わっただけで、ジェームズ・ワットの蒸気機関から何も変わっていない。つまり、蒸気機関からの進歩の流れなのである。

 この事実を無視して、風力や太陽熱にだけ頼るという思想は甚だ(はなはだ)脆弱であり、強烈な時代の流れには絶対に抗(あらが)えないのである。

 核融合も、原発や原爆で行われる核分裂と同じく、核反応である。では、ウランやプルトニウムのような重い固体の元素を使うのかというと、そうではない。

●核融合の基本―水素同士の核融合

 核融合の基本は、気体同士の融合であり、最も軽い元素である水素同士の融合が一番「純粋な」核融合である。太陽の炎とエネルギーはこの水素同士の、本当の、素のぶつかり合いによって生み出されている。

 水素は原子核が陽子(プロトンproton)と、電子(エレクトロンelectron)の一つずつだけを持つ、最も単純な構成の元素である。原子、アトム(atom)というが、今は元素と言った方がいい。

 原子とは元々それ以上分かつことの出来ない最小単位という意味で、水素とかヘリウムといったものを原子というが、原子自体が複数のもので構成されているため、厳密には原子とは言えないからだ。

 今現在、物質の最小単位の意味で使われている言葉は、素粒子(elementary particle)である。素粒子がかつての原子の意味に取って代られている。ちなみに現在、物質の最小単位だと考えられているのは、クオーク(quark)である。

 元素(=原子)の構成とは、原子核とその周囲を周っていると言われている電子(エレクトロン)で成り立っている。水素は最小の原子で、原子核は陽子だけであるが、原子番号二番目のヘリウムは原子核に陽子二つと、中性子(neutron)を二つ持っている。

 中性子とは、陽子からプラス電子を抜いたものである。電気的に中性、ニュートラルだから中性子という。

 原子とは+電気を持つ陽子と、電荷(プラスかマイナスの電気を帯びていること)のない中性子(この原子核を構成する陽子と中性子のことを、「核子(かくし)」、ニュークレオンという)、そして、プラス電気の陽子と同数のマイナス電気を帯びた電子の三つから成っている。

 原子番号というのは、この陽子の数のことであり、陽子と中性子の数を足したものが原子の質量(重さ)である。だから陽子が二つ、中性子が二つのヘリウムは、2(4)Heと表記する。読み方は、左上の4が質量数(陽子×2+中性子×2=4)で、左下の2が陽子の数で電荷のこと。この場合は電荷が2である。Heはヘリウムの略記である。

 太陽の中で行われている核融合の最も単純な反応は、水素と水素が衝突して、二重水素になる反応である。二重水素のことを「デュートリウム」という。「デュー(due)」というのは「ツー two 」という意味。

 この水素同士の核融合反応のことを、化学式では

H + H → D

と書く。もっと正確に書くと、

H + H → D + β+ + ν

となる。Hは水素。Dはデュートリウム、二重水素である。二重水素の別の表記の仕方は1(2)Hである。

 この式を一つ一つ説明する。

 βはベータ線のことで、これは放射線、ラディエイション(radiation)の一つである。ベータ線の正体は、水素の核にある。水素の原子核とは陽子。その陽子には「プラス電気」が帯びている。これがベータ線の正体である。だからベータ線、β+線は、陽電子(ポジトロンpositron)という。

 原子核の周りを周回している「電子」(エレクトロン。こちらはマイナス電気を帯びている)の反物質である。

 元素は、このベータ線と電子のプラスマイナスのバランスがとれた状態で存在している。この両者がバラバラになった状態のことを、物質の「第四の状態」、イオンという。

 化学式最後のν(ニュー)は、カミオカンデで一躍有名になった、ニュートリノ(neutrino)のことである。これは六種類ある素粒子の一つである。ベータ線は、これこそが放射線、ラディエイションである。

 だから太陽は、核融合をすることによって、絶えずニュートリノを放出している。これを、純水(ピュア・ウォーター、「ウルトラ」のついた「超純水」というのを使っているらしい)を貯めた巨大な水槽で、何とかとらえることに成功したのが、カミオカンデなのである。

 カミオカンデとは、この「陽子崩壊」を実証するために、建造された施設である。それは一九八七年に、ニュートリノの検出に成功したことで実証された。

 二〇〇二年に小柴昌俊(こしばまさとし)東大特別栄誉教授が、ノーベル物理学賞を受賞したのは、この業績によるもの。

 地上では不可能な水素同士の核融合の際に放出されるニュートリノを発見したという業績が、どれだけ意味のあるものかどうかは、私のこの文章を読んで、各人が判断してほしいと思います。

 こうした素粒子の研究施設の最大のものが、欧州のCERN(セルン)だが、九〇年代で、核融合の予算に比べ、百倍あったそうである。それを聞いた核融合技術者たちは一様に、ムスッとしたらしい。史上最大のヒマつぶし、とも言われる。

 二重水素というのは、重水素とも言われ(日本では一般的にそちらの言葉を使っているようだ)、水素の同位体である。二重水素、デュートリウムは、化学記号では1(2)Hと書く。左上の2とは、質量が2(核子―原子核を構成する陽子と中性子―が二つ)、左下の1とは電荷が1(プラス電気を負うことで、陽子が一つということ)。

 本来、原子核は、陽子1個のはずの水素が、陽子1個と中性子1個で出来ている。二重水素は、水素の同位体、アイソトープである。

 通常は、陽子一つだけの水素原子核が、陽子と中性子の二つで出来ているわけである。化学記号を言葉にして式にすると、

「水素 + 水素 → 重水素 + ベータ線(陽電子、ベータ粒子ともいう)+ ニュートリノ」

である。

 二重水素 = 1(2)H はp1, n1 ( p はプロトン=陽子、n はニュートロン=中性子 )と書くことも出来る。これが太陽の中で行われている核融合であり、この時に膨大なエネルギーが放出される。

●太陽での核融合の不思議―β(ベータ)崩壊

 ここで一つ疑問が出てくる。二重水素は「水素 + 水素」、言い換えると「陽子1個 + 陽子1個」で出来るのに、なぜ二重水素の核は陽子が二つではないのだろうか。元素記号では 2(2)Hとなるはずなのに、なぜそうではないのだろうか。それまでに存在しなかった中性子がなぜここに出てくるのか。H + Hの化学式のどこにもn、中性子はなかったはずである。水素には中性子はないはずだ。

 「H + H反応」の後には、ベータ線が飛び出てくる。このベータ線の正体は、プラス電気を帯びた素粒子の一つ、ベータ粒子=陽電子(ポジトロン)であったのを覚えているだろうか。

 この陽電子は、元々、二つのうちの片方の水素の陽子に帯びていたプラス電気である。これは電荷(電気を持っている状態)と言う。つまり、片方の水素の原子核である陽子が、核融合の衝突で電荷を失って中性子になったのである。これを「陽電子崩壊」または「ベータ崩壊」という。

 このβ崩壊がいわゆる、放射能(ラディオアクティヴradioactive、アクティヴィティradioactivity)と言われる現象である。放射性という現象は、物質がベータ粒子やアルファ粒子を放出して崩壊し、別の物質に自然に変換していくことを指す。

 放射性を発しやすい不安定な物質のことを、放射性物質と言う。このような自然に崩壊していく物質は、鉛より重い物質からである。ウラン、プルトニウムのことだ。こうして自然に放射線を出して崩壊していく期間を半減期と言う。

 太陽の中では、この「水素+水素」の核融合反応が行われ、地球に届く熱と光となっている。当然、その時、太陽からベータ線も一緒に地球に届くが、電離帯、つまりヴァン・アレン帯で遮断されるし、ベータ線そのものが人体に及ぼす影響は極めて小さい。

●実用熱核融合の本質―質量欠損(しつりょうけっそん)

 ここからが核融合の本質である。

 水素同士の核融合は、太陽でしか行われ得ない。地球上では実現不可能である。なぜなら、あれ程軽い陽子同士がぶつかり合って、たがいに反発するのを物ともせず、しっかりと結合するためには、地球の二八倍とも言われる太陽の重力による「制御」が必要だからである。さらに、太陽のあれだけの巨大な半径が無くては、陽子同士が外に逃げ出してしまう。

 陽子はプラス電気である。同じ電気を持つもの同士は引かれ合うことがない。反発し合うのだ。磁石のS極とN極のようにお互いを背け合う。

 では、地上で行われる核融合はどうすれば可能なのか。これには水素の同位体、アイソトープである二重水素(デュートリウム。元素記号D )と三重水素(トリチウムtritium。元素記号T )を使う。これを「D – T 反応」という。

 この水素同位体同士の反応によって、ヘリウムを生み出す。陽子がニュートリノとベータ線を放出して、中性子という別の物質に変換される「β崩壊」を伴う太陽の核融合と違い、地上での実用熱核融合の基本は、水素からヘリウムを作り出すことである。二つの核融合は異なる現象であり、二つの理論は異なる。

 では、ヘリウムが熱エネルギーを出してくれるのかというと、それは違う。そこで「質量欠損」(しつりょうけっそん)という考え方が出てくる。

 「質量欠損」の基本的な考え方は、「ヘリウム原子核」の質量を考えることである。陽子2個と中性子2個で出来ているヘリウム原子核は、その4つの核子の和よりも、なぜか小さい。そこに質量が足りないという「質量欠損」という事実が観測された。

 そこでまず「D – T 反応」の説明の前に、核融合における質量欠損のより基本的なモデルとして「二つの陽子と二つの中性子から、ヘリウムが作られる場合」のことを考えてみる必要がある。

 ヘリウム( 2(4)He )の原子核は、二個の陽子( p プロトン)と二個の中性子( n ニュートロン)から成っている。これらの核子(ニュークレオンという)の間に「核力」が働いて、一つの原子核を構成する。

 「核力」とは、「バインディング・エナジーbinding energy」、日本語で一般的に「結合エネルギー」と言っている。これが核反応で生ずるエネルギーそのものである。

 私たちが発電に利用したいと思っているエネルギーは、この陽子や中性子などを結び付けているエネルギーなのである。

 さて、「質量欠損」とは、その名の示す通り、原子核の質量が損なわれることである。一部の質量が消え、核融合後の原子核の質量が小さくなる、軽くなることである。

 陽子の質量、つまり重さは、1.0072766 amuであり、中性子は1.0086654 amuである。

 amuという単位は「(ユニファイド)アトミック・マス・ユニット」( unified ) atomic mass unit の略で、訳語は「原子質量単位」。1 amu は1.66043 × 10-27 kg(10のマイナス27乗)である。昔はドルトン dalton という単位が使われていた。

 一方、ヘリウムの原子核、つまり陽子2個と中性子2個で出来た原子核の質量は、4.001506 amu 。しかし、「陽子×2個と中性子×2個」の質量は、4.0318840 amuになるはずである。

 ヘリウムの核(陽子×2、中性子×2、ヘリウム・イオン、アルファ粒子 = アルファ線と言う)は、本来、陽子と中性子を足した分だけの質量より0.030378 amuだけ小さい。これはおかしい。

 この足りない質量の部分のことを「質量欠損」と言う。これを ?moで表す。?という記号は「増分(ぞうぶん)」「インクレメント」increment と言う。

 ?mo のmは「マス」massで「質量、重さ」。oは「物質(オブジェクトobject )のことで、このoが陽子pだとしたらmp 、中性子nならmnになる。ここでは特定の物質を指定していないので、moと表記している。

 つまり、核が衝突した後、物質が消えて不明なまま、0.030378 amu分の質量の「増分」(実際にはエネルギーとなって消えている)という訳である。

 ここにアインシュタインの有名な「質量保存の式」、E = mc2 が登場する。

 先程、太陽の核融合と地上核融合では、根本的に理論が違うといったが、それがこの「質量保存」というロジックである。太陽の「H – H 反応」では質量は変換されるが(β崩壊のこと)、地上での「D – T 反応」では、質量が保存されるということだ。

 質量保存の式、E = mc2 のE はエネルギー、m はmass(質量)、c は光速である。つまり、「エネルギー = ものの重さ(量)× 光速の二乗」という意味である。

 質量はエネルギーとなって、変換されただけで、消えたわけではない。質量は、保存(コンサヴヴェイション conservation )されたままなのだ、という意味の公式である

 このE = mc2 のm にさっきの ?mo を当てはめると、E = ?moc2 となる。つまりE = ?moc2 というエネルギーが放出されたのである。これが質量保存の正体であり、バインディング・エナジー、原子核同士を結び付ける力が放出されたわけである。バインディング・エナジーこそが、核融合エネルギーそのものである。

 ブリタニカには、バインディング・エナジーの次のような式が書かれている。

B = [ Zmp + Nmn – M ( Z, N ) ] c2

 この公式の元は、やはりさっきのE = mc2 である。Eがこの式のBで、Bはバインディング・エナジーである。つまり、この式の意味は「B、バインディング・エナジーは、ある質量 × 光速の二乗」で求められる、ということである。

 [  ]の中が ある物質 m の質量である。[  ]内のZは、原子番号のことであり、つまり陽子の数のことである。数字で表した元素名と言ってもいい。Nは中性子の数。 mp の p はプロトンで、mp で陽子の質量のこと。mn は n が中性子だから mn で中性子の質量である。

 最後のM ( Z, N ) は、カッコ内のZが陽子でNが中性子。Mがある物質の質量で、「陽子と中性子を持った物質の質量」と言う意味である。「ある元素の原子核の重さ」と言うことである。

 この式にさっきの「 陽子×2+中性子×2 」と「ヘリウム原子核」( =「陽子×2+中性子×2」)を当てはめると、

結合エネルギー = [ 陽子 × 2個 + 中性子 × 2個 − ヘリウム原子核( いいかえると陽子2個、中性子2個 )] × 光速の二乗

となる。つまり、「四つの核子」から「四つの核子」を引いたらゼロになるはずなのに、この「四つが結合した核子=ヘリウム原子核」を引いた場合は、ゼロにならずに「余り」が出てくるのである。

 この「余り」に光速( 上記の式の記号ではc )の2乗をかけると、核エネルギー(結合エネルギー、バインディング・エナジー)となる、という意味である。

 ブリタニカによれば、この結合エネルギーは、核子一つにつき8.8 MeVだという。

 MeVとは「メガ・エレクトロン・ボルト」といって、素粒子、原子核、原子、分子などから出るエネルギーを測る単位である。単位記号はeV (エレクトロン・ボルト)。MeVは、その100万倍の106 eV(10の6乗)である。これが10の9乗、109 eV だと、ギガ・エレクトロン・ボルトになる。10億倍である。

 水素( H2 )が酸素( O2 )と化学反応を起こして水( H2O )になる際に放出されるエネルギーは2.96 eVである。ウランなどの重い原子核が分裂する際に出るエネルギーは200 MeV 程度(平均エネルギーは約2 MeV )。

 そこで、では実際に、このヘリウム原子核の質量欠損で放出されるエネルギーの計算を私がやってみよう。

●自分で「質量欠損」を計算してみる

 ヘリウム原子核の質量欠損で放出されるエネルギーは、核子一つにつき8.8 MeVだと「物理学大辞典」(丸善)に書かれていた。核子一つにつきということは、ヘリウムを構成するには4個の核子が結合するわけだから、

8.8 MeV × 核子4個 = 35.2 MeV

ということになる。

 それでは本当にそうなのか自分で検証してみる。この際、筑波大学大学院システム情報工学研究科構造エネルギー工学専攻の熱流体制御研究室「阿部豊(あべゆたか)研究室」のホームページを参照する。

熱流体制御研究室「阿部豊研究室」のホームページURL

http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~abe/exe-nuclear/nuclear01.pdf#search='%E3%83%98%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0+%E8%B3%AA%E9%87%8F%E6%AC%A0%E6%90%8D'

●原子質量単位1amuのMeVから求めてみる

 まず1 amuのメガ・アトミック・ボルトがいくらなのかがわからなければならない。メガ・アトミック・ボルトが核融合エネルギーである、結合エネルギーを示す単位である。amuというのは原子質量単位(アトミック・マス・ユニット)。原子の重さを表す。重さをエネルギーに換算しなければならない。

1amuは、
1 amu = 1.6605655 × 10-24(g)

である。

g はグラム。1.6605655グラムのマイナス24乗である。マイナス24乗ということは、桁がその分小さくなっていく。マイナス24乗分の1。24桁小さくなっているということ。0.00000・・・・が24個付くということだ。

 エネルギーの計算は質量に光速の二乗をかけることで求める。つまり、アインシュタインの質量保存の法則E = mc2 に当てはめる。

 光速 c は、2.997925 × 1010 ( cm/s )である。1秒間に2.997925の10の10乗倍のスピードという前提である。つまり約秒速30万キロである。よく言われる、「光は一秒で地球を七周り半周回する」「地球から月へ三往復半する」と言われるあれだ。

 この二つの数値、1 amu = 1.6605655 × 10-24 ( g )と、光速2.997925 × 1010 ( cm/s )をE = mc2 に代入して計算すると、

 = ( 1.6605655 × 10-24 ) × ( 2.997925 × 1010 )2
 = 1.492443 × 10-3 ( erg )

となっていたが、私が実際にやってみたら(といってもヤフーの計算機能に打ち込んでみただけだが。検索ボックスに 2 + 2 といれると、4 とでてくる機能が追加されている)、1.49244226 × 10-3 だった。これは計算ミスだろう。小数第6位の3はわたしがやった226の切り上げには足りないし、あとの計算もこちらの方でつじつまが合う。よって、1 amu 分のエネルギー( erg )は、1.49244226 × 10-3 が正確である。

 欠損した質量をMeVで算出しなければならないから、次にMeVのエネルギー( erg )を出しておかなければならない。だが、MeVはメガ・エレクトロ・ボルトで、eV、エレクトロ・ボルトの百万倍である。

 1 eVでいくと、エネルギーは、1.6021892 × 10-12  ( erg ) である。

(著者注記:これから erg 「エルグ」という単位が出てくるが、これはエネルギーを表す単位である。熱量、運動量も同じ。一般にエネルギーを表す単位はジュール( J, joule )だが、 原子力などの熱量を表す時はこちらが良く使われる。というのも、原子力エネルギーは、一般の熱量よりもはるかに小さいためだろう。1ジュールは10の7乗エルグである。)

 それでは、原子質量単位1 amuのエネルギー 1.49244226 × 10-3 ( erg ) は、1 eV中のいくらかというと、

E = ( 1.49244226 × 10-3 )(erg) ÷ ( 1.6021892 × 10-12 )(erg)
=9.31501885 ×108 (eV)
= 931.501885 (MeV)

である。(阿部氏の問題の計算は、931.5019 amu。どう見ても、私が計算で出した末尾三桁の885を四捨五入して9にしたとしか思えない。 )

 原子質量単位1 amu のエネルギーは、931.501885 メガ・エレクトロン・ボルトである。このエネルギーを、ヘリウムの質量欠損にかければ、ヘリウムが融合された際に放出されたエネルギー(バインディング・エナジー、結合エネルギー)、つまり核融合で生み出されるエネルギーが算出できる。

●ヘリウムの結合エネルギー(ヘリウム融合の際の核融合エネルギー)算出

 ここでさっきの「バインディング・エナジー」計算式が出てくる。この式である。

B = [ Zmp + Nmn – M ( Z, N ) ] c2

(著者注記:B はバインディング・エナジー。Zは元素番号で=陽子の数。mp は陽子の質料。Nは中性子の数。mnは中性子の質料。Mは元素の質料。この場合はヘリウム。カッコは「このカッコ内の陽子と中性子の数でこの元素は出来ていますよ」という意味。)

上の式を言葉で言い換えると、

結合エネルギー =[ 陽子の質料 × 2 + 中性子の質料 × 2 − ヘリウム原子核の質量( 陽子2個、中性子2個で出来ている )] × 光速の二乗

という意味である。

 筑波大学の阿部豊教授は、ここで以下に示す式を使っていいとしている。

(著者注記:阿部氏の「質量欠損」の一連計算は、PDFファイルとして一般公開されているが、どうやら学生のテスト問題として作成したもので、おそらくは公開するためのものではないだろう。上位のファイルがforbidden となっている。よってそのうち消されるかもしれない。)

?M = 931.5 × ( 1.007825 Z + 1.008665 ( A – Z ) – M ( A, Z ) )

 先ず一つ一つ説明していく。

 ここにいきなり「 ?M 」という記号が出てくる。これは先に出てきた「 ?mo 」と同じものである。

 ?は「増分」といって、質量欠損分のエネルギー。つまり、バインディング・エナジーのことで、最終的に「メガ・エレクトロン・ボルト、MeV 」で計算結果を表しますよ、という意味。

 次の数値931.5は、先程の計算で出した1原子質量単位( amu )でのメガ・エレクトロン・ボルトの数値、931.501885の小数第三位以下を切り捨てたものである。

 カッコの中の数字、1.007825は陽子の質料 amu である。 次のZは原子番号で陽子の数。2を代入する。1.008665は中性子の質料 amu 。( A – Z ) は、Aが原子の質料で、この場合は、ヘリウム原子核の質量4。Zは陽子の数。だから ( A – Z ) は元々の式ではN、中性子の数のことである。

 ここまではいいのだが、次がブリタニカの式と違う。式の最後のM ( A, Z ) は、Mが元素の質料で、この場合はヘリウムの原子核質量。カッコ内は原子核の内訳で、Aが原子核質量で4、Zは陽子の数2。だから ( 4, 2 ) となる。

 ブリタニカの場合は ( Z, N ) となっていて、陽子の数と中性子の数のことだから、( 2, 2 )となる。ただし、結局これは核子が4個ありますよということで、計算とは関係ないからどちらの表記でもいいのだろう。

 さて、このM(ヘリウム原子核の質量)に、4.00260 amuを入れる。そうすると、

?M = 931.5 × ( 1.007825 Z + 1.008665 ( 4 – 2 ) – 4.00260 ( 4, 2 ) )

となり、答えは28.29897 amu である。(ウィキペディアにはヘリウム原子核質量は4.002602 amu とある。それで計算すると28.297107 amu いずれにしろ小数第三位の違いで、理論モデルという範疇では、無視出来る近似値であろう。)

 ところが、阿部教授の解答を見ると、5.485802 ×10-4 という見慣れぬ数値がいきなり書き込まれているものだから、また再び面食らう。これは調べてみると、電子の質料だった。原子核の周りをまわる電子の質料も入れての計算をしている。

 電子の質料は、非常に微量であるし、無視してよい数値なので入れないものだと思っていたのだが、なぜか入れるようだ。でも、原子核だけの融合であるのに、なぜ電子を入れるのか理解に苦しむ。

 そもそも核融合自体、イオン化した状態、言い換えると電離した状態で行われる。これは、電子と原子核が分離した状態のことなのだから、電子の質量を計算に含む必然性の理解に苦しむ。ただしあくまでモデルなのだし、これのほうが正確ということみたいだから、それを入れて計算してみる。

?M = 931.5 × ( 1.007276 + ( 5.485802 ×10-4 ) 2 + 1.008665 ( 4 – 2 ) – M ( 4, 2 ) )
= 931.5 × ( 1.00782458 × 2 + 1.008665 × 2  – 4.00260 ( 4, 2 ) )

となり、答えは、28.2981875 MeV である。(ヘリウム質量を4.002602 amu で計算すると、28.2963245MeV )

 これでいい。一件落着と言いたいが、もう一つ変なことがある。質量に光速の二乗をかければ、それでエネルギーが算出できるのはわかる。E = mc2 なのだから。 だから上の式は、

= 931.5 × ( 1.00782458 × 2 + 1.008665 × 2  – 4.00260 ( 4, 2 ) )

じゃなくて、931.5を光速の二乗に代えて、

= ( 2.997925 × 1010 )2 × ( 1.00782458 × 2 + 1.008665 × 2 – 4.00260 ( 4, 2 ) )
= 2.7303435 × 1019

となるべきである

 ところがこれではただの「エネルギー( erg )」の単位である。ジュール joule と同じである。 これをメガ・エレクトロン・ボルト、MeVに直さなければならない。

 そこで原子質量単位1amuの質量 1.6605655 × 10-24 (g) を、光速の二乗 ( 2.997925 × 1010 )2 にかけて(これがさっきのE = mc2の式)、1 amuのエネルギーを出す。これをさっきやったように1 eV のエネルギー1.6021892 × 10-12  ( erg ) で割って、MeV換算に直したものが、931.501885 ( MeV )である。

 これが931.5である。つまり931.5とは原子質量単位1amuのエネルギーをMeV換算した式から算出した定数である。

 だから端折(はしょ)らないで式を立てると

(1.6605655 × 10-24) × ( 2.997925 × 1010 )2 ÷
 1.6021892 × 10-12 × ( 1.00782458 × 2 + 1.008665 × 2  – 4.00260 ( 4, 2 ) )

= 28.2981875 MeV

である。これで完成。完璧にヘリウムの質量欠損=バインディング・エナジーのメガ・エレクトロン・ボルトが算出できた。

 さらに阿部教授は、これをヘリウムの原子番号(質量数。陽子と中性子の数。つまり4個)で割れと言う。つまり、核子一つ当たりのMeVを出せということである。

28.2981875 MeV ÷ 4(核子四つ) = 7.07454688 MeV

である。ブリタニカには約8.8 MeVとあったから、私の検証から言えば、ブリタニカは約1.8 MeV 間違っているということになる。さて、ここまでが質量欠損のヘリウムを使ったモデルである。

 このエネルギーがどれほどのものかというと、核分裂(原爆と原発)で使われるウラン235で、上記と同じ計算で、核子一つ当たりのメガ・エレクトロ・ボルトを出すと、

BE / A (バインディング・エナジーをウランの235個の核子で割るという意味)= 931.5 ÷ A(ウラン235の質量数) × ( 1.007825 Z + 1.008665 ( A – Z ) – M(A, Z) )

BE / A = 931.5 ÷ 235 × ( 1.007825 × 92 + 1.008665 × 143 − 235.0439 )
= 7.59111061 MeV

となる。

 核融合のバインディング・エナジーが核子一つ当たり約7.08 MeVで、核分裂が約7.59 MeVであるから、これはほとんど差がない。核融合と核分裂の出す、核子一つ当たりのエネルギーには差がないということである。

 では、実際の核融合での質量欠損部分、放出される結合エネルギーは、一体どれくらいなのであろうか。

(つづく)